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西宮労基署長(K学園)頚肩腕症候群療養給付不支給事件
- 事件の分類
- 職業性疾病
- 事件名
- 西宮労基署長(K学園)頚肩腕症候群療養給付不支給事件
- 事件番号
- 神戸地裁 − 昭和60年(行ウ)第9号
- 当事者
- 原告 個人1名
被告 西宮労働基準監督署長 - 業種
- 公務
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1989年03月14日
- 判決決定区分
- 認容
- 事件の概要
- 原告は、昭和51年2月から社会福祉法人K福祉センターK学園に児童指導員として採用され、重度精神薄弱児の生活指導等の業務に従事してきた者である。
原告は、昭和52年頃から腰、肩にしびれを自覚するようになり、定期健診において「筋々膜性腰痛症、頚肩腕症候群」と診断された。更に昭和53年6月頃、右頸部、肩の疼痛をきたすとともに、腰部に激痛を覚え診断を受けたところ、「腰痛症、頚肩腕障害」と診断され、以来休業加療することになった。そこで原告は被告に対し、労災保険法に基づき休業補償給付の請求をしたところ、原告は「腰痛症」のみ業務上の事由によるものと認めた。原告は、頚肩腕症候群も業務上の事由によるとして、療養保障費の支給を請求したところ、被告は昭和54年5月24日、右疾病は業務上の疾病ではないとして、療養費不支給の処分をした。原告はこの処分を不服として、兵庫労働者災害補償審査官に審査請求をし、更に労働保険審査会に対し再審査請求をしたが、同審査会は昭和59年10月27日、棄却の裁決をしたことから、原告はこれを不服として、処分の取消しを求めて提訴した。 - 主文
- 1 被告が原告に対し、昭和54年5月24日付けでなした労働者災害補償保険法による療養補償給付不支給処分を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。 - 判決要旨
- 原告らの従事していた業務内容は、着脱衣介助、排尿・排便の指導・介助、洗面介助、食事介助、作業・散歩の介助、歯磨き介助、入浴介助、夜尿起こしなどであり、キーパンチャーやタイピスト等とは異なり、業務の種類が多く、同一作業の反復ではなく、かつ身体の一部特に上肢のみを使用するものではなく全身労働であったから、業務自体が頚肩腕症候群を発症させる典型的な作業とはいえないものと認められ、したがって、その業務起因性の有無を判断するには、原告らの業務内容につき個別的な検討が要求されるわけである。そして、右検討に際しては、単に作業態様、従事期間及び業務量だけでなく、特に上肢の動的・静的筋労作がどの程度含まれているかを問題とすべきであると解される。
原告の勤務形態は、日勤務・早出勤務・遅出勤務・職直勤務となっており、宿直業務の過重性を考慮に入れるとしても、就労日数の点では原告の業務負担量が他の同僚労働者に比して顕著に過重であったとはにわかには認め難い。しかし、甲山学園の保母・児童指導員に当時頚肩腕症候群に罹患した者が多数存在し、うち4名は業務上の認定を受けていることからすると、甲山学園における保母・指導員の業務量自体がそもそも過重であったということができ、他の同僚労働者と比較して原告の業務量が著しく多くないとの一事をもって、原告の頚肩腕症候群の業務起因性を否定する根拠とすることは相当ではない。
当時、甲山学園における児童はほとんどが重度の精神薄弱児であって、その数は27人であり、産休・退職・起訴休職等のため、昭和53年初め頃から保母・指導員の実働人員が急激に減少したことが認められ、この事実からすると、昭和51年から昭和53年当時においては、甲山学園における園児収容人員が定員を超え、重度障害児の占める割合が異常に高く、かつ保母等の確保が諸事情から困難を極めていた等の情況にあったというべきであって、そうすると、当時甲山学園における保母・指導員1人当たりの児童数が被告主張のとおり約2名であったことのみをもって、当時保母・指導員が実質上十分に確保されていたものとは到底いうことができないところである。
原告は、甲山学園に就職した当時、何ら頚肩腕症候群を疑わしめる症状はなかったことが認められ、昭和51年2月以降において、原告に頚肩腕症候群を発症せしめる要因は、甲山学園における労務を除いて他に何ら窺い得ないし、更に昭和52年頃の甲山学園の保母・指導員の多くが、その程度はともかく頚肩腕症候群に罹患しており、その症状は共通のものであったことを認定できる。
以上認定した原告の業務内容、原告の勤務状況、原告が従事していた期間における甲山学園の特殊性、原告の肉体的条件、原告の頚肩腕症候群につき考えられる他の要因はないこと、甲山学園に従事する保母・指導員で頚肩腕症候群につき業務上認定を受けた者と原告との業務内容等の比較、甲山学園が頚肩腕症候群の多発職場であること、業務起因性を肯定する有力な医証も存在すること等を総合して考えると、原告の頚肩腕症候群は甲山学園における指導員としての業務に起因して発症したものというべきである。したがって、本件処分は事実の誤認に基づく違法なものであって、取消すのが相当である。 - 適用法規・条文
- 労働者災害補償保険法13条
- 収録文献(出典)
- 労働判例537号34頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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