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A保育園保母解雇控訴事件

事件の分類
解雇
事件名
A保育園保母解雇控訴事件
事件番号
福岡高裁 − 昭和53年(ネ)第535号、福岡高裁 − 昭和54年(ネ)第292号
当事者
控訴人(附帯被控訴人) 社会福祉法人
被控訴人(附帯控訴人) 個人1名
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
1978年10月24日
判決決定区分
控訴棄却(上告)、附帯控訴認容
事件の概要
 控訴人(附帯被控訴人・第1審被告)は社会福祉法人で、小倉においてA幼稚園を経営しており、被控訴人(附帯控訴人・第1審原告)は、保母として同幼稚園に勤務していた女性である。

 昭和50年4月以降あさひ幼稚園の園児数が減少したことから、控訴人は定員削減を決定し、北九州市の承認を受けた。そこで控訴人は、保母を削減することとし、昭和51年3月31日をもって被控訴人他1名を解雇した。これに対し被控訴人は、控訴人が事前に人員整理の必要性について被控訴人らに対し説明して協力を求める努力をせず、希望退職募集の措置を採ることもなく、解雇日の6日前に突然通告した本件解雇は解雇権の濫用であり、解雇は無効であるとして、雇用関係の存続の確認と賃金の支払を請求した。
 第1審では本件解雇を無効としたことから、控訴人がこれを不服として控訴したものである。
主文
1 本件控訴を棄却する。

2 附帯控訴に基づき原判決主文第2項を次のとおり変更する。

3 控訴人(附帯被控訴人)は被控訴人(附帯控訴人)に対し、金584万7518円及び昭和54年5月以降毎月25日限り月額金12万3150円を支払え。

4 当審における訴訟費用はすべて控訴人(附帯被控訴人)の負担とする。
5 この判決の第3項は仮に執行することができる。
判決要旨
 昭和51年3月に保母2名の人員整理を決定した段階で、退職者の出現を予測できたか否かはともかく、現にこのような退職者をみているのであり、もし控訴人においてその従業員に対し、人員削減のやむを得ない事情などを明らかにして協力を求め、場合によっては何らかの有利な退職条件を付するなどして退職の希望を募っていたならば、あるいはこれに応ずる保母が存在した可能性がないではなく、また結果的にはこれに応ずる者がないことになったとしても、解雇が従業員の生活にもたらす重大な結果に思いを致すならば、使用者として信義則上一応その程度の措置は尽くすべきであったと解される。

 なお、証言には、控訴人が昭和51年3月5日被控訴人らの解雇を決定しながら、同月25日に解雇の通告をするまで事前に何らの予告も説明しなかった点について、事前予告が保育園内に混乱と動揺をもたらし、当時卒園期を控えた園児に悪影響を及ぼすことを恐れたためであるとする部分があるが、その点多少の影響は推認できるにしても、本件指名解雇を容認させるほどのものであったとは認め難い。してみると、控訴人の被控訴人に対する解雇は無効であり、被控訴人に対し労働契約上の地位の確認を求める部分は、まず正当として認容すべきものである。

 
 被控訴人は、解雇当時北九州市行政職俸給表8等級10号俸に相当する給与を受けており、もし本件解雇がなく正常に勤務しておれば、控訴人は、昭和51年4月から同54年4月までの本俸、諸手当、賞与の合計額として金584万7518円及び昭和54年5月以降の給与として毎月25日限り月額12万3150円を支払う義務がある。控訴人は、被控訴人が現に業務に服していないから、本件解雇が無効であっても、請求し得る給与額はその60%である旨主張するが、被控訴人が控訴人の責に帰すべき事由により就労できない状況にある本件の場合、控訴人の右主張が採用できないことは明らかである。してみると、被控訴人の本訴請求中、附帯控訴により当審で請求を拡張した分を含め、控訴人に前記金員の支払いを求めた部分も、正当としてこれを認容すべきものである。
適用法規・条文
なし
収録文献(出典)
労働判例427号64頁
その他特記事項
本件は上告された。