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学校法人I学園未入籍妊娠解雇事件
- 事件の分類
- 解雇
- 事件名
- 学校法人I学園未入籍妊娠解雇事件
- 事件番号
- 大阪地裁 − 平成13年(ワ)第400号
- 当事者
- 原告 1名
被告 学校法人I学園
被告 個人1名A(幼稚園園長) - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2002年03月13日
- 判決決定区分
- 認容
- 事件の概要
- 原告は、被告学園が経営する幼稚園を一旦退職した後、平成11年7月に再雇用され、同年8月から正規職員になった。原告は平成12年6月頃妊娠していることが判明し、産婦人科を受診したところ、切迫流産、子宮頚管ポリープの診断を受け、即日入院した。原告が被告A(園長)にこの旨報告したところ、被告Aは原告を軽率であると責め、暗に中絶することを促した。原告は絶対安静を指示されていたが、被告Aの反応もあって同年8月19日、幼稚園の行事もあることから出勤し、数日後再入院を余儀なくされたため、被告Aは原告の後任を確保し、同年9月19日、原告に対し後任が見つかったので退職するよう連絡した。原告は同月23日流産したので、被告Aにこれを連絡するとともに、職場復帰の希望を伝えたところ、被告Aは原告に退職届の提出を督促した。原告は地元の労働組合に加入し、被告Aと団交をしたが、被告Aは、原告は未入籍まま妊娠し、住居を変更しながら届出せずに通勤手当を詐取し、園児出席簿の作成を怠るなど、教育者として不適格であり、幼稚園の社会的信用を傷つけたとの理由で、同年10月20日付けで原告を解雇した。
これに対し原告は、本件解雇は無効であるとして、幼稚園教諭としての地位の確認と賃金の支払いを請求するとともに、被告Aの言動によって著しく精神的苦痛を受けたとして、被告らに対し不法行為に基づく損害賠償を請求した。 - 主文
- 判決要旨
- 1 本件労働契約の合意解約の有無
原告が産婦人科の医師から退院後も絶対安静を指示されていたにもかかわらず、平成12年8月19日から出勤していること、被告学園の就業規則では、依願退職の場合退職願を提出することが予定されているところ、原告が被告Aから同年9月23日に退職届の提出を催促されたがその提出をせず、かえって同年10月11日には退職強要があったことを理由に組合に加入していること、同年8月21日、他の教諭らに妊娠の事実は告げたのに、その際退職する予定であるとは告げていないこと、被告学園が離職票や資格喪失報告書において離職理由や資格喪失事由を解雇として取り扱っており、また被告学園は当初同年10月20日付け解雇としていたこと、就業規則上被告学園には原告の10月分の給与を満額支給する必要がないにもかかわらず、本俸について満額支給していることを併せ考慮すると、原告と被告学園との間には本件労働契約の合意解約が成立したと認めることはできない。
2 本件解雇の有効性
原告は、平成11年11月頃から、男性Kと同居を始めたにも関わらず、被告学園には住所変更を届け出ず、通勤手当についても従前からの届出住所地からの通勤に要する金額を受給していることが認められるから、就業規則に違反し、服務規律違反が存したといわざるを得ない。しかしながら、原告はKと未入籍状態のまま被告幼稚園の近隣に転居した旨報告すれば、被告Aから厳しい叱責や強い退職勧奨を受ける可能性があると判断して、住所地の変更を申し出なかったものと認められることや、被告Aが従前から、園児の父兄らの目があるので私生活に気をつけるように指導していた旨供述しているなど、当時被告幼稚園では被告Aに対して未入籍の状態で近隣に居住した旨の報告をしづらい状況であったのであり、そのような状況を作出した一因は被告Aにもある。したがって、住所地の変更を申し出なかったことにつき、原告のみを非難することはできないというべきである。以上に加え、住所地の虚偽申告については、手当の不正受給額以外には被告幼稚園の運営において実害が生じたとの事実が窺われないこと、不正受給期間が約9ヶ月間であり、比較的短期間であることも併せ鑑みると、原告の服務規律違反の程度は重大なものとはいえない。
被告幼稚園の園児出席簿の作成については、保育ダイアリーに記録して、事後的に園児出席簿に転記するのが実態であったと認めるのが相当であり、被告Aも同事実を認識し、又は認識することが容易に可能であったにもかかわらず、かかる実態を放置していたというべきである。とすれば、原告が園児出席簿を作成していなかったことをもって、被告学園が職務懈怠と評価することは許されないというべきである。
被告学園は、原告が私事によって長期間担任教諭としての職務を果たせなかったことにより、被告学園の信用を失墜させた旨主張する。しかしながら、雇用均等法8条によれば、女性労働者による妊娠又は出産を理由とする解雇は禁止されているところ、被告らの主張を前提とすれば、結局教員が学期途中に妊娠した事実をもって解雇理由になり得るから、不相当であり、採用することはできない。
以上によれば、被告学園が主張する解雇事由のうち、住所地の虚偽申告及び通勤手当の不当受給のみが解雇の理由となり得べきものであるところ、原告が住所地変更を申告できなかったことの一因が被告Aにあること、住所地の虚偽申告については、被告幼稚園の運営に重大な事実が生じたとの事実が窺われないこと、通勤手当の不正受給期間が比較的短期間であることを併せ考慮すると、原告を解雇しなければならない程度の服務規律違反の重大性は認められないから、本件解雇は解雇権の濫用として無効というべきである。
3 被告らの法的責任
原告が被告Aに対して妊娠の事実を告げた後、被告Aから軽率であったのではないかと非難されるとともに、出産や妊娠についてはこれからも機会があるのではないかと、暗に中絶を勧められ、更に原告が中絶できない旨述べたところ、被告Aから園児のことをどう考えているのか問い質されるとともに、妊娠という私事によって仕事を全くできない状態を作出したので、教師としても社会人としても無責任である旨非難され、また私立幼稚園では育児休業中の代替教員をすぐに採用することは難しい旨告げられた上で、被告Aから退職を勧められた事実が認められる。このような被告Aの一連の発言は、原告に退職を一方的に迫っていると評価されてもやむを得ないものである。更にやむなく夏季保育のため出勤した原告は、流産という女性として耐え難い状態に陥ったにもかかわらず、被告Aは退職届の提出を執拗に求め、退職を強要した上、結局解雇したことが認められる。
以上によれば、被告Aによる上記一連の行為は、原告の妊娠を理由とする中絶の勧告、退職の強要及び解雇であり、雇用機会均等法8条の趣旨に反する違法な行為であり、被告Aは不法行為責任を免れない。また、被告Aは被告学園の理事としての職務を行うに際し、上記の不法行為に及んだのであるから、被告学園は被告Aと連帯して不法行為責任を負担する。 - 適用法規・条文
- 民法44条、709条、男女雇用機会均等法8条
- 収録文献(出典)
- 平成15年版労働判例命令要旨集281頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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