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A社派遣社員解雇事件

事件の分類
解雇
事件名
A社派遣社員解雇事件
事件番号
大阪地裁 - 平成15年(ワ)第10330号
当事者
原告 個人1名
被告 株式会社
業種
建設業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2005年02月28日
判決決定区分
棄却(控訴)
事件の概要
 被告は、建築・土木に関する企画・設計等を目的とする株式会社であり、原告は昭和58年10月、被告にアルバイトとして雇用された女性である。

 被告事務所では平成5年2月にパソコンが導入され、パソコン等を用いて一体的に処理できる人材が必要であったことから、派遣会社から人材の派遣を受ける方式を採ることとした。そこで被告は、平成6年2月、原告らに対し、同月末をもってアルバイトとしての雇用契約が終了するが、希望があれば派遣会社からの派遣社員として働くことができること、派遣会社はA社であること等を通知し、原告らは派遣社員として働きたい旨の意思を告げたことから、被告はA社との間で、原告らの派遣を受け入れる旨の労働者派遣契約を締結した。A社は平成6年3月、原告に対し、派遣社員として雇入れる旨を記載した就業条件明示書を送付し、原告はこれを承諾した。

 被告は、平成9年12月頃、A社に対し、原告に関する派遣契約を、同月末日の期間満了をもって終了する旨通知し、原告に対してもその旨伝えた。しかし原告が派遣社員としての勤務の継続を要望し、A社からも期間延長の要請があったことから、被告は原告の派遣契約を平成10年3月末まで延長した。その後原告と被告が協議し、(1)原告を引き続きA社からの派遣社員として受け入れること、(2)原告がパソコンの操作に習熟すること(3)原告が被告従業員の指示に従うことを条件に派遣契約を継続することについて合意した。

 被告は、平成10年5月以降、経営合理化の一環として、管理者の指示又は承認があった場合にのみ時間外勤務を認めることとしたが、原告はこれに反して残業を行い、その申告をしたことから、A社に注意を促した。これを受けたA社は原告に注意し、改善を求めたが、原告が態度を改めなかったことから、時間外手当を支給しなかった。これについては、原告は被告を相手に時間外手当の支給を求める別件訴訟を提起し、A社も加わって訴訟上の和解により終了した。
 平成15年1月の就業条件明示書において、同年3月末日にて契約終了となる旨通知され、同日をもって雇用契約が終了とされたことから、原告は、本件合意解約後も被告に雇用されており、そうでないとしても法人格否認の法理により被告が雇用契約上の責任を回避することはできないとして、被告との雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認及び賃金の支払い並びに違法な解雇による慰謝料等1000万円を請求した。
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
判決要旨
1 合意解約の成否について

 原告、被告間の雇用契約は、平成6年2月末をもって合意解約により終了し、同年3月1日以降は原告とA社との間に、労働者派遣契約に基づく雇用関係が成立したものと認めるのが相当である。

 原告が被告において従事してきた業務の内容は、時期により変動はあるものの、平成6年3月の前後を通じ、主としてOA機器による文書作成や資料整理であったといえるが、原告、被告間の雇用契約の終了に伴い、原告とA社間の雇用契約(派遣労働契約)が新たに成立したものと認められる以上、その前後の業務内容につき基本的に変化がないからといって、そのことから、原告、被告間の雇用契約が継続しているといえるものではない。また、原告が実際に行っていた業務は、文書、磁気テープ等のファイリングに係る分類の作成又はファイリングには該当しないし、その業務の中には適用対象業務である「事務用機器の操作」に該当しないものも含まれており、仮にこれが労働者派遣法4条3項(平成6年当時)や職業安定法44条に抵触するとしても、これらはいずれも取締規定であるから、そのことによって、原告、A社間の雇用契約が直ちに無効になるということはできない。

2 法人格否認の法理の適用の有無について

 A社は、昭和63年1月以降被告に対して労働者派遣を行っており、平成6年2月当時には延18人の派遣実績になっていたが、A社と被告との間には人的関係や資本上の関係はなく、被告はA社の100社以上の取引先企業の一つに過ぎない。被告では、パソコン導入に伴い、パソコン等を使用して一体的に処理し得る職能を持った人材を確保する必要が生じたため、その方法として、アルバイトを廃止して派遣社員を受け入れる方針を固めたが、原告らについては、被告の業務に精通していたので、本人の希望があれば派遣社員として受け入れることとされた。そのため、被告はA社に対し、長期アルバイト勤務者が希望すれば、A社の派遣社員として雇い入れてもらうよう要請したところ、A社としても営業活動を要せず新規契約ができる利点があったことから、これに応じることとした。

 以上の事実認定によると、被告とA社との間には人的関係や資本上の関係がなく、被告はA社の一取引先にすぎず、被告がA社を意のままに支配し得る立場にあったということはできないから、被告が法人格を濫用したとすることはできない。したがって、原告の被告に対する雇用契約上の権利を有する地位の確認請求及び賃金請求は、いずれも排斥を免れない。

3 不法行為の成否について
原告、被告間の雇用関係は、平成6年2月末をもって終了しており、また本件に法人格否認の法理を適用することもできないから、原告主張のように被告が本件解雇を行ったものとすることはできない。したがって、被告が原告に対し不法行為による損害賠償義務を負う理由はない。
適用法規・条文
なし
収録文献(出典)
労働判例897号95頁
その他特記事項
本件は控訴された。