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S銀行整理解雇異議申立事件

事件の分類
解雇
事件名
S銀行整理解雇異議申立事件
事件番号
大阪地裁 - 平成11年(モ)第57026号
当事者
その他債権者 個人2名 A、B
その他債務者 銀行
業種
金融・保険業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2000年05月22日
判決決定区分
取消
事件の概要
 債務者は、シンガポール共和国に本店を置く銀行であり、債権者らは事務職員として債務者大阪支店に勤務していた女性である。

 債務者は、平成11年3月4日、債権者らを含む大阪支店従業員に対し、同年6、7月頃に同支店を閉鎖すると発表し、同年4月5日、支店従業員全員に対し、希望退職に応じるよう要請し、希望退職を募る条件として、(1)追加退職金として基本給及び職務手当の各6ヶ月分を支給、(2)未消化の年休の買上げ、(3)同年夏季賞与の比例割合分の支給、(4)転職斡旋サービスの実施(希望退職パッケージ)を提案した。

 その後、債権者らとその所属組合は債務者と数度の交渉を行い、東京支店への配転を求めたが、債務者は配転には応じなかった。債務者は、大阪支店の従業員6名中4名が希望退職パッケージに応じる中で、債務者ら2名がこれに応じなかったため、債権者らを同年6月15日付けで解雇したところ、債権者らは、本件解雇の無効を主張し、債務者に対して従業員の地位保全と賃金の支払いを求めて仮処分の申請を行った。
 仮処分決定では、債務者は債権者を東京支店に配転することが可能であったところ、東京支店では希望退職募集をすることなく、新規採用も行っていることから、解雇回避のための真摯な努力を怠ったとして、本件解雇を解雇権の濫用として無効と決定したことから、債務者は、この決定に対し異議の申立てを行った。
主文
1 債権者らの債務者に対する大阪地方裁判所平成11年(ヨ)10060号地位保全等仮処分命令申立事件について、同裁判所が平成11年9月29日にした決定のうち、主文第1項を取り消す。

2 債権者らの本件仮処分命令申立てをいずれも却下する。
3 申立費用は、保全異議申立ての前後を通じ、債権者らの負担とする。
判決要旨
1 整理解雇の要件について

 整理解雇が有効と認められるためには、第1に、人員整理の必要性が存すること、第2に、使用者が解雇回避のための努力をしたこと、第3に、被解雇者の選定が合理的であること、第4に、使用者が労働者や労働組合に対して、人員整理の必要性等について説明や協議を行ったことが必要であり、整理解雇が有効か否かはこれらの要件該当性の有無、程度を総合的に考慮して判断されるべきであると解する。

 民法や労働基準法は解雇権の行使に何らの制約を加えていないが、解雇権の行使といえども、それが客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当として是認できない場合には権利の濫用(民法1条3項)として無効とされるべきことはいうまでもないことである。そして、長期雇用を一般的な基盤とするわが国の雇用制度の下では、期間の定めなく雇用される労働者は定年までの終身雇用を期待するのが通常であり、そのことはわが国の現在の社会通念になっていると考えられる。他方、整理解雇は、使用者側の経営上の理由のみに基づいて行われるものであり、その結果、何らの帰責事由もなしに労働者の生活に直接かつ重大な影響を及ぼすのであるから、恣意的な整理解雇は到底是認できるものではなく、その場合の解雇権の行使が一定の制約を受けることはやむを得ないことというべきである。

2 人員整理の必要性

 債務者では、長引く不況等により在日支店の経常利益は年々減少し続け、大阪支店では平成11年度には赤字に転落している。債務者はこのような収益状況等に加え、大会社の多くが東京に本社を構えていること、大阪で新たな収入源の獲得は期待できないこと等から平成11年1月、債務者は大阪支店閉鎖の方針を決定した。一方東京支店では、毎年1ないし5名の新規採用を行っているが、これは中途退職者の補充であること、債権者らが担当していた業務と同種業務の件数が減少し、その他の業務も縮小してきているため東京支店に人員補充の必要は認められない。債務者在日支店の業績不振は明らかであり、とりわけ大阪支店は平成11年度に赤字にまで転落しているのであって、業績好転に繋がる材料もないことから、大阪支店閉鎖を不当とすべき理由も見出せない。他方、大阪支店閉鎖に伴い業務を東京支店に引き継いでいるが、営業を1店舗に集約すれば余剰人員が生じるのは避けられないところ、加えて両支店ともここ数年は人員削減などをしてきたのであるから、人員整理の必要性が存したことを認めることができる。

3 本件解雇の必要性

 債権者らは、在日両支店は一体関係にあったとして、本件解雇に先立ち、債権者らを東京支店に配転させるべく検討し、必要があれば東京支店でも希望退職を募るなどの解雇回避努力を行うべき義務があったと主張する。債務者就業規則には従業員を他の支店、子会社へ転勤させる旨の規定があり、過去に東京支店から大阪支店へ配転された従業員が1名いたこと、大阪支店副支店長が債権者らに東京支店への配転の可能性を示唆する発言をしたことは認められるが、これらのことから、両支店が一体関係にあると帰結できるものではないし、転勤の可能性の根拠とすることもできない。むしろ、大阪支店の営業活動の範囲や取引先は東京支店とは自ずと異なっていたと考えられるし、独立採算がとられていること、従業員の採用方法も賃金等の待遇面でも両支店では異なり、大阪支店開設時の例外的な1名の転勤を除いては両支店間での人事交流もなかったことなどを総合すると、両支店の一体関係を理由として、債務者が東京支店でも希望退職者募集の措置を取るべきであったと認めることはできない。

 もともと債務者は、積極的な業務拡大を目的として事業所の統廃合を行おうとしているのではなく、業績不振から事業を縮小しようとしているものであること、在日支店は独立に事業運営を行ってきており、一般従業員の在日支店間の人事交流は予定されていなかったと認められることなどを併せ勘案すると、債務者には、債権者らの解雇に先立ち、経済的負担や業務の停滞を甘受してまで、東京支店における希望退職者を募集する義務があったとまでは認められない。

 債務者は、希望退職パッケージを付した希望退職者の募集を行っているが、その内容も最終的には通常の5割増の退職一時金、基本給及び職務手当の1年分の追加退職金を支給した上、未消化の年次有給休暇の買上げや夏季賞与の比例割合分の支給を行うというもので、従業員の当面の生活困窮に対する一応の経済的配慮は払われているし、加えて、転職斡旋サービスをも行うというものであるから、これが解雇回避の措置として不相当ということはできない。

4 人選の合理性、手続きの妥当性

 本件解雇は、債権者らのみを別異に扱ったものではなく、大阪支店従業員一律に希望退職を募集し、これに応じなかった債権者らを解雇したものであり、その旨の予告もされていたのであるから、人選に不合理と認めるべき点はない。

 債務者は大阪支店閉鎖の発表後、組合とは前後7回の団体交渉を行い、その中で東京転勤は不可能であることを説明するとともに、交渉の結果、希望退職の募集条件を上乗せするなどそれなりの柔軟性を見せてきており、格別不誠実と目すべき対応は認められないから、本件解雇が手続的にも不当であったとは認められない。
 以上を総合すると、本件解雇は、整理解雇としての有効要件を満たすものというべきであり、客観的にみて合理的な理由について一応の疎明があり、解雇権を濫用したものとは認められない。
適用法規・条文
なし
収録文献(出典)
労働経済判例速報1742号16頁
その他特記事項
本件は本訴に移行した。