判例データベース
保育士見習いパート職員雇止め事件
- 事件の分類
- 雇止め
- 事件名
- 保育士見習いパート職員雇止め事件
- 事件番号
- 大阪地裁 − 平成15年(ヨ)第10032号
- 当事者
- その他債権者 個人1名
その他債務者 社会福祉法人 - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2003年10月17日
- 判決決定区分
- 却下
- 事件の概要
- 債務者は、A保育園の設置経営を目的とする社会福祉法人であり、債権者は平成13年9月1日付けで債務者に保育士見習いの4時間労働のパート職員として採用された女性である。債権者は、債務者から同年10月1日付けの雇用契約書を渡されたところ、雇用期間は平成14年3月31日までと記載されていた。債務者は同年2月26日、債権者に対し同年3月末日で退職するよう通告し、債権者はこれに応じて退職したところ、同年6月13日になって、債務者から半年でも良いから勤務して欲しいとの要請があり、債権者はこれを受諾し、同年7月1日から再びA保育園において保育士見習いとして勤務を開始した。雇用契約書によると、その雇用期間は平成15年3月31日までとなっていた。
債権者は、同年7月、園長から5歳児担当に変更する旨命じられたことから、その理由を尋ねたところ、園長は、文句をいうなら辞めたら良い、パートの分際で偉そうになどと述べ、職場に戻るのであれば始末書を書くよう告げたが、債権者がこれを断ったため、園長は債権者に対し、それなら辞めていただきたいと告げた。その後労組と債務者の間で話合いが行われ、債権者の件は不問とし、債権者を5歳児担当とすることで合意した。
平成15年2月25日、園長は債権者に対し、同年3月31日で雇止めをすることを通告したところ、債権者はこれに納得せずその理由を尋ねたが、園長は雇止めの理由について説明をしなかった。同年3月12日の労組と債務者との団交において、園長は債権者の雇用を継続しない理由として、園長に反発する、方針に合わない、不適任、子供が保育園で指をつめたのに報告もしなかったことを挙げた。債権者は同月28日付け内容証明郵便をもって、本件雇止めが不当である旨債務者に通告するとともに、地位保全の申立てを行った。 - 主文
- 1 債権者の申立てをいずれも却下する。
2 申立費用は債権者の負担とする。 - 判決要旨
- 債務者及び債権者との本件労働契約は、期間の定めのある労働契約である。期間の定め自体は何ら違法ではないことは明らかであるし、このような労働契約が反復更新されたからといって、当然に期間の定めのない労働契約に変化するものではないことも明らかである。もっとも、期間の定めのある労働契約であっても、期間満了後も雇用が継続されるものと労働者が期待することに合理性が認められる場合には、使用者の雇止めは実質的に解雇と同視され、解雇の法理が類推適用されると解されるべきであり、雇止めに当たっては合理的な理由が必要となるというべきである。そして、労働者が雇用の継続を期待することに合理性が認められるか否かの判断は、当該雇用の臨時性、常用性、従事する業務の内容、更新回数、更新の際の経緯等の諸事情が考慮されるべきである。
そこで本件をみるに、A保育園における期間の定めのある保育補助職員の更新状況については、任意に契約更新をしない場合を除くと、毎年1ないし数名が雇止めをされているものの、その多くが契約を更新されており、この点においては債権者が期間満了後の雇用継続を期待することに合理性があるとする一つの根拠となり得る。しかしながら、債権者は、本件労働契約締結前に債務者に雇用されていた際にも期間の定めのある労働契約を締結してA保育園で稼働しており、期間満了時において、園児数の減少及び保育士に余裕があることを理由に労働契約を更新しないまま債務者を退職しているし、本件労働契約に先立ち、債務者から就労についての勧誘があった際、債権者に対し、半年でもいいから来てもらえないかと告げている。このような事情からすると、債権者が雇用の継続を希望していたとしても、なお本件労働契約で定めた雇用期間満了後も雇用を継続してもらえるとの理解の下に雇用契約書に署名・押印したとは言い難い。また、債権者は債務者側に実務経験のため就労したい旨告げていることは認められるが、一方で債権者がこれまでの自らの経験で労働契約が更新されないことがあることは認識していたと推認できること、債権者は平成14年7月1日以降の就労も職員不足による臨時的なものであることを債務者から告げられていたことからすると、債権者に雇用継続についての合理的な期待があったということはできない。
以上によると、本件労働契約の雇用期間は平成15年3月31日までであり、債権者については過去に1度も契約の更新はされておらず、これを期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態にあったと評価して、解雇に関する法理を類推適用することはできない。したがって、本件労働契約に基づく雇用関係は、債務者からの雇止めの通告があったから、雇用期間の経過とともに当然に終了したといわざるを得ない。 - 適用法規・条文
- なし
- 収録文献(出典)
- 労働経済判例速報1860号14頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|