判例データベース
K学院大学助教授解雇事件
- 事件の分類
- セクシュアル・ハラスメント
- 事件名
- K学院大学助教授解雇事件
- 事件番号
- 東京地裁 - 平成15年(ワ)第21313号
- 当事者
- 原告個人1名
被告学校法人K大学 - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2005年04月15日
- 判決決定区分
- 棄却(控訴)
- 事件の概要
- 原告は平成4年4月に被告大学に教員として採用された男性である。Aは平成6年に大学を卒業した女性であり、原告の勧めで平成9年4月、夫とともに米国に留学したが、Aの婚約を知った原告は、「君が好きだ。結婚しないで」などとAに交際を求めていた。
同年12月、原告は米国に出張し、Aをマンションに呼び出して飲食を共にした上姦淫した。その後も原告はAに離婚を勧め、日本の大学での就職を世話するといってAと性交渉を求め、そのことでAは電話やファックスで原告に抗議したものの、その後原告はAを懐柔し、平成10年8月には、Aは騙されたと思い不愉快な思いをさせたとして原告に謝罪した。Aは仕事を紹介するという原告の勧めに従って帰国し、大学の非常勤講師に就いたが、原告との性交渉が原因で離婚した。Aの離婚後原告は再びAとの交際を求め、Aがこれを拒否すると、原告は性交渉について口止めをするとともに、Aの勤務について脅迫するなどして交際を強要した。
平成11年6月、Aは被告大学学長に対し、教官からセクハラを受けている旨メールを送付した。原告はその後も頻繁にAとの交際を求めて電話などをしたが、Aは就職以外の件で話はしないこと、就職の紹介をしなければマスコミに公表し、裁判に訴える旨通告した。これを受けて、平成12年3月に原告はAに対し示談の書面を送付したところ、Aは、(1)原告がセクハラ、ストーカー行為を数ヶ月にわたり行ったことを認めること、(2)原告の行為が離婚の原因となり、Aに多大な迷惑をかけたことを認めること、(3)4年以上にわたる頻繁な電話により原告が精神的苦痛を受けたことを認めること、(4)仕事の紹介について約束を履行すること、(5)Aの関係者、友人を中傷し、Aの仕事を妨害した場合、改めて慰謝料を請求すること、(6)一生Aと会わず、Aの人生に介入しないこと、(7)誓約書に記名押印することを条件として突きつけた。原告はAに食事を断られたことから、平成12年1月、食事代として10万円を送付したほか、同年3月に30万円、160万円と、合計200万円をAに支払った。
平成13年1月、学長はAの訴えを受けて、調査機関(タスクフォース)を組織し、同年4月にセクハラガイドラインを制定した。その後タスクフォースの調査結果を踏まえ、理事会の議を経て、被告は平成14年2月28日付けで教員の適格性に欠けるとして原告を普通解雇した。
これに対し原告は、Aと性的関係を持ったことは事実だが、それはむしろAの強い要求に応えたものであって両者の関係は純然たる私的な男女関係であること、原告はAからつきまとわれ、これを避けるために200万円支払ったものであること、就業規則には教員としての適格性の欠如は解雇事由として定められていないから、これを理由に解雇することはできないこと、被告におけるこれまでの非行に対する措置に比較して、本件解雇は均衡を失していること、解雇に関する手続きに不備があることなどを主張し、本件解雇は無効であるとして、被告に対し助教授としての地位の確認と賃金の支払いを請求した。 - 主文
- 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。 - 判決要旨
- 1 「教官適格性欠如」を理由に解雇することの可否
被告就業規則は、(1)精神又は身体の故障のため勤務に耐えられないとき、(2)勤務成績又は勤務能力が著しく劣るとき、(3)やむを得ない事情により事業規模を縮小するときには、職員を解雇できる旨定めている。被告大学の教員は、高度の専門的分野における研究とこれによる成果を基に、授業を通じて広く学生に知識を授け、人格の完成を図るとともに、人類の福祉に貢献し得る人材育成を目指すところにあると解されるから、教員の適性は勤務能力の重要な要素であり、その欠如は就業規則の普通解雇事由である「勤務能力が著しく劣る」場合に含まれるというべきであり、被告は教員適性の欠如を理由に教員を普通解雇することができるものと解される。また、仮に「勤務能力が著しく劣る」に教員適性の欠如が含まれるとするのが困難であるとしても、就業規則は解雇事由を例示したに過ぎないと解するのが相当であるから、被告は教員適性の欠如を理由に職員を解雇することができると解される。
2 原告の教員適格性の有無
Aは、米国のマンションで原告に強姦されたと主張するが、Aの原告に宛てた手紙の内容からみて、強姦とみるのは困難であり、原告とAの間で講師斡旋の話があったことから、原告が優越的立場を利用してAに性交渉を強要したとみるのが相当である。
原告は、Aに対し非常勤講師の紹介などして、長期間にわたり執拗に交際を迫り、優越的立場を利用して性交渉を強い、婚姻生活を破綻させる一因を作り、Aに多大な精神的苦痛を与えたのみならず、Aと紛争が生じた後も非を認めず、保身を図り、200万円の支払いをもって解決しようとするなど適切な対応をしなかった。このような原告の行為は、被告大学助教授として到底許されないものであり、教員として不適格といわざるを得ない。
3 平等原則に反するか
被告大学では、平成8年に男性講師が女子学生と部屋で2人になり、セクハラと受け取られる行為を行ったことから平成10年3月に依願退職したこと、平成11年1月、被告講師が、新年会二次会で酔って学生の母親とダンスをした際身体を触ったとして厳重注意を受けたこと、平成13年9月、講師が酒気帯び運転で2ヶ月の起訴休職処分を受け、助手相当職へ降格されたことが認められる。しかしこれらの事案は原告の行為とは内容、程度が全く異なっているから、これらと比較して本件解雇が不相当となるものではない。
4 本件解雇のおける手続上の瑕疵の有無
平成12年11月、学長は原告の上司である教授に指示し、原告の行状について調査したが、原告はAのプライバシー等を理由に回答を留保した。平成13年1月に被告はタスクフォースを設置し原告から事情聴取したところ、原告はAの主張はすべて虚偽であると主張したが、タスクフォースは同年10月Aから事情聴取をして報告書を作成した。同報告書を基に審査委員会において審査をした結果、原告の一連の行為はセクハラに当たり、教員として看過できない行為であるとする審査報告書を作成した。学長は、教授会の承認を得た上で、理事会に原告の懲戒について諮問し、特別委員会で検討した上、理事会は解雇が相当との結論を出し、学長はこの結論を受けて、平成14年2月28日、労働基準法20条1項に基づき、原告を即時解雇したものであり、本件解雇につき手続の瑕疵は認められない。 - 適用法規・条文
- 労働基準法20条
- 収録文献(出典)
- 平成17年労働関係判例命令要旨集頁
- その他特記事項
- 本件は控訴されたが、被告は本件解雇を撤回し、平成18年3月末日限り雇用契約を解約することとしその間原告は自宅待機とすること、解決金として被告が原告に対し2000万円を支払うことで和解が成立した。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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