判例データベース
K会M病院準職員解雇控訴事件
- 事件の分類
- 雇止め
- 事件名
- K会M病院準職員解雇控訴事件
- 事件番号
- 札幌高裁 − 平成16年(ネ)第407号(解雇無効確認等請求控訴)、札幌高裁 − 平成17年(ネ)第55号(同附帯控訴)
- 当事者
- 控訴人(附帯被控訴人) 医療法人社団
被控訴人(附帯控訴人) 個人1名 - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2005年11月30日
- 判決決定区分
- 控訴棄却、附帯控訴原判決一部変更(確定)
- 事件の概要
- 被控訴人(附帯控訴人・第1審原告)は、平成10年5月、控訴人(附帯被控訴人・第1審被告)病院の準職員である介護員として雇用され、3ヶ月の試用期間を経て1年ごとの契約更新を繰り返していたが、平成14年4月に所属長が交替して以降、人事考課の評価が下がり、合格点に達しなくなったこと、笑顔がない、不満そうなオーラが出ているとの指摘を受けたこと等から、同年8月7日の期間満了をもって雇止めとなった。これに対し被控訴人は、本件契約は実質的に期間の定めのない契約に転化したこと、そうでないとしても本件雇止めには高度の合理性が求められるところ、その合理性が認められないとして、本件解雇の無効確認と、本件雇止めによって被った精神的損害に対し慰謝料100万円及び弁護士費用50万円を請求した。
第1審では、原告の主張を認め、本件解雇を無効とし、控訴人に対し20万円の慰謝料及び5万円の弁護士費用の支払いを命じたことから、その取消しを求めて控訴人が控訴したものである。一方被控訴人は、損害賠償額の引き上げを求めて附帯控訴した。 - 主文
- 判決要旨
- 1 本件雇止めの適法性について
被控訴人は、本件労働契約は、その締結当初において、少なくとも1年3ヶ月の期間の雇用を前提とした契約であり、これが強行法規に違反すると主張するが、被控訴人は平成10年5月8日、控訴人総務部長から、最初の3ヶ月間は試用期間であり何事もなければ1年ごとに契約を更新する旨説明を受けた上で本件労働契約を締結し、同年8月から契約期間を1年として契約更新しているから、被控訴人の主張は理由がない。
被控訴人は、契約更新を重ね、平成14年8月7日までの4年3ヶ月間、本件病院において介護員として勤務しており、本件病院の介護員の多くが契約更新を重ねていることに照らせば、被控訴人は本件労働契約は当然に更新されるとの期待を有していたといえる。また、介護員はその全員が準職員であるけれども、本件病院の職員の4割以上を占め、その労働条件は看護師等の正職員とほとんど差異はないことに照らせば、控訴人は介護員を長期間雇用することを意図していたといえる。したがって、本件雇止めに当たっては、解雇に関する法理の適用を受ける状況にあったというべきであるから、本件雇止めが著しく合理性、相当性を欠く場合は、権利の濫用として無効であると解される。
控訴人は、被控訴人に介護員としての不適格性が存在すると主張し、平成14年4月から被控訴人の所属長になったNは、被控訴人に関する一次考課において、68.5点、58点とし、労務委員会は、人事考課において合格点に達せず、最低評価が4項目あり、しかも患者対応の項目で最低評価を受け、かつ改善が見込めない状況であるとして、本件雇止めを決定している。しかし被控訴人は、平成13年度における一次考課では74点、79点で、合格点の70点に達し、勤務成績が向上していたことに照らせば、所属長の交替による評価基準の相異が窺われ、二次評価者も被控訴人の評価を大幅に変更しており、労務委員会においてNが被控訴人を病院運営に支障を来す人物である旨評価していたことも併せ考えると、介護員としての評価に、被控訴人が労働組合の執行委員であることが何がしかの影響を与えていると認められる。また、Nらが主として問題とする点は、笑顔がないなどとする多分に主観的な事柄である上、被控訴人が労組の執行委員であり、平成14年の各考課の当時、労組が控訴人に対して不当労働行為があったとして問題にしていたことが、主観面の評価に多分に影響を与えていると認められる。更に、被控訴人がNから注意を受けてから本件雇止めが決定されるまでの期間が2ヶ月程度であること、被控訴人はこれまで1度も懲戒処分を受けたことがないことなどを考慮すれば、被控訴人において控訴人の指摘するとおり介護職員として十分な配慮や活動ができておらず、このまま改善されなければ今度雇止めになる可能性があるとしても、被控訴人に対して、考課の際の面接以外の個別的な指導や研修が行われた形跡はなく、Nの着任以降も、面接の際指摘が行われた後本件雇止めの内示まで個別的な指導や研修のみならず、雇止めになる可能性の指摘を受けたような事実も窺えないから、本件雇止めは被控訴人にとって過酷であって、著しく合理性、相当性を欠くといわざるを得ない。したがって、本件雇止めは権利の濫用で無効である。
2 本件雇止めの不法行為該当性について
控訴人は、本件雇止めにおいて、主として笑顔がないなどとする点を問題にするが、これらは多分に主観的な事柄であって、これらを主に問題とする限り、雇止め事由としては合理性に疑問があるといわざるを得ない。しかるに、控訴人は本件雇止めをしているから、この点において、本件雇止めは不法行為に該当すると解される。また、控訴人が被控訴人の組合活動を嫌悪してことさらこれを排除しようとしたことを明確に認めるに足りる証拠はないが、被控訴人の組合活動が本件雇止めの背景としてあることが窺える。これに加え、本件雇止めにより、被控訴人が実務に就く機会を奪われたこと等本件の諸事情を考慮すると、慰謝料としては45万円が相当であり、弁護士費用として5万円が相当である。 - 適用法規・条文
- 民法709条
- 収録文献(出典)
- 労働判例904号93頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
札幌地裁 − 平成14年(ヨ)第387号 | 一部認容・一部却下 | 2003年02月10日 |
札幌高裁 − 平成16年(ネ)第407号(解雇無効確認等請求控訴)第、札幌高裁 − 平成17年(ネ)第55号(同附帯控訴)第 | 控訴棄却、附帯控訴原判決一部変更(確定) | 2005年11月30日 |