判例データベース
S銀行整理解雇事件
- 事件の分類
- 解雇
- 事件名
- S銀行整理解雇事件
- 事件番号
- 大阪地裁 − 平成11年(ワ)第12411号
- 当事者
- 原告 個人2名 A、B
被告 S銀行 - 業種
- 金融・保険業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2000年06月23日
- 判決決定区分
- 棄却
- 事件の概要
- 被告は、シンガポール共和国に本店を置き、日本に2店舗を置く銀行であり、原告らは被告大阪支店に勤務していた女性である。
被告は、平成11年3月4日、原告らを含む大阪支店従業員に対し、大阪支店の閉鎖を発表し、退職一時金の上乗せなどにより希望退職を要請した。原告らとその所属組合は、東京支店への配転を求めて被告と数度交渉を行ったが、被告は退職一時金の上乗せなど退職条件を改善したものの、配転には応じなかった。被告は大阪支店従業員のうち原告ら以外の全員が希望退職に応じる中で、原告らがあくまでもこれに応じなかったことから、原告らを同年6月15日付けで解雇した。これに対し原告らは、本件解雇は解雇回避努力を尽くさず行われたもので、解雇権の濫用に当たり無効であると主張し、従業員としての地位の保全と賃金の支払いを求めて仮処分の申請を行った。
仮処分決定においては、債務者(被告)は債権者(原告)を東京支店に配転させることが可能であったところ、東京支店では希望退職を募ることもなく、新規採用も行っていることから、解雇回避のための真摯な努力を怠ったとして、本件解雇を解雇権の濫用として無効と決定した。債務者はこの決定を不服として異議申立てを行ったところ、本件解雇は解雇回避努力も尽くし、整理解雇の4条件をいずれも満たすものとして、債務者の異議を認めた。そこで原告らは、従業員としての地位にあることの確認及び賃金の支払い並びに300万円の慰謝料を求めて本訴に及んだ。 - 主文
- 1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。 - 判決要旨
- 解雇は、労働者の権利義務に重大な影響を及ぼすものであるから、社会通念に反する解雇が権利の濫用として許されないのはいうまでもないところである。営業の縮小などに伴う人員整理の必要から行われる解雇は、使用者の経営上の理由のみに基づいて行われるもので、その結果、労働者に何の帰責事由もないのに重大な生活上の影響を及ぼすものであるから、解雇の必要がなくされることは許されないし、その必要がある場合でも、これに先立ち解雇回避の努力をすべき義務がある。いわゆる整理解雇が有効であるためには、第1に人員整理が必要であること、第2に解雇回避の努力がされたこと、第3に被解雇者の選定が合理的であること、第4に解雇の手続きが妥当であることの4要件が要求されており、当裁判所もいわゆる整理解雇については、右4要件該当の有無、程度を総合的に判断してその効力を判断すべきものと思料する。
被告においては平成11年度に経常利益が大幅に減少し、それまで大阪支店の従業員数は漸次減少するとともに、東京支店の業務量も減少傾向にあり、従業員数も減少していた。こうした状況から、被告は平成11年1月に大阪支店の閉鎖を決定したものであるが、わが国ではバブル崩壊後不況が長引き、金融機関の破綻もあり、大阪支店の閉鎖は、収支状況の現状を踏まえ、業績改善の見通しがないことから行われたもので、これを不当とする理由はない。ところで、支店を統合した場合、余剰人員が生じるのは避けられないが、東京支店の従業員は年々減少しており、大阪支店の業務を東京支店に移転しても、更に人員の減少を見込んでいたことを認めることができる。被告が平成10年まで、東京支店において新規に従業員を雇用していることは認められるが、これは退職者の補充であり、大阪支店閉鎖が決定される前のことであるから、右雇用をもって人員整理の必要性を否定することはできない。以上によれば、被告において、大阪支店の閉鎖により、人員整理の必要性が生じたことを認めることができる。
原告らは、原告らを転勤させるために、東京支店において希望退職を募るべきであったと主張するが、被告の企業規模は、平成11年5月当時21人と比較的小さく、専門的な知識や高度な能力を必要とする部分があり、このように小規模な職場において希望退職を募ることは、これによって原告らを就労させることができる適当な部署が生じるとは必ずしもいえない上、代替不可能な従業員や有能な従業員が退職することになったりして、業務に混乱を生じる可能性を否定できず、従業員に無用の不安を生じさせることもあるし、自然減による減少に比べて費用負担が増加することになる。また、原告らが就労可能な部署が生じたとしても、東京支店への転勤は住居を移転した転勤となり、これに伴い費用が生じるところ、原告らは住居費、帰省費用などの被告負担を主張しており、被告がこれに応じれば被告の負担となり、応じない場合には原告らが転勤に応じるとは限らないから、その場合、希望退職を募ったことは全く無意味となる。これらの不都合を考慮すれば、被告が東京支店において希望退職の募集をしなかったことをもって、不当ということはできない。
被告は、大阪支店従業員に対し、被告負担による転職斡旋会社のサービス提供を含む希望退職パッケージを提案し、通常退職金を5割増とし、基本給及び職務手当の各12ヶ月分を支給するなど、組合の提案に譲歩し、求人情報を提供する等して、大阪支店における希望退職を勧誘してきた。これらを総合考慮すれば、被告が解雇回避努力を欠いたということはできないし、転勤ができないのであれば、大阪支店の従業員が解雇の対象となることはやむを得ないところである。
原告らは、団体交渉において、原告らの東京支店への転勤を求め、宿泊費・交通費の支給、帰省費用の支給、被告負担による社宅の提供等を求めるとともに、組合に対し迷惑料として500万円を支払うよう求めた。被告は希望退職パッケージを提案して希望退職を募集したが、原告ら及び組合はこれに納得せず、交渉が続けられ、被告は退職金の提案はしたものの、東京支店への配転には応じなかった。これに対し原告らと組合はあくまでも東京支店への転勤を求めたことから、本件解雇になったものである。
以上によれば、東京転勤について被告が拒否する理由の説明としては、東京支店において原告らを配置するポジションがないというものであったが、交渉の経緯をみても、被告の対応に妥当でない点があったとまでは認められない。
以上を総合すれば、本件解雇は、整理解雇の要件を満たすものということができ、解雇権を濫用したとまで認めることはできない。 - 適用法規・条文
- なし
- 収録文献(出典)
- 労働経済判例速報1752号17頁
- その他特記事項
- 本件は、仮処分決定及びそれに対する異議申立に対する決定がなされている。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
大阪地裁 - 平成11年(ヨ)第10060号 | 一部認容・一部却下 | 1999年09月29日 |
大阪地裁 - 平成11年(モ)第57026号 | 取消 | 2000年05月22日 |
大阪地裁 − 平成11年(ワ)第12411号 | 棄却 | 2000年06月23日 |