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C社賃金・慰謝料請求事件

事件の分類
賃金・昇格
事件名
C社賃金・慰謝料請求事件
事件番号
大阪地裁 − 平成13年(ワ)第3805号
当事者
原告 個人1名
被告 個人1名A
被告 株式会社
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2002年03月29日
判決決定区分
一部認容・一部棄却・一部却下(確定)
事件の概要
 被告会社は、コンピューターソフトウェアの開発、プログラムの設計、作成、保守等の請負業務等を目的とする会社であり、被告Aは被告会社の代表者である。原告は、平成3年4月、被告会社の関連会社Mに入社し、平成8年11月から同社の取締役に就いていた女性である。平成9年9月、M社を含む関連会社4社が被告会社と合併し、原告は被告会社の経理部員になった後取締役に就任し、平成10年2月に辞任した後平成12年10月までの間被告会社の経理部次長の職にあった。

 平成9年頃、原告の給与は年俸制になり、平成10年9月以降、原告の年俸は780万円になった。原告の夫Bは被告会社の常務取締役の職にあり、平成12年4月頃被告Aから経理についてチェックするよう指示を受けた。Bは原告と共に経理のチェックを行うこととし、原告は経理部長Cからチェック業務を行わないように指示されつつもチェック業務を続け、Cの不正を被告Aに報告したことから、BとCとが対立し、その確執によってBは被告会社を退職した。

 同年10月2日、被告Aは、原告がCを解雇しようとするなど混乱をもたらしたとして、経理部次長から業務部勤務へ配転・降格し、昇給停止処分にした。同日被告Aは、原告に同月15日をもって退職するよう勧奨し、原告がこれを拒否すると解雇を撤回し、原告の給与は亡会長の私事に関連する業務を行っていたから支給されていたものであり、会長死亡後は原告の給与が他の職員と均衡を失するようになったとして、同年11月分以降の年俸額を360万円に減額した。また、被告Aは原告に対し、B姓を名乗ること、会社業務に関することはすべてCに直接話しをすること等を記載した「通告」と題する書面を原告に交付した。
 これに対し原告は、亡会長の私設秘書業務を行っていたものではなく、更に労働者の賃金額は当初の労働契約及びその後の昇給の合意等によって使用者・労働者とも拘束されるものであり、使用者が一方的に賃金を減額することは許されないとして、減額された賃金との差額を請求するとともに、解雇通告、降格、賃金減額、制服の不支給、夫のB姓の使用の強制などにより精神的苦痛を受けたとして、被告A及び被告会社に対し、不法行為に基づく慰謝料を請求した。
主文
判決要旨
 原告の年俸額は、原告と被告会社との雇用契約に基づき定められたものであり、これが亡会長の私事に関する業務や不正行為に対する報酬を含むものであったことを認めるに足りる証拠はない。また被告会社は、もともと亡会長に関する業務を除けば、原告の担当する業務は僅かであり、亡会長に関する業務がなくなったことから、他の社員との均衡を考慮して本件減額を行ったと主張するが、原告は亡会長の存命中、実質的に経理部次長としての仕事に従事していたのであり、Cが経理部長となった以降に次第に担当業務を取り上げられたため、現実に担当する業務が減少したものであって、もともと亡会長に関する業務を除けば原告の担当業務は僅かであったとする被告会社の主張は採用し得ない。そして原告は年俸制の社員であり、被告会社の年俸制社員の年俸額は、毎年12月に資格、能力等を基にした人事査定により決定の上、翌年1月から実施されてきたものであるところ、原告の年俸額の中には、使用者が従業員の同意なくして一方的に減額することのできない資格給的要素も含まれていること、正規の改訂時期と異なる時期に減額が行われていることも考慮すれば、本件減額は無効であるといわざるを得ない。したがって、減額分の賃金200万円の支払いを求める原告の請求には理由がある。

また、被告Aは原告に辞めて欲しいと思っていることからすれば、原告に対する月額35万円の減額が継続される可能性が大きく、被告会社に対し減額されない賃金の支払いを求める原告の請求も理由がある。ただし、原告の求める将来分の賃金の支払いのうち、本判決確定後に支払期が到来する部分については、少なくとも現段階において原告の労務提供の程度等支払いの前提となる諸事情が確定していないので、訴えの利益がない。

 原告の夫B常務と経理部長Cとの対立を背景に、原告はCの経理ミスをチェックするために、Cから禁止されていた日計表のチェック等を行っていたのであり、BとともにCを排除すべく、Cの解雇を求めて他の社員や役員に働きかけていた。被告Aは、不正について調査したものの、Cの関与について確証が得られなかったことから、Cに対し昇給停止処分をするとともに、これにより生じた混乱を収めるために、原告に対し降格を伴う配置転換を命じ、また8階事務所への立入り禁止等を求めたものであり、かかる措置については合理的な理由があるといわざるを得ない。また、原告はCが故意に原告に制服を支給しなかったと主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。したがって、これらの点が不法行為になるとする原告の請求は理由がない。
 他方、婚姻した姓の使用については、そもそも自己に対しいかなる呼称を用いるかは個人の自由に属する事項であることからすれば、合理的な理由もなくこれを制限することは許されない。被告らは、業務において、特に婚姻姓を名乗らなければならない必要性は認められないことからすれば、原告に対し婚姻姓の使用を求める合理的な理由はないといわざるを得ず、通告書という形式で、被告Aが原告に対し、婚姻姓の使用を命じたことは、原告の人格権を違法に侵害するものであるから、これは被告らによる原告に対する不法行為となる。そして、これによる原告の精神的苦痛に対する慰謝料としては、旧姓の使用を禁止された期間等本件に顕れた諸般の事情を考慮すれば、50万円が相当である。
適用法規・条文
民法44条、709条
収録文献(出典)
労働判例829号91頁
その他特記事項