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S市Y保育園公務外認定処分取消請求控訴事件
- 事件の分類
- 職業性疾病
- 事件名
- S市Y保育園公務外認定処分取消請求控訴事件
- 事件番号
- 大阪高裁 - 平成16年(行コ)第6号
- 当事者
- 控訴人 個人1名
被控訴人 地方公務員災害補償基金大阪府支部長 - 業種
- 公務
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2005年08月19日
- 判決決定区分
- 原判決取消
- 事件の概要
- 控訴人(第1審原告)は、昭和53年にS市に保育士として雇用され、平成5年から同市立Y保育園に保育士として勤務していた女性である。控訴人は保育士と勤務し始めて数年後、頸肩腕障害の診断を受け、昭和56年7月から昭和57年10月までの間休職した。控訴人は、Y保育園に異動した後、平成5年度には3人で0歳児9名を担当し、平成6年度には2人で4歳児27名を担当し、平成7年度には2人で5歳児29名を担当し、平成8年度には乳児フリーに担当者として、0歳児及び1歳児のグループの保育を適宜応援し、平成9年度には、8月までは2人で0歳児及び1歳児合計6名を、8月以降は3人で1歳児12名を担当し、平成10年度には1人で5歳児28名を担当した。
控訴人は、平成10年12月3日、保育園のもちつき大会において、石臼や座卓など重量物を運搬し、園児のもちつきの介助などをし、もちを丸める作業をしてもちを載せた盆を後方に身体をひねって渡そうとした際、腰に激痛が走り、その後平成11年2月20日まで休業した。控訴人は、本件腰痛は公務災害であるとして被控訴人(第1審被告)に対し公務災害の認定請求をしたところ、被控訴人はこれを公務外であるとする決定を行ったため、控訴人はこれを不服として審査請求、更に再審査請求を行ったが、いずれも棄却されたため、被控訴人の行った処分の取消しを求めて提訴した。
第1審では、控訴人の本件動作と腰痛との間には相当因果関係を認めることはできず、本件腰痛に公務起因性は認められないとして控訴人の請求を棄却したことから、控訴人はこれを不服として控訴したものである。 - 主文
- 1 原判決を取り消す。
2 被控訴人が平成11年7月16日付けで控訴人に対してした公務外認定処分を取り消す。
3 訴訟費用は第1、2審とも被控訴人の負担とする。 - 判決要旨
- 控訴人は、もちつき大会の前日、通常の保育業務に従事した後、12.8kgの座卓を抱え、59.1mを1人で運搬した後、3kgの杵及び5.8kgの臼の台座を1人で運搬し、更に他の女性保育士3人と共に70kgの石臼を台車に乗せて2回プールサイドまで運搬した。プールサイドには21cmの段差があるため、控訴人らは石臼を台車ごと持ち上げなければならず、石臼を台車から降ろす際にも、石臼の下に敷いたタオルごと持ち上げた上、タオルを引き抜くために石臼を転がす作業を行った。これに続き控訴人は、中腰の姿勢で約20分石臼を洗浄した後通常の保育業務に戻り、3.2kgの布団28組の格納、座卓3台、13.2kgのおやつや牛乳等の運搬、後片付け等の作業を行った。その後控訴人は、12kgの米を運搬し、園児の背後から前かがみの姿勢で介助しながら洗米の指導を行った。
控訴人は、もちつき大会当日、倉庫の奥に格納されている座卓4台及び5kgのベンチ19台を1人で引っ張り出して他の保育士に順次手渡したが、これらの作業は、倉庫が狭いためしゃがみ込んだまま座卓等を抱えて身体をひねる動作を反復するという腰部に負担のかかる姿勢で行われた。これに続いて、控訴人は重ねられていた16.5kgの机2、3台を運搬した。次に控訴人は、他の女性保育士1名とともに石臼を台車に乗せ25mを運搬し、段差を通過する際にも中腰で台車を支え、石臼を持ち上げて49cmの台座に乗せたほか、他の女性保育士3名と共にもう1個の石臼を台車に乗せて運搬した。その後控訴人は、他の保育士4人と共に四つん這いの姿勢でシートを拭いた後、ベンチ19台、机8台及び座卓4台を、小走りで43mの距離を4往復して運搬した。もちつき大会が始まってから控訴人は、前かがみの姿勢でもちを丸め、きな粉やしょうゆをつける作業を行ったが、予想を大幅に上回る地域住民の参加があったことから多忙を極め、園児のもちつきを介助したり、もちを丸める作業に戻ったりした。この間控訴人は、前かがみの姿勢でもちを丸め続け、一杯になると盆を持って身体を後方にひねり手渡す作業を10回以上繰り返した。最後のもちがつき上がり、もちを待つ子供が並んでいることに気づいた控訴人は、慌ててもちを載せた盆を持って身体を後方にひねった瞬間、腰部に激痛を覚えた。その後控訴人は湿布剤を貼るなどの応急措置をし、保育業務に従事した後自動車で帰宅した。控訴人は、病院から腰部捻挫の診断を受け、休業を指示された。控訴人は平成11年2月20日まで休業し、症状が軽減したため、翌日通常業務に復帰した。
地方公務員災害補償法に基づく補償は、公務上の災害に対して行われるものであり、控訴人に発症した腰部捻挫が公務に起因して発生したというためには、公務の遂行と腰部捻挫の発症との間に相当因果関係が存在することを要するものというべきである。ところで、災害補償制度は、使用者が労働者を自己の支配下に置いて労務を提供させるという労働関係の特質にかんがみ、公務に内在し又は随伴する危険が現実化して労働者に傷病が発生した場合には、使用者の過失の有無にかかわらず補償責任を負わせるのが相当であるという危険責任の法理に基づくものであると解される。このような災害補償制度の趣旨に照らすと、公務と傷病との相当因果関係の有無は、当該傷病が当該公務に内在し又は随伴する危険が現実化したものと評価されるかどうかによって決すべきものというべきである。
そこで、本件についてこれをみるに、(1)控訴人はもちつき大会の1時間以上前から準備作業に従事し、身体をひねる動作を反復するという腰部に負担のかかる姿勢で座卓、石臼等の重量物を運搬するなどし、(2)開会後は大会の責任者として、司会や担当園児のもちつきの介助、もちを丸める作業に従事し、(3)前がみの姿勢でもちを丸めた後、もちを載せた盆を持ったまま身体をひねって後方に手渡すという動作を10回以上繰り返したものであり、(4)この間、腰から足にかけてだるさと痛みを覚えていたにもかかわらず、休憩したり、姿勢を変えたりする余裕もないまま作業に追われていたところ、(5)丸めたもちを急いで手渡そうと慌て、もちを載せた盆を持って身体を後方にひねった瞬間、腰部捻挫を発症したというのである。このような控訴人の腰部捻挫発症に至るまでの一連の業務遂行の経過に加え、保育業務の特質、腰部捻挫及び急性腰痛症の発生機序、保育園における控訴人の就業状況や腰部症状の推移、もちつき大会前日の準備状況、大会閉会後の就業状況をも併せ考えると、控訴人の腰部捻挫の発症は、保育士としての公務に内在し又は随伴する危険が現実化したことによるものとみるのが相当であり、上記公務と腰部捻挫の発症との間には相当因果関係があるものというべきである。
以上によると、控訴人の腰部捻挫の発症は、控訴人が従事した保育士としての公務に起因するものというべきであるから、これを公務外とした本件処分は違法であり、控訴人の本件請求は理由がある。よって、これと異なる原判決は取消しを免れない。 - 適用法規・条文
- 地方公務員災害補償法
- 収録文献(出典)
- 労働法律旬報1613号56頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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大阪地裁 − 平成13年(行ウ)第112号 | 棄却(控訴) | 2003年12月24日 |
大阪高裁 - 平成16年(行コ)第6号 | 原判決取消 | 2005年08月19日 |