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N短大非常勤講師雇止め事件
- 事件の分類
- 雇止め
- 事件名
- N短大非常勤講師雇止め事件
- 事件番号
- 名古屋地裁 - 平成11年(ワ)第4940号
- 当事者
- 原告 個人3名A、B、C
被告 学校法人 - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2003年02月18日
- 判決決定区分
- 棄却
- 事件の概要
- 被告は、N短大を経営する学校法人であり、原告Aは唱和51年9月以降、原告Bは同53年10月以降、原告Cは同48年4月以降、それぞれ被告から保育科における音楽の非常勤講師として委嘱を受けてピアノの実技指導をしていた者である。
被告は平成10年度以降音楽のカリキュラムの変更を行うこととし、平成9年12月13日付けの書面で通知の上、平成10年4月以降の原告らの委嘱を停止した。なお、本件カリキュラム変更前には、保育科の音楽1の授業は専任教授2名と非常勤講師10名が担当していたが、平成10年度以降、同担当の非常勤講師は7名となった。被告は原告らの委嘱を停止した理由として、カリキュラムの変更により非常勤講師7名体制にしたこと、原告Aは厳しい叱責により学生が過呼吸の発作を起こしたほか、学生から苦情が出されるなど指導方法に問題があったこと、原告Bについても授業が原因で学生が休学するなど授業方法に問題があったこと、原告Cについては、休講が多いこと等の問題があったことを主張した。
これに対し、原告らは、本件労働契約は、(1)音楽1は保母資格等のための必修科目であり、非常勤講師は授業の主要な部分を担ってきたこと、(2)被告は経済的事情から非常勤講師を雇用したもので、臨時的事情に基づくものではないこと、(3)原告らと被告とは黙示的に永続的な更新を合意していたこと、(4)非常勤講師には春休みの3月にも給与が支払われていたこと、(5)非常勤講師の契約更新は厳格な手続きを経ていないこと、(6)給与は順次ランクアップアップし、昇給もされたことなどから、少なくとも本件委嘱停止までに期限の定めのない契約に転化したか、実質的にこれと同じ状態になったというべきであり、そうでないとしても原告らが期間満了後の委嘱継続を期待することには合理性があるから、本件委嘱停止は解雇と同視され、解雇権濫用法理が適用ないし類推適用されると主張した。その上で、本件委嘱停止は整理解雇に関する法理が適用されるべきところ、整理解雇の4要件を満たしていないから無効であるとして、地位確認と賃金の支払いを求めるとともに、原告らの就労を違法に拒んだとして、不法行為に基づき原告各人に対し、慰謝料200万円を請求した。 - 主文
- 1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。 - 判決要旨
- 本件短大の非常勤講師は、基本的に、委嘱された担当授業を行い、これに対する報酬を受け取る以外に格別の権利・義務のない存在であり、被告とそのほかの法律関係に立つものではないと認めるのが相当である。一般に非常勤講師の採用等には専任教員の場合より簡素化された手続きが採用されており、両者の立場に互換性がないことを前提としているとみられるのであって、非常勤講師の地位は、あくまで専任教員とは異なる、非常勤の補助的教員たる地位に留まるというのが相当であり、単に非常勤講師としての契約が長期間反復されたとしても、当該非常勤講師を常勤教員として取り扱う旨の明示の合意が認められたり、その旨の黙示の合意が成立したと看做せるなどの特段の事情がある場合を除き、当該非常勤講師の法的地位が、常勤の専任教員としての地位ないしこれに準じる地位に転化する余地はないと解するのが相当である。そして、大学での一般的な採用区分の違いや教員定員上の取扱いの差異も考慮すると、上記明示の合意が認められ、あるいは黙示の合意の成立が擬制されるというためには、その内容的当否や法的有効性はともかく、当該非常勤講師につき専任教員の採用手続きが実際に履践され、あるいは当該非常勤講師においてその手続きが履践されたと信ずべき相当の事情があることが必要であって、かかる場合に限って上記特段の事情が認められるというのが相当である。
以上に基づき本件の場合を検討するに、原告らについて専任教員としての採用手続きが履践された事実はなく、原告からその旨の希望が出された形跡も窺われないし、毎年の委嘱に当たっては、非常勤講師としての委嘱である旨や委嘱期間を明示した契約書が交わされていたのであるから、容易に上記特段の事情は認められず、本件契約が専任教員の雇用契約と同様の期限の定めのない契約に転化したとか、実質的にこれと同視すべき状況になったということはできない。また、原告らの期間満了後の委嘱継続についての期待が存したとしても、法的保護に値するものでないことは見易い道理である。したがって、本件契約は、解雇権濫用法理が適用ないし類推適用される性質のものでないというべきである。
原告らは、本件委嘱停止に整理解雇に関する法理ないし通常の解雇権濫用の法理が適用等されることを前提に、本件委嘱停止が整理解雇の4要件を具備せず、あるいは通常解雇としての合理性を欠くと主張するが、本件委嘱停止に解雇濫用法理の適用ないし類推適用があるとは認められず、原告らの主張は前提を欠くというべきである。そこで、狭義の解雇権濫用と区別される一般的な権利濫用について検討するに、原告らが非常勤の補助的教員たる地位を有するに過ぎず、委嘱の継続について合理的な期待を有しているとも認め難い点を考慮すれば、本件委嘱停止に当たり、一般的な権利濫用が成立するといえるためには、単に委嘱停止となった事実が存在しないとか、これが実体的手続的に合理性を欠くというだけでは足りないというべきであって、委嘱停止が特に不当な意図をもってなされたとか、違法な行為等により積極的かつ現実に作出した事実を根拠に委嘱停止が実行された等の特段の事情が必要であると解するのが相当である。この点につき、原告らは、人件費の削減や、教授らが原告らの音楽教育についての豊かな意見を嫌悪したことが本件委嘱停止の真の理由だと主張するが、経済的理由から非常勤講師の採否を決定したとしても、それだけでは不当とはいえないし、原告らが音楽教育につきどのような「豊かな意見」を有し、これに対し教授らがいついかなる形で嫌悪したというのか、原告らの主張は不明確で、客観的証拠はないから、その主張は直ちに採用できない。そして、以上の事情を総合しても、本件委嘱停止が一般的な権利濫用に該当するとは認められないから、原告らの本件労働関係の請求には理由がないといわなければならない。 - 適用法規・条文
- なし
- 収録文献(出典)
- 労働経済判例速報1844号3頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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名古屋地裁 - 平成11年(ワ)第4940号 | 棄却 | 2003年02月18日 |
名古屋高裁 - 平成15年(ネ)第245号 | 控訴棄却 | 2003年12月26日 |