判例データベース
社会福祉法人A会雇止め事件
- 事件の分類
- 雇止め
- 事件名
- 社会福祉法人A会雇止め事件
- 事件番号
- 大阪地裁 - 平成14年(ワ)第7453号
- 当事者
- 原告 個人1名
被告 社会福祉法人 - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2003年04月25日
- 判決決定区分
- 一部認容・一部棄却
- 事件の概要
- 被告は、児童養護施設、乳児院等を設置・運営している社会福祉法人であり、原告は平成13年1月18日に面接を受け、同月22日から同年3月20日までボランティアとして施設に勤務し、雇用期間を平成13年3月21日から同14年3月20日までとすること等を内容とする雇用契約を締結した男性である。
被告の就業規則には、新たに採用された者については、3ヶ月間を試用期間とすること、試用期間中又は試用期間満了の際、引き続き職員として勤務させることが不適当と認められる者については本採用としない旨の規定がある。
施設長は、平成14年1月10日頃、原告に対し、(1)本件契約書の記載、(2)事務員は足りていること、(3)原告は高い給与に見合うだけの仕事をしていないことを説明し、更に同月24日頃、原告に対し本件労働契約を更新しない旨通知し、同月30日に期間満了により同年3月20日に本件労働契約は終了する旨通知した。これに対し原告は、同年3月19日に地位保全等仮処分命令の申立てを行い、同年5月30日に被告に対し、37万3996円の仮払いを命じる決定がなされた。
原告は、紹介者である産業雇用安定センターの担当者の説明、施設長の「1年間様子を見させて欲しい」発言等からみて、本件労働契約は期間の定めのない契約であることは明らかであり、本件解雇は無効であるとして従業員の地位確認と賃金の支払いを請求するとともに、施設長が原告を騙すようにして採用した上で解雇したことは極めて悪質であり、被告はその使用者責任を負うと主張して、被告に対し400万円の慰謝料を請求した。 - 主文
- 1 原告が被告に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
2 被告は、原告に対し、平成14年4月から本判決確定の日まで、毎月25日限り38万5336円及びこれに対する各支払日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 原告のその余の請求を棄却する。
4 訴訟費用は、被告の負担とする。
5 この判決は、第2項に限り、仮に執行することができる。 - 判決要旨
- 使用者が労働者を新規に採用するに当たり、労働契約に期間を設けた場合には、その期間が常に存続期間を意味するものとはいえず、期間を設けた趣旨・目的が労働者の適性を評価・判断するためのものであるときは、前記期間の満了により前記労働契約が当然に終了する旨の明確な合意が当事者間に成立しているなどの特段の事情が認められる場合を除き、前記期間は契約の存続期間ではなく、試用期間であると解するのが相当である。
被告は元正職員であったEの復職予定が1年間延長されたため、その間の補充人員として原告を雇用し、本件労働契約に期間の定めをした旨主張するが、その客観的証拠は提出されていないし、被告の主張どおり1年後に復職する予定のEの補充要員として原告を採用したというのであれば、求人を依頼した産業雇用安定センターにも契約期間が1年である旨の説明をするとともに、原告に対してもEが1年後に復職するため本件労働契約の更新は行わない旨当初から明確に説明して然るべきである。にもかかわらず、被告は原告に対しその説明を行っていないこと、本件労働契約を更新しないことを原告に告げた際にもEの復職に関する事情は話していないこと、本件契約書の「この期間満了後、採用されない時は、雇用契約は自動的に解除されたものとする」との文言も、本件期間満了後も継続して雇用される可能性があることを前提としていることが認められる。
原告は、産業雇用安定センターの説明から、今まで同センターの紹介で被告に雇用された3名はいずれも1年よりも短期間で退職していることを認識していた上、本件施設に就労するようになった後、それらの者の契約書の内容がいずれも雇用期間が1年と記載されていたことも認識していたし、本件契約書に何の異議も述べずに署名押印しているなど本件期間満了により本件労働契約が終了することに合意していたことを推認させる事実などが認められる。しかし、本件契約書の文言は、本件期間満了後も継続して雇用される可能性があることを前提とするものであって、その反対解釈からすれば、本件期間満了後に本採用された場合には本件労働契約は存続する、すなわち、本件期間が試用期間であるとも解釈できないわけではない。
また原告は、3人の扶養家族を抱えているため、当然長期雇用を念頭に求職活動をしていたと推認され、面接の際に、本件労働契約が期間満了により当然に終了し、雇用継続の可能性のないことが明示されていた場合には、原告は被告に求職しなかったことは容易に推認できるところである。更に、原告は採用が内定した後、前勤務先の有給休暇を消化しつつ、ボランティアとして今後担当する業務に従事しているのも、原告が本件期間満了後の雇用の継続を期待していたことを推認させる事実というべきである。これら事実を総合考慮すれば、本件労働契約締結の際に、本件期間の満了により同契約が当然に終了する旨の明確な合意が原告と被告との間に成立しているなどの特段の事情は未だ認めるに足りないから、本件期間は試用期間であると解するのが相当である。
試用期間付労働契約の法的性質については、試用期間中の労働者に対する処遇の実情や試用期間満了時の本採用手続きの実態等に照らしてこれを判断するほかないが、試用期間中の労働者が試用期間の付いていない労働者と同じ職場で同じ職務に従事し、使用者の取扱いにも格段異なるところはなく、また試用期間満了時の再雇用(本採用)に関する契約書作成の手続きが採られていないような場合には、他に特段の事情が認められない限り、これを解約権留保付労働契約であると解するのが相当である。本件においては、原告が本件施設において試用期間の付いていない正職員と異なる職務に従事した、あるいは被告において他の従業員と原告との間で明確な取扱いの差異を設けていたとは認めるに足りないし、本件契約書上も本採用の場合に新たな契約書作成手続きを採ることを要するとされているか否かは必ずしも明らかではないから、本件労働契約は解約権留保付労働契約であると解するのが相当である。そして、被告において、本件期間満了以外に本件労働契約終了原因についての主張はなく、留保解約権を行使したとも認められないから、原告の被告に対する労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求める請求は理由がある。
原告は、被告が原告を騙すようにして採用した一連の行為が不法行為であると主張するが、本件期間が試用期間であると認められる以上、施設長の本件発言等が欺瞞行為を構成するとはいえないことは明らかである。原告は、被告が本件期間満了時に本件労働契約が終了する旨通知し就労を拒絶した点が不法行為を構成すると主張するが、施設長らにおいて、本件期間に関する合意が試用期間として成立しており、存続期間ではなかったことを確定的に認識していた、又はそのことを容易に認識すべきであったとまではいい難いから、同期間の満了により本件労働契約が終了したとして本件期間満了後の原告の就労を拒否したことについて、施設長らの故意・過失を認めることはできず、原告の損害賠償請求は理由がない。 - 適用法規・条文
- なし
- 収録文献(出典)
- 労働経済判例速報1848号3頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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