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O中央郵便局職場ヘルパー雇止控訴事件

事件の分類
雇止め
事件名
O中央郵便局職場ヘルパー雇止控訴事件
事件番号
大阪高裁 - 平成元年(ネ)第466号
当事者
控訴人 個人1名
被控訴人 国
業種
公務
判決・決定
判決
判決決定年月日
1991年09月17日
判決決定区分
棄却
事件の概要
 控訴人(第1審原告)は、昭和47年6月、O中央郵便局(郵便局)の職場ヘルパーを委託された女性であり、昭和58年9月30日をもって本件委託契約は終了した。これについて控訴人は、一次的に期間の定めのない非常勤職員たる地位にあることの確認、二次的に従業員たる地位にあることの確認、三次的に労働契約類似の無名契約上の地位にあることの確認を求めたが、第1審では、非常勤職員の勤務関係は公法関係にあるとした上で、予定雇用期間満了によって当然に契約関係は終了し、労働契約関係が生じる余地はないとして、控訴人の請求を棄却した。控訴人はこの判決を不服とし、その取消しを求めるとともに、本件契約が労働契約や労働契約類似の無名契約に当たらず、民法上の委託契約であるとしても、職場ヘルパー制度が存続する限り継続される期間の定めのない継続的取引契約であって、特段の理由のない限りは途中解約が許されない性格の契約であり、未だ職場ヘルパー委託契約上の地位を失っていないとして委託契約上の地位確認の請求した。
主文
本件控訴を棄却する。
当審における控訴人の新請求をいずれも棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
判決要旨
1 地位確認第一次請求について

 一般職の国家公務員の任用は、原則として競争試験又は選考のいずれかによってなされるものとされているが、非常勤職員の任用はそのいずれにもよらないで行うことができるものとされているところ、任用規定は非常勤職員は日々雇用の形態でのみ任用されるものとして、任期の定めのない非常勤職員は法的に予定していないものであり、控訴人が職場ヘルパーになるについて、試験あるいは選考を実施したことも、控訴人の任用を辞令簿等に記載し、控訴人に確認させるような措置を採ったことも全くなかった。この事実によれば、郵便局長は、職場ヘルパーを募集し、これに応募した控訴人との間に、職場ヘルパー委託契約を、民法上の準委任契約として締結したものであって、同局長において、控訴人を国家公務員としての職員として任用する意思がなかったことは明らかである。

 郵便等の事業に勤務する職員は、すべて一般職の国家公務員であり、その勤務関係の根幹をなす任用、分限、懲戒、服務等については国公法、人事院規則の規定がほぼ全面的に適用される公法上の関係であり、このことは非常勤職員についても当てはまる。そして国家公務員は、一般職と特別職とに分類されるが、すべての一般職の国家公務員は、国公法等の定めるところにより、その者の受験成績、勤務成績又はその他の能力の実証に基づいて行わなければならず、その違反に対しては刑罰を科されることとされているのである。また政府は、国公法2条7項の場合を除いて、一般職及び特別職以外の勤務者を置いてその勤務に対し給与を支払ってはならず、その違反に対しても罰則が科されることとされている。したがって、被控訴人による国家公務員の任用は、国公法等に従ってなされ、公法上の行為であると解すべきものであるから、国公法等の規定と関係なくなされ、公法上の関係の発生を意図しない、単なる私法上の契約締結行為である本件契約の締結をもって、それが仮に労働契約に該当するものであるとしても、被控訴人による国家公務員の任用行為とみなすことは到底できないものというべきである。

2 地位確認第二次請求について

 控訴人は職場ヘルパーについて、(1)作業等は担当者の指示によってなされていたこと、(2)作業等をするか否かについての自由がなかったこと、(3)勤務時間及び勤務場所が指定され、管理されていたこと、(4)報酬名目で支払われた金員は月額で定められていたが、執務しない日は1日分の報酬が減額される一方、時間延長についてはそれに対応する時間当たりの追加報酬が支給されたこと、(5)日誌の作成及びその記載方法について局側の指示や禁止があったことから、職場ヘルパーの業務は郵便局長の指揮命令に基づく従属労働であると主張する。しかしながら、(1)職服の繕い及び休憩室の清掃は業務の主要な一部をなしていたため、担当者が委託業務の内容の説明として言及したものであって、その内容も一般的、概括的な内容にとどまること、(2)職場ヘルパーは委託契約により委託事項にかかる業務を包括的に受諾したものであるから、その受諾にかかる業務であることの明らかな具体的な作業の依頼についてこれを拒否する自由が制限されることは当然であること、(3)職場ヘルパーは郵便外務員の職場で1日4時間業務に従事する拘束を受け、その時間帯も定められていたが、委託業務は外務員の執務場所や執務時間を離れては処理し難い性質のものであり、そのため必然的に郵便外務員の執務場所及び執務時間に密接に関連し、連動する関係にあるから、職場ヘルパーの執務場所及び執務時間が指定されていたからといって、直ちに業務遂行に対する指揮命令とは断定し難いこと、(4)委託業務の性質上、その処理が執務時間内になされることを必然とする関係にあったから、報酬が執務時間に対応して定められているからといって、その執務が指揮命令に基づく従属労働に対する対価であるとのみ理解しなければならないものではないこと、(5)職場ヘルパーが委託契約に基づいて毎日日誌を作成して委託業務の遂行結果について報告していることは、指揮命令に基づく従属労働の根拠とはならないことというべきである。

 以上によると、本件委託契約に基づいて職場ヘルパーが行う労務の提供は、委託者である郵便局長の指揮命令に服してなされる従属労働であるとすることはできないのであって、本件委託契約は、前記委託業務の処理を内容とする準委任契約関係であるというべきである。

3 地位確認第三次請求について

 本件委託契約が労働契約と認められない以上、労働契約であってこそ適用のある解雇制限法理等が本件委託契約に適用される余地はないというほかはない。

4 地位確認第四次請求について
 本件委託契約は期間の定めのあるものとして更新されてきたところ、昭和58年4月11日締結の委託契約までは、控訴人あるいは郵便局長のいずれかから解約あるいは解除の意思表示がない限りは、更新の予定された期間の定めのある委託契約として継続されてきたものと認められないではない。しかしながら、郵便局長と控訴人とは、自動更新条項を含めた契約期間の記載のある委託契約及びそれを改定する契約についての契約書のすべてを現実に取り交わしており、控訴人も本件委託契約が期間の定めのある契約として継続されていたことを十分に認識していたものと認められるから、本件委託契約が期限の定めのないものに転化したものということはできない上、郵便局長が昭和58年4月に、控訴人と同年9月30日までを期限とする委託契約を、期間満了後の更新はないものとして締結したものというべきである。したがって、本件委託契約は期間の定めのない民法上の委託契約であったということはできないから、昭和58年4月11日締結の職場ヘルパー委託契約による約定期間の最終日である同年9月30日の経過によって、当然に終了したものというほかはない。
適用法規・条文
収録文献(出典)
労働判例600号61頁
その他特記事項
本件は上告された。