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U福祉会いじめ事件【うつ病・自殺】

事件の分類
うつ病・自殺
事件名
U福祉会いじめ事件【うつ病・自殺】
事件番号
名古屋地裁 − 平成14年(ワ)第4895号
当事者
原告個人1名

被告個人5名 A,B,C、D,E

被告社会福祉法人U福祉会
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2005年04月27日
判決決定区分
一部認容・一部棄却(確定)
事件の概要
 被告法人は、昭和47年3月に設立された愛知県内に知的障害者更生施設、授産施設等を有する社会福祉法人であり、原告は、平成11年8月、被告法人の職員となり、平成12年4月から第2U希望の家(本件施設)に、看護師として勤務していた女性である。また被告Aは被告法人の職員で本件施設の所長、被告Bは同副所長、被告Cは被告法人の職員でU労組の副執行委員長、被告D及び被告Eは同執行委員である。

 被告法人とU労組とはユニオンショップ協定を締結しているところ、原告は平成14年8月31日にU労組を脱退し、愛労連ローカルユニオン(ユニオン)に加入した。原告は、同年5月頃、被告Aと大声で口論になり、その後うつ病に罹患して約1ヶ月にわたり休職し、同年6月下旬に復職したが、精神神経科の診察を継続的に受けていた。

 同年9月23日、原告が勤務する本件施設において職員会議が開催され、その席上被告Aは、原告が綱領を否定していること、綱領を否定することは所長として認めることはできないことを発言し、被告Bは「危機感を感じる。Uを作ってきた人の思いをかなぐり捨ててしまった。」、被告Cは「原告が綱領を捨てた立場でここにいることに大変不安を感じる。」、被告Eは「原告はいつも自分が中心である。親の立場、職員の立場、看護婦の立場を使い分け、混乱させてきた。外に向けてUを攻撃しながら、自分の子供をその施設に預けているのは不思議だ。」など、出席職員のほぼ全員が原告を非難する発言を行った。これに対し原告は、Uをつぶすためにユニオンに入ったのではない、綱領を認めないとは言っていないと抗弁したが、被告らに一蹴された。

 原告は、本件職員会議後の同月28日、医師の診察を受け、不眠、情緒不安定等の症状を訴え、病気療養のため休職した。原告は、平成15年12月、労働基準監督署に対し、労災保険法に基づく療養補償給付の請求をし、平成16年8月、療養補償給付を支給する旨の決定を受けた。また、その後同法に基づき休業補償給付及び休業特別支給金を請求したところ、これらについても支給された。
 原告は、本件職員会議において、被告らにより、組織ぐるみで誹謗、非難された結果、PTSDを発症し、休職を余儀なくされたとして、被告らに対し1000万円の慰謝料を請求するとともに、被告法人に対し、不法行為に基づく賃金相当額及び期末・勤勉手当相当額の損害金等を請求した。
主文
1 被告らは、原告に対し、連帯して500万円及びこれに対する被告Aは平成14年11月28日から、その余の被告らは同月22日から各支払済みまで念5分の割合による金員を支払え。

2 被告法人は、原告に対し、827万5856円及びこれに対する平成17年2月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3 被告法人は、原告に対し、平成17年2月1日から同月9日まで、1ヶ月42万5029円の割合による金員を支払え。
4 原告のその余の請求を棄却する。
判決要旨
1 被告らの責任原因について

 本件職員会議においては、被告Aらが中心となって、自らU労組を脱退しユニオンに加入した原告を非難、糾弾する発言をしたばかりか、本件職員会議に参加した職員らを誘導し、扇動し、その結果、本件職員の多くが原告を非難する内容の発言をしたものであり、本件職員会議は被告Aらが、ユニオンに加入した原告を非難、糾弾する意図で進行されたものといえる。そして原告は、本件職員会議において非難、糾弾された結果、精神的疾患に罹患し、休職を余儀なくされたものである。そうすると、被告Aらの本件職員会議における発言内容及び被告Aらが他の職員らを誘導、扇動したことによる各職員の発言内容に照らせば、会議の進行方法は、被告法人の職員及び労組組合員としての正当な言論活動の範囲を逸脱するものといわざるを得ず、違法に原告の人格権を侵害したものというべきである。したがって、被告Aらは、共同で原告に対する不法行為を行ったものであり、連帯して原告に対する不法行為責任を負うというべきである。

 被告Aらはいずれも被告法人の職員であり、また職員会議が施設長によって主宰されるものであることなどに照らせば、本件職員会議における被告Aらの不法行為が、被告法人の事業の執行についてなされたものであることは明らかである。したがって、被告法人は、被告Aらの不法行為について、民法715条に基づき使用者責任を負う。

2 原告の損害の有無及び賠償額

 医師は、原告が述べた本件職員会議の概要及び原告が訴えた症状等から、原告は心因反応を発症したと診断したものであり、その心因反応とは、原告が罹患していたうつ病とは別の原因で発症したと認めることができる。したがって、原告は本件職員会議において職員らによって非難、糾弾された結果、うつ病とは別の新たな精神的疾患である心因反応を発症したものであると認められる。しかしながら、診断書においてはうつ病及び心因反応と記載されているに過ぎず、原告がPTSDに罹患したとまで認めることは困難である。

 原告は、本件職員会議における被告Aらの不法行為により、精神的疾患に罹患し、その症状が現在もなお継続しているものであって、多大な精神的苦痛を被ったということができるから、被告らは原告が被った精神的苦痛に対する慰謝料を支払うべき義務を負う。そして、被告Aらの不法行為の態様、被告法人及びU労組の同不法行為への関わり方、原告が休職を余儀なくされた期間のほか、逸失利益について、慰謝料とは別の損害として明示的な主張がされていない以上、慰謝料算定の上で逸失利益の点も考慮するのが相当であるところ、原告の現在の症状に照らせば、被告法人への復職は困難であり、他の職場への復職についてもこれが直ちに可能と断ずることができない状況にあること等の一切の事情を考慮すると、慰謝料としては500万円が相当というべきである。

 原告の休職中、被告法人による賃金補償対象期間以降の平成15年1月1日から同17年1月31日までの間の未払月例賃金の総額は、合計1066万4862円であり、平成17年2月1日以降の未払月例賃金は1ヶ月当たり42万5029円の割合による金員であるところ、それぞれの未払月例賃金に相当する額につき、被告Aらの不法行為と相当因果関係のある損害と認めることができる。原告は、労災保険法に基づく休業補償給付額合計553万8470円を支給されたところ、使用者は保険給付の原因となる事故と同一の事由については、その保険給付の価額の限度において民法による損害賠償の責を免れると解するのが相当であるから、未払月例賃金に相当する損害額から原告が支給された上記休業補償給付額を控除するのが相当である。また、原告は休職を余儀なくされた結果、314万9464円の期末手当・勤勉手当を支給されなかったということができるから、不支給に係る同手当の金額に相当する額につき、被告Aらの不法行為と相当因果関係のある損害と認めることができる。

3 損害賠償額の減額の可否
 原告は、本件職員会議以前にうつ病に罹患しており、本件職員会議当時、原告のうつ病は寛解状態にはなく、寛解した場合と比べると、原告のストレス耐性は弱かったと認めることができる。しかし、原告のストレス耐性の弱さが、仮に何らかの影響を及ぼしたとしても、そもそも原告がうつ病に罹患したことも、被告Aとの確執を誘因として発生したものであるから、損害の公平な分担という理念に照らし、過失相殺規定を類推適用して損害賠償額を減額することは許されないというべきである。
適用法規・条文
民法709条、715条、労働基準法84条,,
収録文献(出典)
労働判例895号24頁
その他特記事項