判例データベース
N社派遣社員解雇控訴事件
- 事件の分類
- 解雇
- 事件名
- N社派遣社員解雇控訴事件
- 事件番号
- 大阪高裁 − 平成17年(ネ)第832号
- 当事者
- 控訴人 個人1名
被控訴人 株式会社 - 業種
- 建設業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2006年05月30日
- 判決決定区分
- 棄却(上告)
- 事件の概要
- 控訴人(第1審原告)は、被控訴人(第1審被告)に、昭和58年にアルバイトとして雇用され、合意に基づき雇用契約を解消した上で、平成6年3月から派遣会社であるA社の派遣社員として、被控訴人において就労していたところ、平成15年3月末日をもって雇用関係を終了させられた。そこで控訴人は、被控訴人に雇用されており、仮にそうでないとしても法人格否認の法理によって被控訴人が雇用契約上の責任を回避することはできないとして、本件解雇が解雇権の濫用により無効であると主張し、被控訴人との雇用関係の存在の確認と賃金の支払い、違法な解雇による損害賠償として1000万円を請求した。
第1審では、原告、被告間の雇用契約は、平成6年2月の合意解約により終了し、同年3月以降は原告とA社間に労働者派遣契約に基づく雇用関係が成立したこと、原告が従事していた業務が仮に労働者派遣法や職業安定法に仮に抵触するとしても、これらはいずれも取締規定であるから、契約が直ちに無効になることはないこと、被告とA社との間には人的関係や資本上の関係がないから被告が法人格を濫用したとすることはできないこと等の理由を挙げて、原告の請求をすべて棄却した。そこで控訴人は、新たに(1)控訴人、被控訴人間の合意解約の意思表示は要素の錯誤により無効であること、(2)労働者派遣法、職業安定法に違反する控訴人とA社との間の契約は民法90条、91条により無効であり、これと対になっている控訴人、被控訴人間の雇用契約の合意解約も無効であること、(3)派遣受入れ期間を超えて派遣を継続する場合には派遣先(被控訴人)と派遣労働者(控訴人)との間に労働契約が成立することを新たな主張として追加し、控訴したものである。 - 主文
- 1 本件控訴を棄却する。
2 訴訟費用は控訴人の負担とする。 - 判決要旨
- 1 合意解約の成否について
被控訴人やA社の担当者の控訴人らに対する派遣契約締結に向けての説明、被控訴人担当者の控訴人らに対するその後の意思確認を経て、控訴人は平成6年3月、A社から派遣社員として雇い入れる旨の就業条件明示書等の送付を受け、その内容に異議を述べるなどしていないこと等によると、控訴人、被控訴人間の雇用契約は、平成6年2月末をもって合意解約により終了し、同年3月1日以降は控訴人とA社との間に、派遣労働契約に基づく雇用関係が成立したものと認めるのが相当であり、同月以降、控訴人の使用者は、形式的にも実質的にもA社というべきである。
2 法人格否認の法理の適用の有無について
A社は、昭和63年1月から被控訴人に対して労働者派遣を行っているが、被控訴人は、100社以上存在する取引先企業の1つに過ぎず、被控訴人とA社との間には人的関係や資本上の関係はなく、被控訴人はA社のビジネスの1取引先に過ぎないのであって、両社が実質的、経済的に同一とみられるような事情は窺われない。したがって、控訴人の法人格否認の主張は採用できない。
3 控訴人の錯誤による合意解約の主張について
控訴人は、被控訴人との間の当初の雇用契約が合意解約されたとしても、控訴人とA社との間の期間の定めのある契約が、解約後も従前と何ら労働条件に変更はないものと信じていたもので、控訴人の上記合意解約における意思表示は法律行為の要素に錯誤があるから無効であると主張する。しかし、控訴人、被控訴人間の当初の雇用契約が期間の定めのない雇用契約か、これと同然の保護を受ける契約であったとの事実を認めるに足りる証拠はなく、かえって、控訴人、被控訴人間の上記契約も1年間の契約期間が定められた契約であったことが認められる上、控訴人は被控訴人の担当者から、従前と何ら労働条件に変更はないとの説明を受けたことはない。したがって、控訴人主張のように、控訴人が上記合意解約の際、解約後も従前と何ら労働条件に変更はないものと信じていたと認めることはできないし、控訴人の上記合意解約の意思表示について、法律行為の要素に錯誤があったものと認めることもできない。
4 民法90条、91条による無効との主張について
控訴人は、A社との間の契約が労働者派遣法、職業安定法に反して違法、無効であり、この契約と対になっている控訴人、被控訴人間の雇用契約の合意解約も無効であると主張するが、控訴人が被控訴人において従事してきた業務の内容は、時期により変動はあるものの、平成6年3月の前後を通じ、主としてOA機器による文書作成や資料整理であったというべきであり、労働者派遣法や職業安定法に抵触するとはいえないから、控訴人、A社間の上記雇用契約(派遣労働契約)が、民法90条の公序良俗に違反し無効とはいえない。また、平成9年12月以降の控訴人の仕事については、必ずしもOA機器による文書作成や書類の整理が主とはいえず、通常の事務の仕事にも相当従事したとみる余地が十分あるが、これは有効に成立した控訴人とA社間の派遣労働契約の効力の問題であって、控訴人と被控訴人間の上記合意解約の効力に影響を及ぼすものではない。なお、控訴人とA社間の派遣労働契約について、労働者派遣法や職業安定法に適合しないと解される部分があるとしても、これらの規定がいずれも行政取締規定であることからすると、そのことによって、控訴人、A社間の派遣労働契約が直ちに無効になることはできないというべきである。
5 控訴人、被控訴人間の新たな雇用契約の成立について
控訴人は、仮に被控訴人との間の雇用関係が一旦終了しているとしても、控訴人が本来派遣就業できない業種に派遣され、派遣可能期間を超えて被控訴人の指揮下で勤務していた本件の場合、控訴人、被控訴人間に黙示的に新たな労働契約関係が成立したと解すべきである旨主張する。しかし、控訴人の行っていた業務は、少なくとも平成9年12月頃までは、一般事務とは異なり、その大半がOA機器による文書作成及びその一環としての付随的、補完的作業であり、一般事務については控訴人の業務全体に比してごく僅かであったものであるから、控訴人が本来派遣就業できない業種に派遣されたと評価することはできない。したがって、控訴人、被控訴人間に黙示的にせよ新たな労働契約関係が成立したと解すべき余地はないから、控訴人の被控訴人に対する雇用契約上の権利を有する地位の確認請求及び賃金請求は、いずれも理由がない。
6 不法行為の成否について
被控訴人は、控訴人主張の本件解雇当時控訴人を雇用していないから、控訴人の本件解雇が解雇権の濫用であるとの主張は、明らかに理由がない。したがって、控訴人の不法行為の主張は採用できない。 - 適用法規・条文
- なし
- 収録文献(出典)
- 労働判例928号78頁
- その他特記事項
- 本件は上告された。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
大阪地裁 - 平成15年(ワ)第10330号 | 棄却(控訴) | 2005年02月28日 |
大阪高裁 − 平成17年(ネ)第832号 | 棄却(上告) | 2006年05月30日 |