判例データベース
法律事務所事務員解雇控訴事件
- 事件の分類
- 解雇
- 事件名
- 法律事務所事務員解雇控訴事件
- 事件番号
- 名古屋高裁 − 平成16年(ネ)第645号
- 当事者
- 控訴人(第1審原告) 個人1名
被控訴人(第1審被告) 個人1名 - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2005年02月23日
- 判決決定区分
- 一部認容・一部棄却(原判決一部変更)
- 事件の概要
- 被控訴人弁護士の法律事務所に10年以上雇用されていた控訴人が、同一市内にある法律事務所の弁護士と婚姻する旨被控訴人に申し出たところ、被控訴人は秘密保持のため辞職するよう通告し、控訴人は平成15年3月末をもって退職した。ところが同年6月になって、控訴人は本件解雇は合理性のないものであって不法行為に該当するとして、6ヶ月分の賃金相当額約140万円、賞与相当額46万円余、慰謝料300万円を請求した。
第1審では、控訴人は平成15年3月において有給休暇の消化のため5日しか出勤していないこと、退職金を受領していること、本件退職の話が出た平成14年11月から平成15年6月までの間において、地位保全のための行動に出ていないこと等を理由として、同年3月末日をもって控訴人は退職したと判断したことから、控訴人はこれを不服として控訴したものである。 - 主文
- 1 原判決を次のとおり変更する。
2 被控訴人は、控訴人に対し、144万2153円及びこれに対する平成15年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 控訴人のその余の請求(当審で拡張した請求を含む。)を棄却する。
4 訴訟費用は、これを5分し、その1を被控訴人の負担とし、その余を控訴人の負担とする。
5 この判決は、第2項に限り、仮に執行することができる。 - 判決要旨
- 控訴人の同僚の証言によれば、控訴人から被控訴人事務所を辞める旨の発言は1度も聞いたことがなく、かえって被控訴人から控訴人が翌年3月一杯で退職すると聞かされ意外に思い、控訴人に確認したところ、控訴人はこれを否定し、辞める旨の発言はしていないと述べたというのである。同証言は、控訴人が一貫して主張、供述するところと整合するものである上、同証人が現在も被控訴人事務所に勤務していることに鑑みれば、被控訴人に不利益な同証言の信用性は高いというべきである。そうすると、控訴人は一貫して仕事を継続したい旨の意向を表明していたものというべきであり、被控訴人の主張するように控訴人が雇用契約の解約に合意したような事実を認めることはできない。
確かに法律事務所の職員の配偶者が、当該事務所と相対立する立場に立つ法律事務所の勤務弁護士である場合、抽象的な可能性の問題として考えれば、情報の漏洩等の危険性を完全に否定することはできないであろう。しかし、法律事務所に勤務する事務員は、依頼者の情報等職務上知り得た事実について、当然に一定の雇用契約上の秘密保持義務を負っているのであり、通常はこの義務が遵守されることを期待することができるというべきである。また名古屋市内で業務を行っている弁護士は900名を超えるのであるから、実際にそのような利害対立が生じる場面は決して多くはないものと考えられ、被控訴人の指摘する危険等は未だ抽象的なものといわざるを得ない。また仮に利害対立の場面が実際に生じたとしても、何らかの措置を講じることによって、弊害の生じる危険性を回避し、依頼者に不信感を与えることを防止することは十分に可能であると考えられる。夫婦共働きという在り方が既に一般的なものになっている今日、上記のような抽象的な危険をもって、解雇権の行使の正当な理由になるとすることは、社会的にみても相当性を欠くというべきである。以上のとおり、控訴人の主張する本件解雇の理由は、合理的なものということはできず、したがってこれを合理的なものと誤信し、漫然と本件解雇を行った被控訴人の行為は、不法行為に該当するというべきである。
本件解雇により失職したことによって、控訴人は合理的に再就職が考えられる時期までの間、本来勤務を継続していれば得られたはずの賃金相当額の損害を受けたものということができる。本件においては、平成14年11月15日頃には既に実質的な解雇予告ともいうべきものがなされていたこと、控訴人は37歳の健康な女子であって、純粋に経済的損失という意味で考えれば、再就職が特別に困難な事情は認められないこと、失業給付を受給しているものと推認されること等諸般の事情を総合考慮すると、本件解雇後3ヶ月の範囲に限り、不法行為たる本件解雇と相当因果関係のある損害と認めることができ、その額は、平成14年分の給与総額を12分し3を乗じた金額である104万2153円をもって相当というべきである。
控訴人は、本件解雇によって自らの意思に反してその職を奪われ、精神的な損害を被ったものと認められ、これを慰謝するには30万円をもって相当と認め、弁護士費用は10万円をもって相当と認める。 - 適用法規・条文
- 民法709条
- 収録文献(出典)
- 労働判例909号67頁
- その他特記事項
- 本件は上告されたが、2005年6月30日不受理となった。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
名古屋地裁 − 平成15年(ワ)第2455号 | 棄却(控訴) | 2004年06月15日 |
名古屋高裁 − 平成16年(ネ)第645号 | 一部認容・一部棄却(原判決一部変更) | 2005年02月23日 |