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越谷市G保育所公務外認定処分取消請求事件

事件の分類
職業性疾病
事件名
越谷市G保育所公務外認定処分取消請求事件
事件番号
浦和地裁 − 昭和56年(行ウ)第4号
当事者
原告 個人1名
被告 地方公務員災害補償基金埼玉県支部長
業種
公務
判決・決定
判決
判決決定年月日
1989年08月04日
判決決定区分
認容
事件の概要
 原告は、昭和46年4月から越谷市G保育所に保母として勤務していた女性である。同保育所の幼児数は、昭和47年度は2名の保母で1歳児6人、昭和48年度は3名の保母で2歳児15名であったが、0歳児、1歳児のクラスの保母が休暇を取ると、2名の保母で2歳児15人の保育をすることもあった。
 原告は、昭和48年4月、ひどい腰痛が生じ、同年10月頃肩凝りを感じるようになり、昭和49年4月肩凝りが酷くなり、腰痛もしばしば起こり、瞼の痙攣や目の痛みが出現したことから診察を受けたところ、同年7月10日、過労性頸肩腕障害、過労性腰痛症と診断され、1ヶ月間病休した。その後も肩凝り、腰痛が完治せず、一時的には歩行もできないほどの腰痛に見舞われたことから、原告はこれらの疾病が保育業務に起因して発症したとして、昭和50年8月20日付けで地方公務員災害補償法により被告に対し給付の請求をしたところ、被告は原告に対し昭和51年4月20日付けで公務外の認定をした。そこで原告はこれを不服として、審査請求、更に再審査請求を行ったが、いずれも棄却の裁決を受けたことから、その処分の取消しを求めて提訴した。
主文
1 被告が昭和51年4月20日付けで原告に対してなした地方公務員災害補償法による公務外認定とした部分を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
判決要旨
 原告は、業務と疾病の間の因果関係の存否の判断に当たっては、被災者側が当該疾病発生と関連するに足りる業務に従事していた者であることと被災者に当該疾病が発症したということを証明すれば、被災者の右疾病が「業務上」の疾病でないと主張する者において、当該疾病が業務と関連性を有しないことを明確に証明しない限り「業務上」発症したものと推定されなければならないと主張する。しかしながら、当該疾病は当該業務に従事したときに発症するのが通常であるというようなものであれば格別、そうでない限り、原告主張のような推定はできないところ、原告に発症した症状が原告の担当した業務に従事すれば発症するのが通常であると認めるに足りる証拠はない。

 原告が昭和49年7月10日、過労性頸肩腕障害、過労性腰痛と診断されたことは当事者間に争いがないが、疲労というものは規定できないものであること、過労性疾患という形の頸肩腕障害、腰痛が医学会で確立された分類ではないことが認められるのみならず、病名に「過労性」という言葉を冠することは一般的には行われていないことが認められる。被告は、前記病名に関わらず、原告の症状について頸肩腕症候群、腰痛と認定し、その上でその発症と業務との因果関係の存否を検討し、因果関係が認められないとしたところである。
 原告の業務は、しゃがんだり、中腰の姿勢を続けたり、頭を前後左右に曲げたりすることを余儀なくされ、頚、肩、腕、手、背中、腰等に負荷を与え、その部分に凝り、だるさ、痛みを誘発し易いものであったことが認められる。労働環境、勤務状態等についても、統計数字等からは分かりにくい負担があったことが窺われる。そこで、原告の症状が公務に起因するかどうかについて考えるのに、原告は、越谷市に就職しG保育所において保母の業務に従事するようになってから前記のような症状が現われてきたこと、原告が業務を離れてからは首、肩、腕の症状が改善ないし消失したこと、原告と職場をともにする同僚保母の中にも腰、腕、背等の痛みを訴えるものが相当数おり、昭和49年当時15名中4名が病気となり、原告を除く3名の病名は、1人のそれは自律神経失調症、頸肩腕症候群、別の1人のそれは背痛、残りの1人のそれは背、腰痛であったことが認められる。そうすると、原告には前記のような疾病(気管支格張症)があったとはいえ、原告の頸肩腕症候群、腰痛の症状は公務に起因するというべきで、公務に「起因するとは認められないとした本件処分を是認できない。
適用法規・条文
地方公務員災害補償法
収録文献(出典)
労働判例549号62頁
その他特記事項
本件は控訴された。