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N社パートタイマー雇用契約更新拒絶事件

事件の分類
雇止め
事件名
N社パートタイマー雇用契約更新拒絶事件
事件番号
東京地裁八王子支部 − 平成5年(ヨ)第137号
当事者
その他債権者 個人2名 A、B
その他債務者 株式会社
業種
製造業
判決・決定
決定
判決決定年月日
1993年10月25日
判決決定区分
却下
事件の概要
 債務者(会社)は、電子光学機器、半導体関連機器等の製造・販売を目的とする会社であり、債権者Aは、平成4年2月12日、雇用期間を同年3月31日までのパートタイマーとして会社に雇い入れられ、その後雇用期間6ヶ月で2回雇用契約の更新を行い、一般事務に従事していた女性であり、原告Bは、昭和59年2月1日パートタイマーとして会社に雇い入れられ、その後期間6ヶ月で18回雇用契約の更新を行い、CADオペレーター等の業務に従事していた女性である。

 会社は、平成3年度後半より業績不振となったことから、平成4年10月再建委員会を発足させ、基本的な再建策を決定した。そのうち人件費の削減策として、会社は有期契約を締結している嘱託37名中7名の更新を拒絶するとともに、パートタイマー99名中62名の契約更新を拒絶することを決定し、平成5年1月に債権者らに対し更新拒絶を通知した。会社は更新拒絶について債権者ら2名の納得を得られなかったため、債権者らに対し予告手当相当分を含めた寸志を振り込み、同年4月1日からの債権者らの就労を拒否した。
 これに対し債権者らは、本件雇用契約は更新を重ね、あたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在していたから、本件更新拒絶は解雇に当たり、その効力については解雇権濫用の法理が類推適用されるべきであるところ、会社には平成5年度新卒者を採用し、社員の賃上げ・賞与の支給を予定しているなど整理解雇の必要性がなく、解雇回避の努力も尽くされていないこと、人選の合理性もないこと、かつ労働者との協議もなくなされたものであることから、本件更新拒絶は解雇権の濫用に当たり、あるいは信義則に反し無効であるとして、従業員たる地位にあることの確認と賃金の支払いを請求した。
主文
1 本件申立てを却下する。
2 申立費用は債権者らの負担とする。
判決要旨
1 債権者らの雇用契約の性質

 債権者らの雇用契約は6ヶ月の期間の定めのある契約と一応認められ、債権者らが主張するように、あたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在しており、期間の定めのない契約と同視すべき関係にあったとは到底いえないが、パートタイマーが従事した業務は臨時的性格を有するものではなく、その雇用契約については、労使双方ともある程度の継続を期待していたものであり、実際、債権者らの雇用契約も更新が重ねられていたのであるから、債権者らにおいて、ある程度雇用の継続を期待することに合理性を肯認でき、よって解雇に関する法理を類推し、人員削減を行うこともやむを得ないと認められるような特段の事情が存しない限り、期間の満了のみを理由に債権者らの雇用契約が終了したとして、その更新を拒絶することは濫用にわたり、あるいは信義則違反として許されないと解される。もっとも、比較的簡易な採用手続きで短期の有期契約を締結しているパートタイマーに対する更新拒絶の効力を判断すべき基準は、終身雇用の期待の下に期間の定めのない雇用契約を締結している正社員を解雇する場合とは自ずから合理的な差異があるべきことはいうまでもない。

2 本件更新拒絶の効力

 新卒者の採用は会社の基幹たるべき正社員の採用であり、それが直ちにパートタイマーに対する更新拒絶の必要性を否定することにはならない。平成5年度においては、会社の役員、社員とも年収額において減収になる見込みであり、昇給や賞与の支給は諸般の事情を考慮した上での経営判断であり、特別不合理な点も見当たらない。会社ではCADによる立体図製作などの仕事を関係会社あるいは派遣社員に行わせており、債権者らの更新拒絶後も引き続き派遣社員の使用を継続させ、新たに外注化した仕事もあるが、会社は経費総額を削減し、その削減した予算の範囲内で業務上不可欠と判断された業務について外注を行う等の措置として行っていることが認められるところ、その判断が不合理であると窺わせるような疎明はない。会社はパートタイマーについて出向、一時帰休、勤務時間の短縮などの措置をとっていないが、出向、一時帰休は正社員のみに適用される雇用調整のための制度であることが認められるから、これをパートタイマーに適用する余地はないし、パートタイマー99名中60名以上の更新を拒絶しなければならないような経営状態の下にあっては、勤務時間の短縮が有効適切な措置であったとは到底認められない。会社は、内部留保金の取崩しや固定資産の処分等を行わず、雇用調整助成金の申請も行っていないが、内部留保の取崩しや処分、申請等を行うことが業績悪化の打開のため、より有効適切な手段であったと窺わせるような疎明もない。以上から、本件更新拒絶はその必要がなく、解雇回避の努力も尽くされていなかったということはできない。

 債権者らは、更新を拒否されたパートタイマーは一部の者であるところ、その人選は一方的で不合理であり、整理基準及び具体的人選も合理的でなかった旨主張するが、会社はパートタイマー99名中、業務遂行上不可欠と判断した37名を除いた62名を余剰人員として削減したものであるところ、仮に希望退職者を募集したとして、それによって削減予定数が消化され、債権者らが更新拒絶を免れたと窺わせる疎明はないし、残存させたパートタイマーの選定が恣意的に行われたと窺わせるような疎明もない。また、債権者らと同職種のパートタイマーの中で更新拒絶された者と更新された者との振分けに不合理な点があったと窺わせるような疎明もないこと、希望退職を募って残ったパートタイマーについて、配置転換や転籍・出向が可能であったとの点、関連会社において会社の余剰人員となったパートタイマーを吸収する余地があった点等について疎明もないことに照らせば、本件更新拒絶が回避のための努力を尽くさず行われたものであり、整理基準及び具体的人選に合理性がなかったということはできない。

 債権者らは、会社の業績悪化は経営政策や労務政策の失敗に起因するものであるから、労働者を犠牲にする更新拒絶は許されない旨主張するが、会社の業績が悪化し合理化を必要とする事態に至った原因は、不況による受注、売上げの減少という外部的客観的要因に帰するところが多いと認められるから、これを専ら経営者の責任であるとして、本件更新拒絶の効力を否定することはできない。
 以上によれば、債権者らを含む62名のパートタイマーに対して更新を拒絶する必要があるとした会社の判断には、解雇の法理を類推し、更新拒絶の必要性、回避のための努力、整理基準及び具体的人選の合理性、手続きの相当性などの諸点から検討し、雇用調整が労働者に対して多大な不利益を与えることに鑑み、経営危機を乗り切るための最後の手段であるべきことを考慮しても不合理な点は見当たらず、本件更新拒絶もやむを得ないと認められる特段の事情があったと一応認められるから、これを有効と解するのが相当である。
適用法規・条文
なし
収録文献(出典)
労働判例640号55頁
その他特記事項