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C社整理解雇控訴事件

事件の分類
解雇
事件名
C社整理解雇控訴事件
事件番号
東京高裁 - 平成17年(ネ)第3120号
当事者
控訴人 個人1名
被控訴人 株式会社
業種
金融・保険業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2006年12月26日
判決決定区分
原判決一部取消(上告)
事件の概要
 被控訴人(第1審被告)は有価証券の売買等を業とする会社であり、控訴人(第1審原告)は被控訴人にヴァイスプレジデントとして雇用された女性である。控訴人は最初に配属された外国債券営業部で同僚との関係が悪化したため、被控訴人は控訴人をインターバンクデスクに配転した。ところが同デスクにおいても次第に同僚Bとの関係が悪化し、上司Aに対してBに向上心がないと苦情を述べたり、Bが顧客に対して不適切な性的行動をとったと申し出るに至った。

 被控訴人は経営危機に対処するため、人件費の削減を実施することとし、平成14年10月に控訴人を含む43名に対し退職勧奨を行った。この後、控訴人が被控訴人の属するグループの幹部や人事部長らに対し、事実の裏付けがないままBの能力が低いこと、Bがみだらな振舞いをしていること等を記載した文書を送付し、人間関係を更に悪化させたため、被控訴人は控訴人が同僚と良好な関係を維持しながら勤務することは困難であると判断し、控訴人に対し平成15年3月31日付けで退職を通告した。これに対し控訴人は、本件解雇は解雇の4要件を満たしていないから、解雇権の濫用として無効であると主張し、雇用関係の確認と賃金の支払いを請求した。
 第1審では、本件解雇を整理解雇の4要件に照らして検討した上、就業規則の規定に該当し、社会通念上相当なものとして是認できるとして控訴人の請求を棄却したことから、控訴人はこれらを不服として控訴したものである。
主文
1 控訴人の控訴について

(1)原判決の主文第2項及び第3項を取り消す。

(2)被控訴人の反訴請求をいずれも棄却する。

(3)控訴人のその余の請求を棄却する。

2 控訴人の参加承継人に対する請求について

  控訴人の参加承継人に対する請求をいずれも棄却する。

3 参加承継人の控訴人に対する請求について

(1)控訴人は、参加承継人に対し、別紙物件目録記載の建物を明け渡せ。

(2)控訴人は、参加承継人に対し、777万6000円及びこれに対する平成18年4月1日から支払い済みまで年5分の割合による金員並びに平成18年4月1日から上記(1)の建物明渡済みまで1ヶ月21万6000円の割合による金員をそれぞれ支払え。

4 訴訟費用(参加承継人の訴訟参加及び訴訟引受によって生じた費用を含む。)は、第1、2審とも全部控訴人の負担とする。
5 この判決は、第3項の(1)及び(2)に限り、仮に執行することができる。
判決要旨
1 本件解雇の効力について

 当裁判所が認定した事実も、原判決のとおりである。控訴人は、本件解雇に至る過程において被控訴人における控訴人の同僚や上司による控訴人に対するハラスメントがあった旨強調するが、本件解雇の効力の判断に影響を及ぼすような違法なハラスメントがあったとまでは認められない。

 控訴人が整理解雇の4要件として主張する(1)人員削減の必要性、(2)人選の合理性、(3)解雇回避努力、(4)手続きの相当性は、整理解雇の効力を総合的に判断する上での重要な要素を類型化したものとして意味を持つに過ぎないものであって、整理解雇を有効と認めるについての厳格な意味での「要件」ではないと解すべきである。本件において、(1)の「人員削減の必要性」については、本件解雇当時において被控訴人は経営上の理由に起因して従業員を解雇することが企業の合理的運営上やむを得ない状態にあったものと認められ、その必要性があったものということができ、(2)の「人選の合理性」については、被控訴人において人員削減の対象部署としてインターバンクデスクを選定し、人員削減の対象者として支給給与額と売上実績とを考慮して控訴人を選定したことが不合理とまではいうことができないものと認められ、(3)の「解雇回避努力」については、本件解雇当時の被控訴人の厳しい経営状態に加えて、控訴人の貢献度や控訴人が同僚や上司との間で深刻な人間関係上の問題を生じさせていること等を考慮すると、控訴人を他部署に配転させることを試みなかったとしても、被控訴人が解雇回避努力義務を怠ったとまではいえず、(4)の「手続の相当性」についても、被控訴人は平成14年10月24日に控訴人に対して本件勧奨退職をなした後本件解雇通告をした平成15年2月28日までの間に、3回にわたって、控訴人及び控訴人が加入した組合との間で団体交渉に応じて、本件退職勧奨の必要性、控訴人を対象として選定した理由、そして退職パッケージ等について説明等をし、それにもかかわらず本件退職勧奨の撤回を求める控訴人及び組合との間で合意に至らなかったため、被控訴人はその後においても団体交渉や都労委のあっせん手続きに応じるなどし、それでもなお合意に至らなかったという経過に徴すると、被控訴人においては本件退職勧奨及び本件解雇について控訴人の納得が得られるよう相応の努力をしたものということができる。

 以上を前提として、整理解雇の4つの要素について総合的に判断すると、本件解雇は就業規則の「事業の継続が困難になったとき」に該当し社会通念上相当なものとして是認することができ、客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当であるとは認められないものであって、被控訴人が解雇権を濫用したものとは認められず、本件解雇は整理解雇として有効であるというべきである。

2 被控訴人及び参加承継人の本件建物明渡請求の可否について (略)
3 控訴人の一時金支払請求権の有無について (略)
適用法規・条文
なし
収録文献(出典)
労働判例931号30頁
その他特記事項
建物明渡請求に係る原判決一部取消部分については上告された。