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A社等労働者派遣労働損害賠償事件

事件の分類
その他
事件名
A社等労働者派遣労働損害賠償事件
事件番号
東京地裁 - 平成13年(ワ)第12011号
当事者
原告個人1名
被告株式会社(A社)
被告株式会社(B社)
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2002年07月17日
判決決定区分
棄却
事件の概要
 被告A社は、労働者派遣法に基づく労働者派遣事業等を目的とする株式会社であり、被告B社は、フランチャイズ・システムによる書籍、事務用品、コンピュータ等の販売等を目的とする株式会社である。原告は当時62歳で、平成13年2月10日まで、時給2500円の条件で予備校の英語の講師として稼働していたところ、被告Aの求人広告を見て法務専門職の登録説明会に出席した。被告A社は原告を登録した上で被告B社に派遣することとして、同年2月1日、被告B社の法務チームの担当者に原告を引き合わせた。この場では専ら被告B社から原告に対し業務についての説明がなされ、翌日、被告A社は原告に対し、被告B社での勤務を依頼した。その際トライアル期間1ヶ月、その後双方の意思が確認できたところで3ヶ月程度の更新で継続すること、時給は2720円からとなる旨通知した。原告は同月10日に予備校を退職し、同月19日から勤務を開始するという第一契約に従って被告B社で勤務を開始した。被告A社が被告B社の意向を受けて原告に更新を打診したところ、原告は年金が打ち切られてしまうので、就業日を週3日にして欲しいと要望したが、被告B社は、週3日ならば期間を1ヶ月と指定し、第二契約が締結され、第二契約後は原告と被告A社との間で、派遣先を被告B社とする派遣契約は締結されなかった。 原告は、(1)被告らの40日という違法な短期の労働者派遣契約締結要求により従来の安定した職を失い、その賃金相当額等567万9008円の損害を被った、(2)被告らの面接試験実施等の派遣労働者特定行為により10万円の精神的損害を被った、(3)被告A社が求人広告で契約期間を明示しなかったことにより(1)と同額の損害を被った、(4)被告A社が求人広告で「社保完備」としながら短期の有期契約の締結を求めた行為により(1)と同額の損害を被った、(5)被告A社が早期出社要求をしつつ短期の有期雇用契約の締結を求めた行為により(6)被告A社が求人広告より低い時給で労働者派遣契約をした行為により原告と同じ労働をしている者に支払われる時給との差額21万1233円の損害を被った、(7)被告B社が社員教育を要請しつつ短期の有期雇用契約の労働条件を被告A社に提示した行為により(1)と同額の損害を被った、(8)被告B社が早期出社要求をしつつ短期の有期雇用契約の労働条件を被告A社に提示した行為により(1)と同額の損害を被った、(9)被告B社が業務内容を逸脱した業務命令をした行為により25万円の精神的損害を被った、(10)被告B社が社員教育を要請する旨の虚偽発言をした行為により30万円の精神的損害を被った、(11)被告B社が脱税の違法文書作成業務を原告に命じた行為により135万円の精神的損害を被ったとして、不法行為に基づく損害賠償として、被告A社及び被告B社に対し連帯して577万9008円、被告A社に対して21万1233円、被告B社に対して190万円を請求した。
主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
判決要旨
 労基法14条3号は、満60歳以上の労働者との間に締結される労働契約については、3年を超える期間について締結してはならないと定めたもので、3年以下の有期雇用契約の締結を禁止するものではないから、40日以下の有期雇用契約である本件契約を締結することは、何ら同法に違反するとはいえない。原告は、同条は高齢者の安定雇用を目指した立法であり、40日以下の有期雇用契約は、同条の精神に逆行し違法である旨主張するが、労基法は、労働者に対する不当な身分拘束を防止する趣旨で雇用期間の上限を1年としていたところ、高齢者の一定期間の就労を確保するため、3年以内の有期雇用契約の締結を自由とするべく、満60歳以上の労働者について上記制限を撤廃し雇用期間の上限を3年に引き上げたものであるから、原告の主張は採用できない。また労働者派遣法30条は、派遣元事業主に派遣労働者の雇用の安定を図るために必要な措置を講ずることにより、派遣労働者の福祉の増進を図る努力義務を定めたものであるから、40日以下の派遣契約を締結することが、直ちに同条に違反するとはいえない。以上、被告A社が本件契約の締結要求をすることは、使用者として優越した地位を濫用しているとも、正義観念、社会倫理に反するともいうことはできず、違法とは評価できない。

労働者派遣法26条7項は、労働者派遣先に対し、派遣労働者を特定することを目的とする行為をしないように努めるべきことを定め、これに対応するものとして、派遣元指針11項は、労働者派遣元に対し、派遣先による派遣労働者を特定する行為に協力してはならないとしている。平成13年2月1日に被告A社において被告B社の法務チーム2名と原告とを引き合わせたこと、その翌日原告に対し被告B社での勤務を連絡していることは、1日の会合が派遣労働者を特定することを目的とする行為であったことを窺わせる事実といえる。しかし同会合については、原告に対し「顔合わせ」と説明されていたこと、被告B社による原告の能力についての質問や試験などが実施されず、専ら業務内容の説明が行われていたこと、原告以外に法務職の派遣労働者として被告B社に引き合わされた者はいなかったことを併せ考えると、2月1日の会合が原告の採否を決めるための面接であるなど、派遣労働者を特定することを目的とする行為であったとは、なお認めるに足りないというべきである。

 労働者の募集に際し、募集内容を的確に表示する義務を定めた職安法42条は、労働者派遣を除外していることから、労働者派遣契約に係る派遣労働者の募集については直接適用されないものと解される。他方、労働者の判断を誤らせることがないよう募集内容の明示を要求した同法の趣旨は、派遣労働者の募集についても妥当するから、労働者派遣契約において、当該求人広告が、特定の派遣先に対する労働者派遣契約に係る派遣労働者募集であるときは、同条が準用されるというべきである。また、当該求人広告が、不特定の派遣先に対する労働者派遣契約の登録の募集であるときは、派遣先に応じて労働条件の変更があり得ることにより適正表示の前提を欠くから、同法の適用はないというべきである。職安法5条の3、同法施行規則についても同様に解すべきである。本件求人広告は、登録説明会の日時の案内の記載があること、同説明会においては被告B社だけでなく他社の法務職の説明もされているなど、特定の派遣先のための派遣労働者の募集ではなく、派遣労働者の登録の募集と認められるから、本件契約の契約期間を明示しなかったとしても、職安法42条、5条の3に反するとはいえない。仮に本件求人広告が違法であるとしても、原告は予備校に契約更新をしないと伝える前に第一契約が40日の有期雇用契約であることを知っていたから、予備校との契約更新をしないという原告の判断は、契約期間を知った上での自由な判断であって、本件契約による賃金と予備校の賃金とで差額が生じたとしても、本件求人広告に短期雇用契約であることを表示しなかった不作為によって生じた損害とはいえない。

本件求人広告には「社会保険完備」と記載されているところ、この記載は法の定めに基づき社会保険の被保険者となるべき労働者については被保険者とする旨の記載であるから、求人広告にこのような記載があることが長期契約を予想させるとはいえない。

 早期出社を求められる仕事が重要な仕事に限るとはいえないから、早期出社要求が雇用期間について判断を誤らせる情報提供であるということはできない。

 本件求人広告は派遣労働者の登録の勧誘であって、職安法42条の適用を受けるものではないから、本件求人広告と契約締結時に示された労働条件が異なっても、直ちに違法となるとはいえない。原告は、被告A社から時給2720円となることを提示され、その後契約書を作成しその旨合意したのであるから、原告が引用する大阪高裁平成2年3月8日判決「求人票記載の労働条件は、当事者間においてこれと異なる別段の定めをするなどの特段の事情がない限り、雇用契約の内容となる」の法理が適用される余地はない。

 被告A社は、本件契約締結以前、原告に対し「法務専門職」に登録された旨通知していたこと、登録説明会において、被告B社を派遣先とする場合の「法務専門職」の業務についての説明が原告にされていたこと、2月1日の会合において、被告B社から業務内容について法務業務全般との説明をしていたこと、原告が業務遂行の際、特に苦情を述べていなかったことに照らすと、本件契約の業務内容は、邦文の契約書作成のみならず、英文の契約書作成業務及びこれらに付随する法務全般の業務を含んでいたと認めるのが相当である。したがって、原告が行ったと認められる業務が、本件契約の業務範囲を逸脱する業務であったということはできない。

 被告B社が社員教育をお願いする旨告げたと認めるに足りる証拠はないし、仮にそのように告げたとしても、社員教育が長期の雇用を前提としなければ不可能ともいえないから、虚偽発言をしたとはいえないし、判断を誤らせる情報提供をしたともいえない。

 被告B社の契約書の売買契約が、被告B社の子会社に対する寄附行為(法人税法37条7項)に該当するものであるとは認めるに足りない。同子会社は被告B社の100%子会社であるから、法人税法2条10号の同族会社であるが、本件全証拠によっても、本件売買契約が、営利を目的とした合理的経済人としての行為を逸脱した行為として「これを容認した場合に法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められる」行為(法人税法132条1項)に該当すると認めるに足りない。したがって、被告B社が脱税の違法文書作成を命じたとする原告の請求は理由がない。
 以上から、原告の請求はいずれも理由がない。
適用法規・条文
収録文献(出典)
労働経済判例速報1834号3頁
その他特記事項