判例データベース
H社臨時工整理解雇上告事件
- 事件の分類
- 雇止め
- 事件名
- H社臨時工整理解雇上告事件
- 事件番号
- 最高裁 - 昭和56年(オ)第225号
- 当事者
- 上告人 個人1名
被上告人 株式会社 - 業種
- 製造業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1986年12月04日
- 判決決定区分
- 棄却
- 事件の概要
- 上告人(第1審原告・第2審被控訴人)は、昭和45年12月1日に、被上告人(第1審被告・第2審控訴人)柏工場に臨時員として雇用され、同月20日まで勤務した後、2ヶ月ごとに5回更新を重ねたが、被上告人は柏工場の業績悪化を理由に、上告人を含む臨時員、パートタイマーを昭和46年10月20日限りで雇止めとした。これに対し上告人は、本件労働契約は期間の定めがないこと、仮に期間の定めがあったとしても5回にわたる契約更新によって期間の定めのない労働契約と実質的に異ならない状態になっていたこと等を主張し、労働契約の存在確認と賃金の支払いを請求した。
第1審では、契約更新の実態からみて、本件労働契約は期間の定めのないものであったとした上で、会社全体でみると業績悪化であったとはいえず、柏工場単位でみてもさほどの業績低下があったとみることはできないこと、被上告人が希望退職の募集等解雇回避努力を十分に尽くしていないこと等を理由に、本件整理解雇は権利濫用により無効であると判断した。しかし第2審では、本件労働契約は「期間の定めのある契約」にほかならず、本工と臨時工とでは企業との結びつきの度合いに差があるから、人員削減の必要性がある以上、希望退職の募集等の手続きをとることなく臨時工を雇止めにしても、これをもって不合理とすることはできず、他方柏工場は業績悪化の下で人員削減の必要性があったとして、本件雇止めを適法なものとした。そこで上告人は、これを不服として上告したものである。 - 主文
- 本件上告を棄却する。上告費用は上告人の負担とする。
- 判決要旨
- (1)上告人は、昭和45年12月1日から同月20日までの期間を定めて被上告人の柏工場に雇用され、同月21日以降、期間2ヶ月の本件労働契約が5回更新されて昭和46年10月20日に至った臨時員である。(2)柏工場の臨時員制度は、景気変動に伴う受注の変動に応じて雇用量の調整を図る目的で設けられたものであり、臨時員の採用に当たっては簡易な方法を採っている。(3)被上告人が昭和45年8月から12月の間に採用した柏工場の臨時員90名のうち、昭和46年10月20日まで雇用関係が継続した者は、本工採用者を除けば、上告人を含む14名である。(4)柏工場においては、臨時員に対し一般的には単純な作業、精度がさほど重要視されていない作業に従事させる方針をとっており、上告人も比較的簡易な作業に従事していた。(5)被上告人は、臨時員の契約更新に当たっては、更新期間の約1週間前に本人の意思を確認し、労働契約書に臨時員の印を押印せしめていたものであり、上告人と被上告人との間の5回にわたる本件労働契約の更新は、いずれも期間満了の都度新たな契約を締結する旨を合意することによってされてきたものである。以上の認定は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として肯認することができる。
原審の確定した右事実関係の下においては、本件労働契約の期間の定めを民法90条に違反するものということはできず、また5回にわたる契約の更新によって、本件労働契約が期間の定めのない契約に転化したり、あるいは上告人と被上告人との間に期間の定めのない労働契約が存在する場合と実質的に異ならない関係が生じたということもできないというべきである。これと同旨の原審の判断は正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。本件雇止めの効力に関する原判決の判断は、本件労働契約に関する事実関係の下においては正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。被上告人が柏工場を経営上の単位として人員削減の要否を判断することが不合理とはいえず、本件雇止めが行われた昭和46年10月の時点において、柏工場における臨時員の雇止めを事業上やむを得ないとした被上告人の判断に合理性に欠ける点は見当たらず、右判断に基づき上告人に対してされた本件雇止めについては、当時の被上告人の上告人に対する対応等を考慮に容れてもこれを権利の濫用、信義則違反と断ずることができないとした原審の認定判断も、その説示に照らしていずれも肯認することができ、その過程に所論の違法はない。 - 適用法規・条文
- 収録文献(出典)
- 労働判例486号6頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
千葉地裁松戸支部 − 昭和46年(ワ)第268号 | 一部認容・一部棄却(控訴) | 1977年01月27日 |
東京高裁 − 昭和52年(ネ)第178号 | 控訴認容(上告) | 1980年12月16日 |
最高裁 - 昭和56年(オ)第225号 | 棄却 | 1986年12月04日 |