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A大学有期契約教員雇止事件

事件の分類
雇止め
事件名
A大学有期契約教員雇止事件
事件番号
旭川地裁 - 平成9年(ワ)第276号
当事者
原告 個人1名
被告 学校法人
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2000年02月01日
判決決定区分
棄却
事件の概要
 原告は、アメリカ合衆国の国籍を有し、昭和59年4月から平成10年3月末日までの約14年間、一般英語等を担当する外国語教員として被告大学に勤務していた女性である。

 昭和59年2月、原告は被告との間で、外国人招聘規程に基づき、雇用期間を1年とする労働契約を締結し、それ以後も平成3年3月31日まで、雇用期間1年の労働契約を6回にわたって更新した。次いで被告大学では、新就業規則等に基づき、雇用期間を1年としながらも、合意された5年間は特別な事情のない限り労働契約を更新するという「特任教員」として原告と労働契約を締結し、平成7年度末まで期間1年の有期労働契約を更新したが、平成8年2月29日、原告に対し、同年3月末日をもって5年間の勤務年限が満了することから、以後契約を更新しないとの通知(前件雇止め)を行った。

 これに対し原告は、同年4月旭川地裁に地位保全等の仮処分を申し立てるとともに、同年10月、労働契約上の地位の確認を求める訴えを提起した。同地裁は同年12月に、原告が労働契約上の権利を有する地位にあることを仮に認めるなどの決定をし、訴訟事件については、(1)雇用期間は平成8年4月1日から平成9年3月31日までとする、(2)勤務年限の合意を2年間(更新可能回数1回)とする等を内容とする和解が成立した。
 被告は、平成9年9月18日、原告に対し、平成10年4月以降は原告との労働契約を更新しない旨を伝えるとともに、通告書を手渡して雇止め(本件雇止め)を行った。これに対し原告は、原被告間の労働契約は、期間の定めのない労働契約に転化したか、少なくとも転化したものと同視すべきであるから、本件の雇止めには解雇の法理が適用されるべきであり、仮にそうでないとしても、原告には雇用継続に対する合理的期待があるから、本件雇止めには、解雇に関する法理が類推適用されるべきところ、本件雇止めには社会通念上相当といえる客観的合理的理由が存在しないから権利濫用又は信義則違反として無効であるとして、解雇無効の確認を求めた。
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
判決要旨
1期間の定めのない労働契約への転化論について

 原被告間で締結された労働契約は、いずれも1年間の有期労働契約であり、その職務内容も外国人語学教員として英語を教えるというものであるから期間の定めのある雇用に親しむものであること、特任教員となってからも勤務年限5年以内の契約期間をもって期間の定めのない雇用関係にあるとはみなさない旨を確認する勤務期間合意確認書が交わされていたこと、雇用の性質については前件訴訟事件においても争われ、前件和解において、雇用期間が1年と明記され、特任教員の勤務年限の合意も2年間とされていたこと、特任教員は専任教員のような公募を原則とした厳しい採用基準を経て採用されたものではないことなどからすれば、原被告間の労働契約が原告主張のように期間の定めのない労働契約に転化し、又はこれと同視されるべき状態になっていたということはできない。

2 本件雇止めへの解雇に関する法理の類推適用について

 (1)原被告間の労働契約が13回にわたって更新され続けた結果、原告は14年間も被告大学に勤務し続けていたこと、(2)原告は平成3年度に特任教員になってから、賃金体系及び雇用期間を除いて専任教員と同様な権利義務を有するものとされ、専任教員と非常勤教員との中間的な身分を取得していたといえること、(3)特任規定には被告大学が必要と認める場合には合意された勤務年限終了後も更新される旨の規定があったこと、(4)原告が特任教員となった際、被告から5年の勤務年限経過後には更新しない旨の説明を受けていなかったこと、(5)前件保全事件においては、前件雇止めには正当な理由がなく、原被告間の雇用関係が継続されているという原告の主張内容をほぼ認める決定がされていたこと、(6)前件和解においても、2年の勤務経過後の更新の可能性についての明示的な和解文言がないこと等を併せ考えると、原告が前件和解で明示した勤務年限の満了後の雇用継続を期待することに合理性があったものと認めることができる。したがって、本件雇止めには解雇に関する法理が類推適用され、本件雇止めを有効であるというためには、単に労働契約の期間が満了したというだけでは足りず、「社会通念上相当とされる客観的合理的理由」が存在していたことが必要である。

3 本件雇止めにおける客観的合理的理由の有無

 本件雇止めには解雇に関する法理が類推適用されるが、(1)特任教員は専任教員のような厳しい採用基準を経て採用されたものではないこと、(2)専任教員とは異なり、教授会に出席しない上、恒常的な校務を分掌していなかったこと、(3)原告は被告大学以外にも非常勤教員として勤務し続けていることなどに照らすと、原告を雇止めする場合に要求される「社会通念上相当とされる客観的合理的理由」は、専任教員を解雇する場合のそれとは自ずから合理的な差異があり、これを緩和して解釈することが相当である。
 これを本件についてみると、少子化や不況等の影響によって入学志願者数の減少傾向が顕著となっていた被告大学が生き残るためには語学教育を始めとする教育改革を断行することが必要不可欠な情勢にあり、その中で特任教員として非常勤教員の約3倍の給与を得て一般英語等を担当してきた原告の必要性が相対的に低下し、原告の再雇用が困難となっていたことに加え、人事の流動化が教育研究機関の活性化を図り、教育研究活動を促進させるという側面があること等を総合考慮すると、本件雇止めについては「社会通念上相当とされる客観的合理的理由」があるものと解するのが相当であり、原告主張のように本件雇止めが権利濫用あるいは信義則違反として無効となるものとはいえない。
適用法規・条文
なし
収録文献(出典)
労働経済判例速報1735号11頁
その他特記事項