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箕面自動車教習所見習指導員雇止め事件

事件の分類
雇止め
事件名
箕面自動車教習所見習指導員雇止め事件
事件番号
大阪地裁 - 平成15年(ワ)第10368号
当事者
原告 個人1名
被告 有限会社
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2004年12月17日
判決決定区分
一部認容・一部棄却
事件の概要
 被告は、自動車運転免許取得のための技能指導等を業とする有限会社であり、原告は平成5年12月、被告に見習指導員として雇用された後、平成6年4月、被告との間で期間を1年とする契約社員としての契約を締結し、以後毎年契約を更新してきた女性である。

 被告は、平成15年3月に、同月30日から1年間の契約更新に当たり、同日から原告の55歳の誕生日の前日である同年9月19日までの契約書(時給1700円)と翌20日から平成16年3月29日までの契約書(時給1290円)を原告に提示したところ、原告は前半の契約書にのみ調印した。そこで被告は、平成15年5月、後半の契約書を撤回し、時給1700円の1年間の契約書の作成を原告に求めるとともに、平成16年3月29日をもって雇止めをする旨書面で通知した。原告は1年間の契約書に調印はしたが、本件雇止めは合理的理由がないとして撤回を求めた。
 原告は、本件契約社員としての雇用契約については、形式的に契約期間を1年とする形態をとっていても、当事者のいずれにおいても格別の意思表示がない限り当然に更新されるべきものであるとして、本件雇止めの無効確認と賃金の支払いを請求した。
主文
1 原告が、被告に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

2 被告は、原告に対し、金13万8333円並びに平成16年5月から本判決確定に至るまで毎月25日限り金28万9633円及びこれに対する当該各月26日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

3 原告のその余の請求を棄却する。

4 訴訟費用はこれを10分し、その9を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。
5 この判決は、第2項に限り、仮に執行することができる。
判決要旨
1 本件契約が平成16年3月29日をもって終了したかどうか

(1)被告が1年の期間を定めた契約社員を募集した目的は、労働力の増減の調整をより容易にすることにあったこと、(2)原告を含む契約社員の業務内容は、正社員である教習指導員と基本的に異ならず、臨時的な性質のものではないこと、(3)教習指導員の資格を取得するに至るまでの方式は正社員と異なるところはなく、そのため契約社員に応募した者に1年で雇用を打ち切られるという意識はなく、契約社員の募集広告にも期間の定めは記載されていないこと、正社員は月給制で退職金があるのに対し、契約社員は時給制で退職金がなく、出勤日、勤務時間については契約社員の方が自由であること、(5)契約社員の中には雇止めにより雇用関係が終了した者はおらず、本件契約についても9回にわたって更新されてきたこと、(6)被告においては、契約社員を採用することになった当初から、格別問題がない限り、旧契約の期間満了前に契約社員が被告から契約書の交付を受け、その内容を確認して署名押印の上被告に提出するという手続きがとられていたことが認められる。

これらの事実を総合すると、本件契約が当初より原告又は被告から格別の意思表示がない限り当然更新されるべき契約として存在した、あるいは本件契約が実質的に期間の定めのない労働契約と異ならない状態で存在していたとまではいえないが、その雇用関係は、ある程度の継続が期待されていたものというべきであり、現に9回にわたって更新が繰り返されてきたのであるから、原告を契約期間満了によって雇止めにするに当たっては、解雇に関する法理が類推適用されるというべきである。そして、解雇であれば解雇権の濫用として解雇無効とされるような事実関係の下に被告が新契約を締結しなかったのであれば、期間満了後の法律関係は、従前の雇用契約が更新されたのと同様の法律関係になるものと解される。

2 解雇権の濫用に当たる事実の有無

 被告は、原告が本件雇止めを一旦承諾した旨主張するが、これを認めるに足りる的確な証拠は見当たらないし、前記認定の事実経過からは原告が本件雇止めを了承する意思は全く窺われないので、被告の主張は採用できない。

 原告が平成15年4月28日の教習中に助手席で居眠りをしたとして教習生から苦情を受けたこと、そのため被告はその教習を「欠格教習」の扱いとし、教習生に改めて教習を受けさせたこと、被告就業規則には、契約社員などが教習生に対して不親切な教習を行ったときは、減給又は出勤停止処分する旨、ただし情状により訓戒又は譴責に止めることがある旨定められていることが認められる。しかし、原告が同日に実際に居眠りをしたかどうかは明らかではないし、仮にそのような事実があったとしても、そのことが雇用関係を終了させるべきほどの不適格性を示すものということはできない。

 正社員には55歳以降基本給には昇給がなく、減額する旨が就業規則で定められているが、契約社員に関してはそのような規定は存在しないし、正社員と契約社員では賃金体系、退職金の有無その他の労働条件などが異なるのであるから、契約社員である原告が55歳以降の減額に応じないからといって、本件雇止めに合理的な理由があるとすることはできない。そして、ほかに本件雇止めを合理的なものと認めるべき理由は見当たらないばかりでなく、被告は平成16年5月に契約社員1人を新たに採用したこと、被告においては、教習指導員としては69歳の嘱託職員がいることが認められる。
 以上の点に照らすと、本件のような契約社員の雇止めの場合にはその判断基準について正社員の場合とは差異があるとしても、本件雇止めは客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められないから、解雇権濫用の法理の類推適用により無効であるといわなければならない。
適用法規・条文
なし
収録文献(出典)
労働判例890号73頁
その他特記事項
本件は控訴された。