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T保育所・I保育所公務外災害認定処分取消請求事件
- 事件の分類
- 職業性疾病
- 事件名
- T保育所・I保育所公務外災害認定処分取消請求事件
- 事件番号
- 大阪地裁 − 平成6年(行ウ)第22号
- 当事者
- 原告 個人1名
被告 地方公務員災害補償基金大阪府支部長 - 業種
- 公務
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1998年02月16日
- 判決決定区分
- 認容
- 事件の概要
- 原告は、昭和49年12月に東大阪市に保母として採用され、昭和50年4月に開設されるT保育所の開設準備業務に従事し、昭和54年3月まで同保育所で勤務した後、同年4月からI保育所に異動し、保育業務に従事した女性である。
原告は、昭和56年3月の特殊健康診断で要治療の判定を受け、受診の結果頸肩腕症候群と診断され、同年4月以降休職した。また同年5月には腰痛症とも診断された。原告は同年6月から通院しながら半日勤務に復帰し、同年9月から通院しながら全日勤務となり、昭和58年3月に完治した。原告は、頸肩腕症候群、腰痛症及び自律神経失調症につき、昭和56年4月16日付けで、被告に対し公務災害の認定請求をしたが、被告は平成2年1月、これらの疾病について公務外とする認定を行った。原告はこれを不服として、審査請求、更に再審査請求を行ったが、いずれも棄却されたため、被告の行った処分の取消を求めて提訴した。 - 主文
- 判決要旨
- 地方公務員災害補償法26条にいう「公務上の疾病」とは、疾病が公務を原因として発症したことをいい、そのためには、公務と当該疾病との間に相当因果関係があることを要するというべきである。腰痛症については、もとより単に原告が保育業務に従事していたというだけでは直ちにその公務起因性を認めることはできないし、また頸肩腕症候群を含む上肢障害については、平成9年2月の業務上外の認定基準の改正に伴い、保育業務が「上肢等の特定の部位に負担のかかる状態で行う作業」の1つとして示されるに至ったことが認められるが、その発生機序の未解明性、要因の多様性等に鑑みるとき、単に原告が保育業務に従事していたというだけでは、直ちにその公務起因性を認めることはできないというべきであるので、本件疾病が公務を原因として発症したものであるというためには、保育業務と健康障害の一般的な関連性、原告の担当した具体的業務内容、右業務が原告に与えた負担の内容、程度、原告の症状の経過等を仔細に検討し、右業務と本件疾病との間に相当因果関係があるかどうかを個別に判断する必要があるというべきである。
原告が担当した保母の業務は、それ自体上肢及び腰部に相当な負担のかかる業務であったと認めるべきである。また、原告が勤務していた鳥居保育所、石切保育所は、保育室が1つしかなく、食堂がなかったため、食事、午睡及び設定保育の度に机、椅子、布団等を素早く出し入れしなければならなかったこと、子供の身体を洗うための設備がなく、子供をモップ洗い槽に抱え上げて不自然な姿勢で洗わなければならなかったことが認められ、これらの事情は、原告の保育による上肢及び腰への負担を高めたものと考えられる。また、原告が昭和52年度、54年度、55年度に担当した障害児の保育においては、それぞれの作業が健常児の場合に比べて加重され、これに精神的負担も加わること、特に原告が昭和54年度・55年度に担当したAは重度の自閉的傾向を有する発達遅滞児であり、とりわけ多動かつ肉体的接触を好む児童であったことから、担当する保母は常に同人を追いかけ、抱きかかえたり、背負ったり、手を引いたりしなければならず、Aが20kg近い体重を有していたことを考えると、これが保母の上肢や腰に相当の負担を及ぼしたことが認められる。また東大阪市では、昭和49年頃から制度的に障害児を公立保育所で受け入れるようになったが、昭和54年、55年頃は、それに見合う施設の整備や研修体制の整備が行われないまま推移していたため、障害児を担当する保母に精神的に大きな負担を及ぼしていたことも認められる。
原告は、保母として勤務するまでは、肩凝りを経験することがなかったが、保母として勤務し始めて1年半程度が経過した昭和51年夏頃に上肢及び腰の症状が現れ、それは昭和52年頃増悪したものの、産休を取得している間に軽快し、職場に復帰して障害児を担当するようになると再び肩凝り、腰痛等が慢性化し、昭和54年5月から6月にかけて背部痛により一時欠勤を余儀なくされた。その欠勤の間症状が一時的に軽快したが、同年6月に職場に復帰して以降、同年12月頃から再び肩凝り、上肢のだるさ、腰痛が慢性化し、昭和56年に入ってAを専属で担当するようになると症状が急激に悪化し、頸肩腕障害と診断され、2ヶ月の休業治療を経ると急速に症状が回復したという原告の症状の経過は、原告の保母としての業務の負担の軽重と極めて高い対応関係を示している。
このように、原告の担当した業務の内容及び原告の症状の推移とを併せ考えると、原告はもともと保育業務によって上肢及び腰部の疲労が蓄積していたところ、昭和54年度、55年度に担当した障害児の保育による業務加重によってこれが増悪し、昭和56年1月からAを専属に担当するようになったことに年度末の業務過重が加わり、本件疾病を発症したものと考えるのが自然であって、原告の本件疾病と保育業務との間に相当因果関係を認めるのが相当である。 - 適用法規・条文
- 地方公務員災害補償法26条
- 収録文献(出典)
- 平成11年労働関係判例命令要旨集108頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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