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長崎市嘱託員再任用拒否事件

事件の分類
雇止め
事件名
長崎市嘱託員再任用拒否事件
事件番号
長崎地裁 - 平成17年(行ウ)第3号
当事者
原告個人1名

被告長崎市
業種
公務
判決・決定
判決
判決決定年月日
2006年05月30日
判決決定区分
棄却(控訴)
事件の概要
 原告は、平成12年4月に被告市の嘱託員として任用され、1年間の期限で平成17年3月31日まで任用を更新されてきた。被告は、嘱託員を任用する際には、任用期間、所属、業務内容、勤務時間、報酬額その他の勤務条件等を明記した任用通知書を当該嘱託員に交付していた。
 原告は、嘱託員として被告統計課に配置され、補助的な業務に従事していたところ、平成17年2月上旬、被告から次年度の任用がない旨告げられ、同月23日に正式に通告された。原告は同様の通告を受けた嘱託員5名とともに長崎市公平委員会に措置要求を行ったが、却下され、その後開催された労使交渉も合意をみることなく決裂し、任用期間が満了した。そこで原告は、本件再任拒否については解雇の法理が類推適用され、解雇権の濫用に当たるとして、解雇の無効及び賃金の支払い並びに不当解雇により被った精神的苦痛に対する慰謝料200万円を被告に対し請求した。
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
判決要旨
1 地位確認請求の成否について

 原告は、地方公務員法17条1項の規定に基づき1年間の期限付きで任用された職員として、被告統計課の事務の補助を行っていたものであって、平成17年3月31日をもって任用期間が満了したものであるが、この事実を前提とする限り、原告はその任用期限である平成17年3月31日の経過をもって、当然に被告を退職したものと認められる。

 原告は、平成12年4月1日以来、被告による1年間の期限付き任用を繰り返し受け、被告での稼働を5年間継続している。民間の臨時工の雇止めの効力の判断に当たっては、解雇に関する法理の類推適用を認めるべきであると最高裁が判断を示しているが、当事者双方の合理的意思解釈によってその内容を定めることが予定されていない行政処分について、このような考え方を直ちに当てはめることには無理があると思われる。また、期限付き任用と期限の定めのない任用とは性質及び手続きを異にする別個の任用行為と考えられており、期限の定めのない任用行為がない限り、期限の定めのない任用関係が有効に成立し得る余地はない。したがって、本件においても、原告に対し期限付き任用が繰り返されたからといって、これが期限の定めのない任用に転化するとか、任用期間満了後の本件再任用拒否につき解雇に関する法理が類推適用されると解する余地はないというべきである。

 原告は、継続任用3要件という労使合意((1)現に職があり、(2)本人の働く意思があり、(3)本人に落ち度がない、を満たせば継続任用に努力する)により、再任用拒否に係る被告の自由裁量が制約されており、それにもかかわらず行われた本件任用拒否は、信義則に反し違法であると主張する。確かに長崎市従業員組合等からの要求により、被告は「最初の任用の日から3年を超えて更新することはできない。」という部分を撤回し、平成4年4月から本件嘱託要綱が実施されるに至ったことが認められるが、この要綱においては原告主張の継続任用3要件は明記されておらず、「業務遂行上必要がある場合には、再度任用することができる。」と規定するに止まり、「任用期間が満了したときは、別に通知することなく退職する。」と規定されている。しかも被告は、「退職金は3年以上勤務した者に対し支給する」という組合の要求に対し、「嘱託員の任用は1年であり、結果的に繰り返しの任用になったとしても、退職金は支給しない」と回答し、組合による「一方的な雇止めは行わないこと」との要求に対し、「嘱託員は期間が満了すれば当然に退職となる。」などと回答して、嘱託員がその任期満了により当然退職となる旨の説明を一貫させている。

 以上によれば、継続任用3要件に係る労使合意が成立したと認めるに足りないから、労働契約上の権利を有する地位に準ずる地位にあることの確認及び平成17年4月以降の賃金支払いを求める部分については、理由がない。

2 損害賠償請求の成否について
 原告が任用期間満了後に再任用される権利若しくは任用を要求する権利又は再任用されることを期待する法的利益を有するものと認めることはできないから、本件再任用拒否により原告の権利ないし法的利益が侵害されたものと解する余地はない。もっとも、任用権者である被告が、原告に対して任用期間満了後も任用が継続されると期待することが無理からぬものとみられる行為をしたというような特別な事情がある場合には、原告が誤った期待を抱いたことによる損害につき、被告の賠償責任を認める余地があり得る。しかしながら、本件嘱託要綱は、嘱託員について、その任用期間が満了したときに、別に通知することなく退職するものと明定していたばかりか、任用通知書にも、任用期間満了時に別に通知することなく退職する扱いとされることが明記されていたものであり、原告自身もその任用期間が1年間である旨の説明を受けていたことを認めている。しかも、原告主張の継続任用3要件に係る労使合意の存在を認めることはできない。これらを総合すると、本件において、被告に損害賠償責任を負わせるべきであるとする「特別の事情」を認めることはできない。
適用法規・条文
地方公務員法17条1項
収録文献(出典)
労働判例917号93頁
その他特記事項
本件は控訴された。