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C証券会社整理解雇事件

事件の分類
解雇
事件名
C証券会社整理解雇事件
事件番号
東京地裁 − 平成15年(ワ)第19953号 雇用関係確認等請求事件、東京地裁 − 平成15年(ワ)第29537号 建物明渡反訴請求事件
当事者
原告(反訴被告) 個人1名
被告(反訴原告) C証券会社
業種
金融・保険業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2005年05月26日
判決決定区分
本訴棄却、反訴認容(控訴)
事件の概要
 被告は、香港法に基づき、有価証券の売買等を目的として設立され、東京支店において証券業務を営んでいる法人であり、原告は、昭和63年3月大学卒業後、他社に就職し、大学院でMBAを取得するなどした後、平成12年9月に被告にヴァイスプレジデントとして雇用された女性である。

 原告は当初配属された外国債券営業部で、同僚2名との関係が悪化したことから、被告は平成13年8月、原告をインターバンクデスクへ配転した。ここで上司Aとアシスタントとしての同僚Bとの間は当初悪くなかったが、次第に原告とBの関係は悪化し、平成14年6月頃には原告がBを激しく叱責するようになり、原告はAに対しBに向上心がないなどと苦情を述べるようになった。

 被告は業績が大幅に悪化したことから、人件費を削減することとし、平成14年10月に、原告ら43名を対象として、退職給付や再就職支援サービスを含む退職パッケージを提示して退職勧奨を実施し、原告以外の42名が退職に合意した。原告は同年11月に労働組合に加入し、それ以降組合は被告と3回にわたり団体交渉を実施したが、合意に至らなかった。この間、原告が被告企業グループ幹部や人事部長に対して、差別的取扱いを受けたこと、Bの能力が低く、顧客に対し性的な言動を行って苦情を受けたことなど、Bに対する誹謗中傷を記載した文書を送付し、人間関係を更に悪化させたことから、被告は、給与水準の高い原告の雇用を継続させることは困難であると判断して、平成15年2月28日に、原告に対し同年3月31日付けで解雇する旨通告した。
 これに対し原告は、本件解雇は整理解雇に当たるところ、解雇基準を満たしていないことから無効であるとして、労働契約上の地位にあることの確認と賃金の支払いを請求した。他方、被告は原告に対し、社宅契約の終了に基づく社宅の明渡しと明渡しまでの賃料相当損害金の支払いを請求した。
主文
1 原告の本訴請求をいずれも棄却する。

2 原告は、被告に対し、別件物件目録記載の建物を明け渡せ。

3 原告は、被告に対し、平成15年4月1日から別紙物件目録記載の建物の明渡済みまで1ヶ月金21万6000円の割合による金員を支払え。

4 訴訟費用は原告の負担とする。
5 この判決は、第3項について、仮に執行することができる。
判決要旨
1 人員削減の必要性について

 被告は平成14年3月期において厳しい経営状況にあり、平成15年3月期においても依然厳しい経営状況にあったことが認められる。また平成13年3月期、同14年3月期と販管費が急増し、そのうち人件費が70%にも達していたことから、被告が平成14年3月期以降、経営を立て直すため販管費とりわけ人件費を削減する必要があったものということができる。以上によれば、本件解雇時において被告が経営上の理由に起因して従業員を解雇することは,企業の合理的運営上やむを得ない必要性があったものということができる。

2 人選の合理性について

 平成14年度におけるインターバンクデスクの業績は、同13年度比で約半分に落ち込み、更なる減少が見込まれ、他方インターバンクデスクに原告が配転されて増員となった以降同デスクの業績が向上した事実が認められないことからすると、被告が人員削減の対象部署として同デスクを選定したことが不合理であったとはいえない。そして同デスクにおける削減対象の選定に当たって、原告の給与水準はBのそれよりもはるかに高額であったのに対し、同デスクに対し原告がBを上回る貢献をした事実は認められず、むしろBの売上げは原告のそれを大きく上回っている事実が認められる。加えて、原告が配転されるまではAとBだけでインターバンクデスクの平成13年度の売上げに貢献していたものと推認できることからすると、被告が同デスクにおける人員削減の対象者として、原告を選定したことが不合理とまではいえない。以上から、整理解雇の対象として、原告を選定したことが不合理とはいえない。

3 解雇回避努力義務について

 被告は、原告ら43名の従業員に対し本件退職勧奨をしたものの、平成15年3月末時点において、多額の当期純損失を計上するなど依然として厳しい経営状況であったことが認められる。そして本件解雇後の平成15年4月以降も賃貸物件の解約に加え、引き続き大規模な人員削減を実施し、新規採用も控えている状況からすると、原告を他部署に配転することは困難であったということができる。この点、原告は配転など解雇回避努力が尽くされていないと主張するが、原告はL、Mらと人間関係上の問題を生じさせてインターバンクデスクに配転された経緯があること、同デスク内においてもA、Bとの人間関係上の問題を生じさせ、通常の意思疎通ができない状況に陥っていたことが認められる。また原告は、Bからハラスメントを受け、Bの性的な言動について顧客から苦情を受けた旨Bを誹謗中傷する文書を被告幹部らに送付し、これにより原告とBとの関係は回復が困難なほど悪化したものといえる。原告がBからハラスメントを受けていたとの主張は採用することができないし、仮にハラスメントを受けていたとしても、この文書を被告幹部らに送付する行為は適切な手段であったとはいえない。

 以上のとおり、原告は所属部署のいずれにおいても、同僚や上司との間で深刻な人間関係上の問題を生じさせ、これにより業務に支障を生じさせた反面、これらの問題が被告のハラスメントによるものとは認められないことからすると、原告の側の協調性にも問題があったものと推認できる。以上に加え、被告の厳しい経営状況も併せ考慮すると、被告が本件解雇に当たって他部署への配転を試みなかったことにも無理からぬ事情があるといえるから、被告が解雇回避努力を怠ったとまではいえない。

4 手続きの相当性について

 被告は、本件退職勧奨以降、原告及び組合に対して、本件解雇までの間、3回にわたって団体交渉に応じ、本件退職勧奨の必要性、人選基準及び退職パッケージ等について協議・説明を行ったが、合意に至らなかった事実が認められ、被告は団体交渉等の場において、本件解雇の理由等について、上記のとおりの説明をし、原告及び組合の納得を得られるよう一応の努力をしたものということができる。

5 不当労働行為について

 原告が被告に送付した文書には、確かに原告が加入している組合と共に被告と会議を行った旨の記載はあるが、被告が本件文書の送付を解雇の一事情としたのは、原告がBを誹謗中傷する等により原告をインターバンクデスクにおいて勤務を継続することが困難であると判断したことによるものであって、原告の組合加入を嫌悪したものとはいえない。

 以上によれば、本件解雇は、被告就業規則「事業の継続が困難になったとき」に該当し、社会通念上相当なものとして是認することができるから、本件解雇は有効であり、本件雇用契約は、平成15年3月31日をもって終了した。
6 明渡し請求の可否について (略)
適用法規・条文
なし
収録文献(出典)
労働判例899号61頁
その他特記事項
本件は控訴された。