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K市労働相談所相談員雇止事件

事件の分類
雇止め
事件名
K市労働相談所相談員雇止事件
事件番号
釧路地裁 − 昭和58年(ワ)第86号
当事者
原告 個人1名
被告 K市
業種
農業
判決・決定
判決
判決決定年月日
1991年11月22日
判決決定区分
棄却(控訴)
事件の概要
 原告は、被告市長から労働相談員の委嘱辞令を受け、被告の公務員として雇用労働相談所の事務に従事してきた女性である。

被告市長は、当時炭鉱主婦会の役員を務め、パート労働に携わる原告に対し直接労働相談業務に従事することを要請し、原告がこれを承諾したことから、昭和46年6月1日に辞令を交付したが、同辞令には「釧路市労働相談員を嘱託する」との記載はあったが、任期の記載はなかった。原告は昭和47年4月1日に同様の辞令を受けたが、同年11月から病気療養したため、昭和48年3月31日限りで退職となった。そして同年5月7日、原告は改めて労働相談員としての辞令を受けたところ、その辞令には「昭和49年3月31日まで嘱託する」との記載があった。その後原告は、ほぼ1年ごとに同様の辞令を受け、雇用労働相談の業務に携わってきたが、被告職員の人事の活性化、新陳代謝を図ること等を理由として、被告から昭和57年10月1日、任期を6ヶ月とする辞令の交付を最後に、以後は任用を更新しない旨通告された。
これに対し原告は、地方公務員法17条に基づき期限の定めのない一般職として被告に任用されたものであること、そうでないとしても、原告は任期の定めのない特別職の地方公務員(地方公務員法3条3項3号の非常勤嘱託員)として任用されたものであること、仮に任期の定めがあったとしても、期限付き任用が許されるのは、それを必要とする特段の事由があり、かつ職員の身分保障の趣旨に反しないという要件を満たす場合に限られるところ、原告にはこのような要件を満たすことはないので、任期の定めは無効であることを主張し、主位的には被告の職員たる地位を有することの確認、予備的には被告に対し、給与相当損害額453万8780円及び慰謝料100万円の支払いを請求した。
主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
判決要旨
1 原告の地位について

 公務員の任用は任用権者による行政行為の性質を有するものであるから、公務員がいかなる地位、身分を取得するかは、任命権者の任用行為の内容、すなわち任命権者が法の予定している任用類型のうちいずれを選択したかということによって定まるものである。そして任命権者の右意思は、辞令の記載により判断されるべきものであるが、これにより任用類型が必ずしも明らかでないときは職名やそれを規定する法令などを資料として解釈されるのであり、当該公務員の担っている職種、勤務条件などの実態を具体的に検討することによってのみ即断されるべきものではない。

 原告にこれまで交付されてきた辞令には、一般職を任用するに当たっては使用されない「嘱託」という文言が使われていること、被告市長は原告の活動に着目して年齢の高い原告を厳格な成績主義によらず労働相談員に任用したものであり、恒常的に一般職と同様の事務を担当することがあり、定額の報酬を受けていたとしても、原告は労働相談室規程などにいう「学識経験者」に当たること、国家公務員においては非常勤職員の勤務時間は常勤職員の4分の3以下とされているところ、原告も常勤一般職と比較して4分の3以下であること、報酬の支給、休暇制度、共済制度についても、一般職とは明らかに異なった扱いを受けていることが認められるのであって、原告に対する任用は、いずれも地方公務員法3条3項3号所定の「非常勤の嘱託員」への任用であったものというべきである。

 被告市長は、もともと釧路市労働相談室規程に基づいて原告を労働相談員に任用したものであって、同規程には労働相談員の任期は1年と明記されており、雇用労働相談所規程に改訂された後も同様であること、原告は辞令上も1年を超えない任期を定めて任用が更新されていること、原告は病気のため昭和48年3月31日限りで退職扱いとなり、同年5月7日改めて発令を受けたことからすると、原告の任用については当初から任期の定めがあり、その後も期限付きの任用が繰り返されていたと認めることができ、その職務内容からみて期限付きの任用を違法であるということはできない。

2 解雇に関する法理の適用について

 期限付き任用と期限の定めのない任用とは性質の異なる別個の行政行為であるから、期限を付した特別職への任用がいくら繰り返されたとしても、一般職や期限の定めない任用へ転化することはあり得ないのは当然である。もっとも、私人間の労働契約においては、短期の期限を付した雇用契約が多数回更新されており、いずれかから格別の意思表示がなければ当然更新されるべき労働契約を締結する意思であった等の事情があって、あたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在していたと認められる場合には、その更新拒絶に解雇に関する法理が類推適用されることがあるが、原告に対して任用の都度辞令の交付が行われて新たなる任用が行われていることが明確にされている本件にあっては、右の法理が適用になる余地はない。

3 不法行為の成否について
 そもそも地方公務員を任用するかどうかは任命権者の自由裁量に属するものであり、かつ特別職の任用には厳格な成績主義の適用はないから、右の裁量権はきわめて広範なものというべきであり、私怨などを理由としてことさらに任用を拒否するなど、その裁量を著しく逸脱したと認められるきわめて例外的な場合を除いては、ある者を特別職に任用しなかったという不作為は当不当の問題は生じても、違法の問題は生じないものと解するべきである。被告においては、行政改革の一環として嘱託職員の見直しが検討され、65歳以上あるいは7年ないし10年以上任用されている者については、今後任用しないことに決定され、これに基づいて被告は原告に任用しない方針を告げたところ、職員団体との交渉になり、その結果昭和58年3月31日までの期限付きで原告を任用したことが認められる。被告に7年ないし10年以上勤務している「嘱託職員」で、昭和56、57年度に勇退した者は合計12名であり、再任された者は後任者がいないなどやむを得ない場合に限られていた。以上によれば、被告市長が原告に対し任用を更新しなかったことにはその裁量を逸脱した違法又は原告のいう手続き上の違法があるということはできない。また、原告は任期の終了により当然にその公務員たる地位を失い、新たな任用については被告市長の自由裁量に属するものであるから、原告が労働相談員として長期間その地位に止まることができるという期待は法的に根拠のないものであり、その期待を侵害されたのでその賠償を求めるという原告の主張は理由がない。もっとも、任命権者である被告市長が誤って右のような期待を原告に与えたとすると、市長による不法行為が成立する余地も生ずることになるが、原告自身当初から「正規の職員」として任用されたとは考えていなかったこと、原告は任用されていた期間を通じ、1年以内には必ず辞令の交付を受けていたことに照らせば、被告が原告に任期の定めのないものとして任用されたと誤認させ、あるいは任用が当然に更新されるという期待を抱かせたということもできないから、右事実をもって不法行為が成立するということもできない。
適用法規・条文
地方公務員法3条3項
収録文献(出典)
労働判例620号82頁
その他特記事項
本件は控訴された。