判例データベース
女性管理職解雇事件
- 事件の分類
- セクシュアル・ハラスメント
- 事件名
- 女性管理職解雇事件
- 事件番号
- 東京地裁 - 平成13年(ワ)第24489号
- 当事者
- 原告個人1名
被告B株式会社 - 業種
- 卸売・小売業・飲食店
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2002年11月27日
- 判決決定区分
- 棄却
- 事件の概要
- 被告は、電子治療器の販売等を業とする株式会社であり、原告は平成7年12月に被告に雇用され、経理課において唯一の管理職である主任に任ぜられていた女性である。
原告は、営業担当社員らに対し歩合給に影響するクレジット審査にからめて贈物を要求し、上司の注意も聞かなかった。平成11年11月の宴会の際、原告は酒に酔ってAに対し、手を握ったり、腕を首に絡ませたり、ワイシャツにキスしたり、股間を手で触ったりした。また、Bに対し、十数分間体を押し付けたり、「キスをさせなさい」と言ったりしたほか、Cに対し、後方から抱きついて十数秒間口を耳元に密着させる等の行為をした。原告は、この外にも酒に酔うと、しばしば新入社員の男性に対し、自分の年齢がいくつに見えるかを執拗に尋ねたり、体を触ったりし、注意されても態度を改めなかった。
平成11年6月頃、原告の下で1ヶ月程度働いていた女性アルバイトが、原告の対応が冷たく気に入らないとの理由で突然退職し、平成12年8月末、原告の下で6ヶ月働いていた女性アルバイトが、原告の人間性や対応が気に入らないとの理由で突然退職したほか、原告の下で働いていた正社員の女性も原告の注意の仕方がきついとの理由で退職した。
同年10月、原告の部下の正社員Dが、「原告は仕事を与えてくれず、指示が気分や感情によって左右される」との理由で退職を申し出、女性部下らに対する原告についてのアンケートによっても、原告に対し批判的な意見が多かったことから、被告は、(1)原告の部下に対する態度が感情的で一貫性がないこと、(2)原告の態度が原因で複数の部下が退職ないしそのおそれがあること、(3)原告の贈物要求により営業担当職員から苦情が出ていること、(4)宴会で原告が男性の体に触る等の行為を行っていることを確認し、配転や降格を行っても改善の見込みはないとして、平成13年2月10日付けで原告を解雇した。
これに対し原告は、セクハラ行為は、仮処分の手続きがかなり進行した後に突然主張されたものであり、仮処分や本件訴訟を有利にするための方便であること、本件セクハラと称するものは、社内宴会の一コマに過ぎず、他の社員の乱痴気ぶりと比較して特別な行動ではないこと、セクハラといえるためには何らかの支配権が必要であるところ、被告のいう被害者は原告の部下ではないから、セクハラの主張は根拠がないことを主張するとともに、その他の解雇事由についてもすべて否認し、被告に対し、解雇の無効と賃金の支払いを請求した。 - 主文
- 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。 - 判決要旨
- 原告は、部下に対する態度が感情的で一貫性がなく、原告の態度が原因で複数の従業員が退職し、かつ正社員の女性1名が退職したい旨申し出ており、他の部下からも感情的な指導について苦情が寄せられたこと、原告の物品要求により営業担当職員らから苦情が出ていたこと、宴会の際に原告が男性社員の体に触る等の行為で男性社員にしばしば不快感を与えていたことが認められ、原告を管理職として処遇する場合には、被告の業務に著しい支障が生じていたということができる。そして、これまで上司らから原告に注意した際、原告が反発したり、注意後に部下やその他の目下の者に冷たい態度をとる様子があったこと、被告の当時の社員数が僅か20名前後であったことを勘案すると、管理職からの降格や配転を行っても、かえって業務に支障が生じるおそれがあったものである。そうすると、降格や配転によっては、前記著しい支障を回避することはできず、被告としては原告を解雇するより外はなかったものと認められる。したがって、本件解雇は、使用者に認められた解雇権(民法627条1項)の行使として、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当として是認できるから、有効である。
原告は、原告には被害者に対し人事権や管理権やこれに類する強い立場を有するなど支配権を有しないから、セクシャルハラスメントには該当しない旨主張するが、原告は、被告の社員の中で数少ない管理職のうちの1人であり、年長であった上、営業を担当する社員にとっては、営業歩合に係わるクレジット審査の業務を担当していたのであり、支配権がないとは直ちにいえないし、被害者らがこれを嫌がっていなかったとは認められない。
被告は、原告の宴会における態度を職務規律違反であるとして正式に注意したり、譴責等の処分にした事実は認められないし、本件解雇に際してもこのような事実の存在を解雇理由として原告に説明していないことが認められる。しかし被告は、原告との雇用契約を円満に終了させるため、又は仮処分での和解交渉を決裂させないため主張を控えていたと認められるから、解雇理由として解雇時に告げられなかったり、仮処分での主張が後になされたことをもって、原告の宴会における態度が、裁判のために後から考えた解雇理由であるとはいえない。
ところで、原告の部下から退職者が出たとしても、その事実から原告の指導等に問題があると即断して解雇を行うことが相当でないことはいうまでもないが、上司が原告に対し注意した際、原告がこれに反発してり、注意後に部下や目下の者に冷たい態度をとったりする様子があったことから、被告においては、原告に更に指導を行うことを控えざるを得なかったものである。こうしたことからすれば、被告の原告に対する部下の育成等についての指導は万全であったとはいえないものの、被告の人的体制を勘案すれば、原告の指導が上記の程度に留まったのもやむを得ないところであって、このことで、被告の解雇権の行使が許されないということはできない。 - 適用法規・条文
- 民法627条
- 収録文献(出典)
- 労働経済判例速報1824号20頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|