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テレビ・ラジオ放送会社女子アナウンサー配転拒否事件

事件の分類
配置転換
事件名
テレビ・ラジオ放送会社女子アナウンサー配転拒否事件
事件番号
福岡地裁 − 平成2年(ワ)第2732号
当事者
原告 個人1名
被告 放送会社
業種
運輸・通信業
判決・決定
判決
判決決定年月日
1995年10月25日
判決決定区分
棄却
事件の概要
 被告は、テレビ・ラジオ放送事業を営む株式会社であり、原告は昭和36年5月に被告に採用された女性である。原告は、入社当初からアナウンス部に配属され、その後アナウンサーとしての研修・訓練を受け、アナウンス業務や司会等の業務を行っていた。

 被告は、昭和59年夏、原告に対しアナウンサー業務以外の業務に従事できないかについて意向打診を行ったが、原告はこれに応じなかった。被告は、昭和60年2月、原告に対し、報道局情報センターへの配転につき意向打診したところ、原告がこれに同意したため、同年3月1日付けで原告を同センター勤務とする旨の辞令を交付した(第1次配転)。

 被告は、平成2年3月、原告に対し、情報センターから編成局番組審議会事務局への配転につき意向打診をし、原告がこれに同意しなかったにもかかわらず、同年4月16日付けで原告を同事務局勤務とする旨の辞令を交付した(第2次配転)。これに対し原告は、右配転の無効を主張するとともに、その効力を留保したまま右職場において勤務した。
 原告は、第1次配転の際、被告はアナウンス業務に従事することを保証する旨約したこと、第2次配転は、原告の職務をアナウンサー業務に限定した労働契約に違反するほか、原告が所属する労組と被告間に締結されている「配転・転勤に関する協定書」に違反し無効であること、第2次配転は女性アナウンサーに対する差別的取扱いであることとして、原告がアナウンサーとしての業務に従事する労働契約上の地位にあることの確認を求めた。なお、原告は、平成5年2月、定年である55歳に達したため、被告を定年退職し、再雇用制度により引き続き被告の従業員として勤務している。
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
判決要旨
 一般に、テレビ・ラジオのアナウンサーは、一般の従業員と異なった募集枠で、特別な試験を受けて採用され、その後アナウンス技術についての特殊な訓練を受けており、アナウンス技術はアナウンサーに求められる素質の中核として位置付けられている。しかし、生番組の増加、番組のワイド化に伴い、アナウンサーに求められる資質は、単に日本語を美しく正確に読み、話すというアナウンス技術のみならず、状況に応じて話題を展開する能力、話題に対応する広範囲な知識など幅広いものになっている。一方報道記者などもニュース原稿を読み、喋るなどのアナウンス業務を行っているが、一般にこれらの者をアナウンサーと呼ぶことはなく、これは被告においても同様である。以上の認定事実を総合すると、一般にアナウンサーとは、音色・発声・発音・アクセント・話術などのアナウンス技術についての特別の教育・訓練を受けた者であって、労働契約上アナウンサーとしての業務を中核としつつ、これと密接な関連を有する一定範囲の周辺業務に従事する者であると定義するのが相当である。

 被告が昭和59年夏期の人事異動の機会及び昭和60年2月14日からの原告に対する情報センターへの配転についての意向打診に際し、原告に対し、それまでのアナウンサーとしての業務を内容とする労働契約から情報センターにおけるニュースの編成・情報整理・情報収集等の業務に従事することを内容とする労働契約への契約内容の変更を申し入れたのに対し、原告は右職種変更を伴う第1次配転については同意し、これを前提として、被告において昭和60年3月1日に第1次配転を発令したものであり、原告はその時点でアナウンサーとしての業務に従事する地位を喪失したものと判断するのが相当である。

 昭和60年2月当時の情報センター部長は、原告がアナウンス業務に強いこだわりをみせていることを認識し、原告に対し、情報センター異動後であってもアナウンス業務を行うチャンスはいくらでもある旨告げて第1次配転を承諾するよう説得した事実を認めることができる。しかし、右事実をもって、原告のアナウンス業務について否定的評価をしていた被告が、原告をアナウンス業務に継続して従事させ、将来にわたって右業務から外さないことを保証したものと解することは到底できない。
 以上の検討によれば、原告は第1次配転によって、既にアナウンサーとしての業務に従事する労働契約上の地位を失っているものというべきである。また、被告が原告に対し、アナウンス業務に継続して従事させ、右業務から外さない旨保証した事実も認めることができないから、原告が右業務に従事することを要求し得る労働契約上の地位を有するともいえない。そして、仮に第2次配転が無効であったとしても、そのことは第1次配転後の原告の右地位に影響を与えるものではないから、その余の事実について判断するまでもなく、原告の請求には理由がないというべきである。
適用法規・条文
なし
収録文献(出典)
労働判例692号57頁
その他特記事項
本件は控訴された。