判例データベース
K会M病院準職員解雇事件
- 事件の分類
- 雇止め
- 事件名
- K会M病院準職員解雇事件
- 事件番号
- 札幌地裁 − 平成14年(ヨ)第387号
- 当事者
- その他債権者 個人1名
その他債務者 医療法人 - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 決定
- 判決決定年月日
- 2003年02月10日
- 判決決定区分
- 一部認容・一部却下
- 事件の概要
- 債務者は、病院及び老人保健施設の経営を目的とし、M病院を設置、経営している医療法人社団であり、債権者は平成10年3月に専門学校医療秘書科を卒業し、同年5月債務者の準職員である介護員として雇用された女性である。債権者は試用期間満了前の平成10年8月、債務者との間で期間を1年とする本件労働契約を締結し、その後平成13年8月まで債務者との間で期間を1年とする本件労働契約の更新を行った。
債権者は、平成14年4月、新たに着任したN師長から、ボーナス査定の面談の際に、勤務態度を改善すること、人事考課で68.5点と合格点である70点に達していないことの指摘を受けた。なお、平成13年8月における債権者の平均考課点は74点、同年12月の人事考課結果は86.5点であった。Nは平成14年6月7日記載の人事考課で、指導にもかかわらず改善が見られなかったとして、不合格点である58点と査定し、同月18日の労務委員会において、患者対応の項目で最低の評価を受けており、改善が見込めないとして、次期は労働契約を更新しない旨債権者に対し通告した。
債権者の加入する組合は、同年7月1日、債務者に対し本件雇止め撤回申入書を差し出し、団交を行ったが、債務者は団交後も本件雇止めを撤回せず、債権者は同年8月7日債務者を退職したものとして取り扱われたことから、本件解雇の無効を主張し、地位保全の仮処分を申立てた。 - 主文
- 判決要旨
- 債権者は、平成10年5月8日、被告総務部長から最初の3ヶ月間は試用期間であり何事もなければ1年ごとに契約を更新する旨の説明を受け、債権者も長期雇用の期待の下に本件労働契約を締結しており、実際1年ごとの契約の更新が繰り返されている。このような事実からすれば、債務者のみならず債権者も、本件労働契約は期間を1年とする有期契約であるとの認識を有していたというべきであるから、本件労働契約は期間の定めのない労働契約である旨の債権者の主張は採用できないし、また本件労働契約が期間の定めのないものに転化したと解することもできない。
もっとも債権者は契約更新を重ね、4年3ヶ月間債務者において介護員として勤務してきたのであり、しかも介護員の多くが契約更新を行い継続的に雇用されている実情からすれば、債権者としては本件労働契約は当然に更新されるものとの期待を有していたことは明らかである。一方介護員の労働条件は看護師などの正職員とほとんど差異がなく、その全員が準職員の地位にあるものの、本件病院の業務上不可欠の職種であり、職員全体の4割以上の人数を占めていることからすれば、債務者としても、介護員を不可欠な人材として長期に渡って雇用する意図を有していたことも明らかである。したがって本件労働契約は期間の定めのない労働契約と実質的に見て異ならない状態で存続していたと評価すべきであり、そうであれば、雇止めの効力を検討するに当たっては、解雇に関する法理を類推適用すべきである。よって、本件雇止めが著しく合理性、相当性を欠く場合には、権利の濫用として許されず、無効であると解される。
債務者は、債権者の勤務態度に改善の見込みがないことを理由に本件雇止めを行っているが、債権者がNから注意を受けてから本件雇止めの決定がなされるまでの期間は僅か2ヶ月であり、その間債権者の勤務態度にはさしたる不良行為はなく、他方で、債権者は平成13年度の人事考課では合格点に達していたこと及びこれまで一度も債務者から懲戒処分を受けたことがないことをも勘案すれば、本件雇止めは債権者にとって過酷であり、特段の事情のない限り、著しく合理性、相当性を欠くと考えられる。
債務者は人事考課表等により債権者の勤務態度が不良だったと主張するが、本件雇止めの前年である平成13年8月の考課では、なお問題を残しつつ以前よりは進歩したことも評価されており、同年12月の考課では8月より12.5点も高い評価を受けるなど、債権者の勤務成績の顕著な向上が見られる。これに加え、債務者が債権者の勤務態度の問題として指摘する点が、笑顔がないとか不満そうな顔をするといった多分に主観的な印象に基づくものが中心であること等からすれば、債権者に本件雇止めを合理的とすべきほどの勤務態度の悪さがあったとは認めることができない。結局、本件雇止めは、著しく合理性、相当性を欠き、権利の濫用として無効というべきである。 - 適用法規・条文
- なし
- 収録文献(出典)
- 労働判例847号85頁
- その他特記事項
- 本件は本訴に移行した。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
札幌地裁 − 平成14年(ヨ)第387号 | 一部認容・一部却下 | 2003年02月10日 |
札幌高裁 − 平成16年(ネ)第407号(解雇無効確認等請求控訴)、札幌高裁 − 平成17年(ネ)第55号(同附帯控訴) | 控訴棄却、附帯控訴原判決一部変更(確定) | 2005年11月30日 |