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社会福祉法人S会介護職員雇止事件

事件の分類
雇止め
事件名
社会福祉法人S会介護職員雇止事件
事件番号
神戸地裁伊丹支部 - 平成15年(ワ)第151号
当事者
原告 個人1名
被告 社会福祉法人
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2004年02月19日
判決決定区分
認容(控訴)
事件の概要
 被告は、特別養護老人ホームS園、福祉施設Hを経営する社会福祉法人であり、原告は被告に雇用される介護職員である。原告は、ハローワークの求人案内を見てS園の老人介護パート職員に応募し、平成12年4月1日からS園の介護職員として就労を開始した。原被告間の委託契約書では、原告の契約期間は同年9月30日までの6ヶ月とされていた。この労働契約は、その後平成14年10月1日まで、6ヶ月ごとに更新されたところ、被告は平成15年2月27日、原告に対し、同年3月末日限りの雇止めを通告した。その際、被告の施設長は、本件雇止めの理由として、(1)原告がS園での9月10日の全体ミーティングにおいて、これが形式的で意味がないと言ったこと、(2)ミーティング内で「私達の誓い」を全職員が唱和していることについて、空念仏と言ったこと、(3)原告が、緊急連絡表から他の職員の住所を調べ、労組の結成を呼びかけるビラを職員に郵送したことを挙げた。
 原告は、労働契約締結時に期間についての説明を受けていないこと、契約更新時においても意向の確認はなかったこと、従事する業務は常時必要なものであること、本件雇止めに至るまで5回にわたり契約が更新されていること等から、解雇に関する法理が適用されるべきであるところ、本件雇止めは、原告がユニオンに加入し、組合活動を始めたことを嫌悪して行ったものであるとして、労働契約上の地位の確認と賃金の支払いを請求した。 
主文
1 原告が、被告に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

2 被告は、原告に対し、平成15年5月から本判決確定に至るまで、毎月28日限り金14万1529円及びこれに対する各支払日の翌日から支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3 訴訟費用は被告の負担とする。
4 この判決は、第2項に限り、仮に執行することができる。
判決要旨
1 本件雇止めに解雇に関する法理が適用されるか

 ハローワークの求人票の雇用期間欄には「常用長期」と記載されており、契約期間の始期及び終期が記載されていないこと、被告は採用面接の際、原告に対し、契約期間が6ヶ月であることを告げていないことからすると、当初、原被告間では期間の定めのない労働契約が成立していたということができる。もっとも、原告は、平成12年5月16日、契約期間が6ヶ月と明示された契約書の作成に応じており、その後も6ヶ月ごとに契約書の作成に応じているから、原被告間の労働契約は、期間の定めのあるものに変更されたとみるのが相当である。しかし、特別養護老人ホームの介護パート職員は、入所者の排泄・食事・入浴の介助という常時需要のある業務に従事しており、責任の軽重において正職員の業務と差異はあるものの、一部の業務を除き勤務シフトに組み入れられている。そして、パート職員においては、初回契約ないし1回更新後に退職する者が大部分を占めており、2回以上契約を更新しているパート職員は継続雇用される傾向にあったと解されること、従来雇止めされたパート職員は勤務態度が著しく悪い等の特殊な例を除いてほとんど見当たらず、職員が希望すればそのほとんどが継続雇用されていること、5回にわたり契約が反復更新されていること等の事情が認められる本件においては、実質的にはいずれかから格別の意思表示がない限り、労働契約は当然更新されるものと考えていたというべきである。したがって、原被告間の労働契約は、期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在していたものと認めるのが相当であり、このような雇用関係を雇止めにより終了させることは、実質上解雇の場合と変わらないから、本件雇止めの効力の判断に当たっては、解雇に関する法理が類推適用されると解すべきである。

2 本件雇止めが解雇権濫用に当たるか

 パート職員は、期間の定めなく雇用されている正職員と比べて使用者との結びつきが薄いのは当然であるから、その雇止めは信義則ないし権利濫用の法理によって制約されるものの、使用者には正職員の解雇の場合よりも広い幅の裁量が認められると解すべきである。

原告がミーティングで、私達の誓いを空念仏と言ったことについては、既に一応の解決をみている。原告が緊急連絡表の電話番号から住所を調べてビラを送付したことにより職員らに不快感を抱かせたことについては責任があるといわなければならないが、調査に不正な手段を用いたものではなく、その使途についても労組の加入を呼びかけるビラを郵送したに過ぎないこと、ビラの内容に被告を攻撃・中傷するような表現は含まれていないこと、職場内の秩序に混乱が生じたと評価すべき証拠はないことからすれば、原告の当該行為は、雇止めをもって臨まなければならないほど重大な非行であるとは認め難い。

 一方、原告は、平成14年8月以降、ユニオンに加入し組合活動を行っていたこと、被告側はユニオンの要求をほぼ拒否する内容の回答をし、地労委の斡旋にも応じなかったこと、被告の職員の中で労組に加入している者は原告1人であること等の事情を総合すれば、被告が本件雇止めに及んだ真の動機は、原告が労組に加入し、組合活動を行ったことを嫌った点にあると推認するのが相当である。
 以上の事実を総合して考慮すると、本件雇止めは社会通念上妥当なものとして是認することはできず、本件雇止めは信義則上許されないものというべきであり、原被告間の法律関係は、従前の労働契約が更新されたと同様の法律関係になるものと解すべきである。
適用法規・条文
なし
収録文献(出典)
労働判例874号52頁
その他特記事項
本件は控訴された。