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M放送女子アナウンサー等配転拒否事件

事件の分類
配置転換
事件名
M放送女子アナウンサー等配転拒否事件
事件番号
宮崎地裁 − 昭和46年(ワ)第431号
当事者
原告 個人2名 A、B
被告 株式会社M放送
業種
運輸・通信業
判決・決定
判決
判決決定年月日
1976年08月20日
判決決定区分
棄却
事件の概要
 被告は、ラジオ、テレビの放送を業とする会社であり、原告Aは昭和35年9月に被告に入社し、アナウンサーとして勤務していた女性であり、原告Bは、昭和45年4月に被告に入社し、一般職員として勤務していた女性である。

 被告は、昭和46年8月16日付けで、原告Aに対してはテレビ局編成部素材課に、原告Bに対してはラジオ局運行部運行課に、それぞれ配置換えする旨命令を発した。
 これに対して原告らは、原告Aが配転された素材課は、一般職員の勤務する部署であること、原告Bが配転された運行課は技術職員の勤務する部署であることから、本件配転命令はいずれも職種変更を伴っており、労働契約に違反して無効であるとして、その確認を請求した。
主文
原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。
判決要旨
 原告Aについてはアナウンサーとして、原告Bについては一般職の職員として勤務することが、一応被告との労働契約の内容をなしていたものといわざるを得ない。しかしながら、就業規則には「会社は社員に対し、業務の都合により勤務又は職場の変更及び職務の変更を命ずることがある」旨規定され、原告らは入社の際、これを遵守する旨の誓約書を被告に差し入れていること等の事実によれば、原告らは、被告に業務上の必要のあるときは、被告が原告らに対し職務内容等の変更を命じ得ることを承認したというべきである(一般にアナウンサーはその職務の性質上年齢的身体的な条件による制約を受け易いにもかかわらずいわゆる若年定年制はとっておらず、アナウンサーとして入社した者でも或る時期に他の職務に変わって引き続き職員として勤務するのが通常であり、そのことはアナウンサーらの間にも当然のこととして認識されていることが認められる。)。そうすると、被告は業務上の必要がある場合には、原告ら社員に対し、その職務内容の変更を伴う配転命令をもなし得るものといわなければならない。

 被告の機構改革により、女子アナウンサー8名中2名が余剰人員となったこと、一方他の部門において増員を要するため、被告は2名を他の職務に配置換えしたことが認められる。被告は配転すべき女子アナウンサーの人選基準としては、能力ないし将来性が総合的に劣る者を対象者として選ぶことにしたこと、原告Aについては、女子アナウンサーの中で最年長であって若さに欠けていること(被告では、女子アナウンサーは結婚と同時に退職する例が殆どであった。)、アクセント、イントネーションにやや狂いがみられ、スピードを要求されるアナウンスが苦手で、そのための放送の失敗も1度ならずあったこと、即興性、個性の面で物足りないため、テレビの公開、中継等の番組の担当が少なかったこと等を総合的に判断し、配転の対象としたこと、そして一般事務経験に経験の乏しい原告Aにも充分勤まると判断された編成部素材課へ配転したものであることが認められる。

 原告Bが所属していた経理課では1名の余剰人員が生じたこと、経理事務の適性から原告Bが配転対象となったこと、運行課において同原告が担当すべきものとされた職務の内容は、電気、機械に関する専門的な知識、経験がなくても、短期間の訓練を受けることによって充分従事できるものであること等の事実が認められる。

 以上認定の事実によって考えるに、原告Aについては、本件配転命令は職種の変更を伴うものではあるけれども、被告の業務上の必要に基づくものと認められ、かつ原告Aを配転の対象として選定したのも、被告の恣意ではなく、一応合理的な根拠によるものと認められるので、同原告と被告間の労働契約の内容に照らし、本件配転命令は右契約に違反するものではないと解するのが相当である。また、原告Bについては、原告主張のように職種の変更とは認め難いのみならず、仮に職種の変更に当たるとしても、本件配転は被告の業務上の必要に基づくもので、その内容も不当、不合理なものとは認められないので、同原告と被告間の労働契約に違反するとはいいがたい。

 
 上記認定の諸事情、並びに原告Aに関しては、アナウンサーが一般職と異なる職務であるとはいうものの、原告Aを含め被告のアナウンサーに関する限り、あらかじめ何らかの特殊の専門教育を受けているのではなく、入社後の一定期間の社内訓練を経たのみでアナウンサーとしての実務に就いているに過ぎず、給与その他の待遇面でも他の職員と全く差異はないこと、したがって本件配転命令の結果給与面その他で不利益を受けることはないことに鑑みると、本件各配転命令が信義則に反し、人事権の濫用に当たるとはにわかに認め難い。よって原告らの本訴請求はいずれも理由がない。
適用法規・条文
なし
収録文献(出典)
判例時報828号90頁、労働経済判例速報924号3頁、判例タイムズ338号126頁、労働判例259号14頁、萩沢清彦・判例タイムズ340号90頁、香川孝三・ジュリスト669号136頁
その他特記事項
労働者側控訴後、昭和55年9月23日和解。