判例データベース
研究所非常勤職員解雇控訴事件
- 事件の分類
- 雇止め
- 事件名
- 研究所非常勤職員解雇控訴事件
- 事件番号
- 東京高裁 − 平成18年(ネ)第2163号
- 当事者
- 控訴人 大学共同利用機関法人
被控訴人 個人1名A
被控訴人 非常勤職員組合 - 業種
- 公務
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2006年12月13日
- 判決決定区分
- 原判決取消し
- 事件の概要
- 控訴人(第1審被告)は、平成16年4月1日、国の設置していた国立情報学研究所(国情研)等の研究所が統合されて設立された法人であり、被控訴人(第1審原告)Aは平成元年5月に当時の学術情報センターの非常勤職員として採用され、以後13回にわたって任用の更新を受けてきた国情研の非常勤職員、被控訴人組合は、被控訴人Aらによって結成された職員団体である。
国情研は、平成15年3月31日をもって被控訴人Aの雇用期間が満了したとして雇止めを行ったところ、被控訴人Aは、国情研との有期雇用関係における雇止めは解雇と評価されることから、本件不再任用は無効であるとして、主位的には労働契約上の地位を有することの確認と平成15年4月以降の賃金、予備的には任用継続の期待権侵害による賃金相当額及び慰謝料200万円等を請求し、被控訴人組合は団体交渉権が侵害されたとして、不法行為に基づく損害賠償100万円を請求した。
第1審では、原告Aの主位的請求を認容し、原告組合の請求を棄却したため、被告及び原告組合が判決を不服としてそれぞれ控訴したものである。 - 主文
- 1 原判決主文1項及び2項を取り消す。
2 原告の主位的請求及び予備的請求をいずれも棄却する。
3 原告組合の本件控訴を棄却する。
4 訴訟費用は、原告と被告との間においては、第1,2審とも原告の負担とし、原告組合と被告との間においては本件控訴費用を原告組合の負担とする。 - 判決要旨
- 1 解雇権濫用法理の適用の有無
国情研は国の機関であり、その職員は国家公務員であるところ、国家公務員の任用は、国家公務員法及び人事院規則に基づいて行われ、勤務条件について公法上の規制に服することを前提とする公法上の行為であって、これに基づく本件勤務関係が公法上の任用関係であることは明らかである。なお、仮に原告Aの主張するような担当職務の内容、採用時の状況及び任用が繰り返されてきたことなどの事情が認められたとしても、そのような事情によって公法上の任用関係である本件勤務関係が私法上の労働契約関係と同質のものであると考えることはできないというべきである。
2 解雇権濫用法理の適用の有無
国家公務員の任用は公法上の行為であって、これに基づく本件勤務関係が公法上の任用関係であることは明らかである。そしてその任用形態の特例及び勤務条件は細部にわたって法定されているのであって、当事者の個人的事情や恣意的解釈によってその規制内容を歪める余地はなく、原告Aの非常勤職員としての地位はその雇用期間が満了すれば当然に終了するものというほかないのである。そうすると、本件勤務関係が実質的に期限の定めのない雇用関係であったとはいえず、本件勤務関係には有期雇用関係における雇止めが解雇権濫用と評価されるための前提事情を観念する余地はないというべきである。また、退職した職員を再任用するか否かは任命権者の行う行政処分としての新たな任用行為であって、その裁量に委ねられており、退職した非常勤職員にその行政処分を要求する権利を認めた法規はない。
3 期待権侵害の不法行為の成否
原告Aは平成元年5月1日に学術情報センターに任用された際、同センターが国の機関であり、非常勤職員として任用されることを認識していた上、雇用期間、勤務条件を明示した人事異動通知書等を受けたのであるから、面接の際長く勤めて欲しいと説明を受けたため雇用期間満了後も再任用されるとの期待を抱いたとしても、その期待は主観的な事実上のものに過ぎず、雇用期間満了後の再任用が法律上保護されるべきものであるということはできない。そして、そのような原告Aが学術情報センター及び国情研に再任用された都度、人事異動通知書及び勤務条件を明示した書面の交付を受けていたものであることに鑑みれば、原告Aが平成2年から同14年まで13回にわたり再任用されたため、平成15年3月31日の雇用期間満了後も自分は再任用されるとの期待を抱いたとしても、上記期待は主観的な事実上のものに過ぎず、これが法律上保護されるべきものであるということはできない。
4 団体交渉権侵害の不法行為の成否
国情研が、平成15年2月における3回にわたる団体交渉の申し入れに対し、原告組合について職員団体の登録が未了であったため、原告組合が国公法108条の2に規定する職員団体であるか否か、交渉の当事者としての適格性を有するかどうかを確認できるまでは交渉には応じられないとしたのは正当であり、その対応を違法なものと評価することはできない。
国公法108条の5第3項は、国の事務の管理及び運営に関する事項は交渉の対象とすることができない旨規定しており、職員の任命権の行使に関する事項を対象として職員団体と交渉を行うことは法治主義に基づく行政の本質に反し許されないものであるから、国情研が本件不再任用に係る問題について、国の事務の管理及び運営に関する事項であって交渉の対象とすることができないとして本交渉を行わなかったことは正当である。したがって、国情研が平成15年3月31日までの間原告組合との間で本交渉を行わなかったことを違法ということはできない。 - 適用法規・条文
- 国家公務員法108条の2、108条の5
- 収録文献(出典)
- 労働経済判例速報1957号16頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
東京地裁 - 平成16年(ワ)第5713号 | 一部認容・一部棄権利義務却(控訴) | 2006年03月24日 |
東京高裁 − 平成18年(ネ)第2163号 | 原判決取消し | 2006年12月13日 |