判例データベース
N社関西支店解雇事件
- 事件の分類
- 雇止め
- 事件名
- N社関西支店解雇事件
- 事件番号
- 平成15年(ワ)第7870号
- 当事者
- 原告 個人5名 A、B、C、D、E
被告 株式会社 - 業種
- 製造業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2005年03月30日
- 判決決定区分
- 一部認容・一部棄却(控訴)
- 事件の概要
- 被告は、チョコレート、キャンディー等の製造、輸出、販売等を業とする株式会社であり、Nジャパンホールディング株式会社が全額出資して設立した会社である。原告Aは平成7年9月(更新回数7回)、原告Bは同4年2月(同11回)、原告Cは同4年4月(同11回)、原告Dは同12年7月(同3回)、原告Eは同14年9月(同1回)に、それぞれ被告に雇用された女性であり、いずれも関西支社に配属され、菓子類を店頭で販売する業務(MD業務)に従事していた。 被告は、MD業務を外部委託することを決め、平成15年5月28日の説明会において、原告らに対し、MD業務の外部委託を理由に、雇用期間満了前である同年6月30日をもって解雇する旨の意思表示をした。原告らは労組を結成し、被告に団交を申し入れる等したが、被告は同月23日付けで、原告らに予備的に雇用期間満了日に契約を更新しない(雇止め)旨通知をした。 これに対し原告らは、雇用契約期間中の解約は強行法規である民法628条に違反するから無効であること、本件解雇には整理解雇の法理が適用されるべきところ、整理解雇の要件を満たしていないこと、本件雇止めには解雇権濫用の法理が類推適用されるところ、合理性がないことを主張し、本件解雇ないし雇止めの無効確認を請求するとともに、賃金の支払い及び精神的損害に対し原告1人当たり100万円の慰謝料を請求した。
- 主文
- 1 原告らが、被告に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
2 被告は、原告らに対し、それぞれ、平成15年7月から本判決確定まで毎月25日限り、別紙1の「認容額」欄記載の各金員及びこれに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
3 被告は、原告らに対し、それぞれ、平成15年12月から本判決確定まで、毎年6月10日及び12月10日限り、別紙2の「認容額」欄記載の各金員及びこれに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
4 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
5 訴訟費用中、原告らに生じた費用及び被告に生じた費用の各10分の7をいずれも被告の負担とし、原告らに生じた費用及び被告に生じた費用の各10分の3をいずれも原告らの負担とする。
6 この判決は、第2項及び第3項に限り、仮に執行することができる。 - 判決要旨
- 1 本件解雇は無効か否か
本件各契約書には解約条項が明記されており、原告らはそれを認識した上で、本件契約書に署名押印し、被告と合意したと認められるから、本件解約条項は効力を有するものといわなければならない。
民法は、雇用契約の当事者を長期に束縛することは公益に反するとの趣旨から、期間の定めのない契約については何時でも解約申入れをすることができる旨定める(627条)とともに、当事者間で前記解約申入れを排除する期間を原則として5年を上限として定めることができ(626条)、同法628条は、その場合においても「已ムコトヲ得サル事由」がある場合には解除することができる旨を定めている。そうすると同条は、解除事由をより厳格にする当事者間の合意は同条の趣旨に反し無効というべきであるが、より解除事由を緩やかにする合意をすることまで禁じる趣旨とは解し難い。したがって、本件解約条項は、解除事由を「已ムコトヲ得サル事由」よりも緩やかにする合意であるから、民法628条に違反するとはいえない。
使用者の解雇権の行使は、それが客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当として是認できない場合には、権利の濫用として無効であると解するのが相当である。被告において正規従業員を採用する場合は、本社において筆記試験、面接を行った上で雇用契約を締結するのに対し、MDを採用する場合は、各支店において補充が必要になった場合等に応募者の履歴書を審査した上で面接を行い、MD業務に対する適性の有無の見地から採否を決定し、雇用契約を締結していたことが認められ、原告らMDと正規従業員との間には、少なくとも期間の定めの有無のみならず、採用の基準や手続きにおいても相違があった上、MDについては雇用期間満了が退職事由とされ、更新についても特段規定されておらず、定年の規定が適用されないことはもとより、賃金等や福利厚生の規定も適用されず、休職制度もなく、年休の扱いにも差が設けられていた。そして契約書には本件解約条項が設けられていた上、契約更新の際にも、ほぼ毎回それに先立ち雇用契約書が作成されていたことも併せ考慮すると、定年まで雇用を継続できるとの期待の点において、原告らと正規従業員との間には何らの合理的な差異がなかったとはいい難い。しかし、本件解約条項に基づき原告らを解雇する場合にも、正規従業員と同様、就業規則が限定列挙している所定の解雇事由がなければ解雇されないという点で、雇用契約関係が継続することの合理的な期待が存在するというべきであるから、雇用期間の定めのある原告らに対する期間満了前に行われた本件解雇について、解雇権濫用の法理が適用されるべき基礎事情が存在しないとまではいえない。
被告では、本件業務委託後も、原告らMDが移籍した上で従前どおりMD業務を継続して担当すること自体は容認していたこと等を考慮すれば、被告のMD業務の外注化が不可避であったとまではいい難く、仮に外注化が望ましいとしても、雇用期間が満了していない原告らを直ちに解雇してまで直ちに実施しなければならないほどその経営上の必要性が高かったとはいえない。原告らMDは、各人ごとに勤務場所と担当する店舗等が決められているから、仮に関西支店のMD業務を外注するとしても、雇用期間が満了したMDから順次雇止めをして、段階的に外注することも可能であったと考えられるし、仮にそれが不可能であったとしても、原告らを他の勤務場所や別の部署に配転することも可能であったのであるから、原告らが配転に応じることによって解雇されることを回避する機会を与えることができた。
被告においては、経営上本件業務委託を直ちに行うべき緊急性はなかったのであるから、原告らの解雇を避けるため、原告らと十分協議をすべきであった。そうすれば原告らとしても一層業務の改善に努力するであろうから、本件業務委託を実施するまでの必要がなくなった可能性も否定できない。ところが、被告は、本件解雇前には、原告らに対し、本件業務委託の必要性について何らの説明も行っていないし、その後、原告らが結成した分会との団体交渉においても、本件解雇の撤回を一貫して拒否していたことが認められる。
以上に述べた事情を総合考慮すれば、本件解雇は客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当として是認することはできず、無効であるといわなければならない。
2 本件雇止めは無効か否か
MDの採用に当たっては、正規従業員を採用する場合とは採用の基準や手続きが異なっていたほか、就業規則においても、原告らMDについては雇用期間満了が退職事由とされ、更新については特段規定されておらず、定年の規定が適用されないことはもとより、賃金等や福利厚生の規定も適用されず、休職制度もなく、年休等の扱いにも差が設けられていたのであって、更に本契約では、雇用期間が1年間と明示されるとともに、契約書に本件解約条項が設けられていた上、契約更新の際にも原則的には更新に先立ち契約書が作成されていたことも併せ考慮すると、本件各契約が当然に更新が予定され、実質的に正規従業員と同様の期限の定めのない契約と異ならない状態で存続していたということはできない。
しかし、被告はMD業務に関する教育・研修体制を整備するなどしているのであるから、少なくとも本件業務委託を検討するまでは、MDとしての適性を欠く者でない限り、被告としても、原則としてMDを継続して雇用することを想定していたものといわなければならない。そして、本件契約についても、(1)原告Aについては7回、原告B及び原告Cについてはそれぞれ11回、原告Dについては3回にわたり契約が更新されてきたこと、(2)契約更新の際の原告らに対する事前の意思確認は、契約書の送付や口頭により行われ、契約書の作成が更新後になったこともあったこと、(3)原告Eを含む3人の場合、入社面接の際、被告の担当者らが、原告らに対し、MDは長く勤務しているとの趣旨の発言をしたことなどの事情からすると、原告らにおいて、本件各契約が更新されるとの期待を抱くことについて、合理的な理由があったというべきである。そうすると、被告が本件各契約を契約期間満了によって雇止めにするに当たっては、解雇権濫用の法理を類推適用するのが相当であり、本件の具体的な事情の下で、被告が原告らとの雇用契約の更新を拒絶することが著しく不合理であり、社会通念上相当なものとして是認することができない場合には、期間満了後においても、当事者の従前の雇用契約が更新されたのと同様の法律関係になるというべきである。
本件雇止めについては、本件解雇に関して述べたとおり、その経営上の必要性の程度は、関西支店のMD全員につき直ちに実施しなければならないほど高かったともいい難い。本件雇止めに当たっては、配転等により雇止めを回避する機会を与えることも可能であったが、被告は原告らにそのような機会を与えたとは認められないし、被告が原告らに斡旋した内容も、本件雇止めを回避したものと同様のものとは評価することができない。以上によれば、本件雇止めについても、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当として是認することはできず、権利の濫用として無効であるというべきであるから、原告らと被告との間には、期間満了後においても従前の雇用契約が更新されたのと同様な法律関係が生じているものといわなければならない。
3 毎月の賃金額並びに特別手当の支払義務の存否及びその内容 (略)。
4 本件解雇等の違法性、故意・過失及び損害の有無並びに損害額
原告らは、被告に対し各賃金の請求権を有するところ、本件において、原告らに金員の支払いをもって慰謝すべき精神的損害が生じたことを認めるに足りる証拠はない。したがって、原告らの請求のうち、慰謝料の支払いを求める部分は排斥を免れない。 - 適用法規・条文
- 民法628条
- 収録文献(出典)
- 労働判例892号5頁
- その他特記事項
- 本件は控訴された。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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