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G社嘱託社員解雇事件

事件の分類
解雇
事件名
G社嘱託社員解雇事件
事件番号
大阪地裁 − 平成7年(ワ)第11337号
当事者
原告 個人1名
被告 株式会社
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
1997年03月26日
判決決定区分
一部認容・一部棄却
事件の概要
 被告は、大学入学指導に関する企画、教室の経営等を業とする会社であり、原告は平成6年9月、被告にセクレタリーとして採用され、奈良営業所で勤務していた女性である。

 原告は採用後も職務に習熟せず、初歩的なミスが多かったため、先輩セクレタリーHは原告に対し厳しい態度をとるようになっていった。原告は、平成7年3月11日、嘱託新契約を平成8年3月10日までに更新したが、その後も原告の業務成績は向上せず、Hとの関係も悪化の一途を辿った。

 奈良営業所では、被告の内規に反する営業活動が行われていたことから、豊橋、岐阜、奈良の3営業所を統括するTは、Hから奈良営業所での出来事について報告を受けるようにしていたが、これに反発する営業員らの中にはHとTが愛人関係にあると陰口をたたく者もあった。原告はこの噂を真に受け、平成7年6月頃から、大阪事業本部に対しても、愛人関係の噂を持ち出しHを誹謗したことから、Hとの関係は一層険悪になった。

 平成7年7月20日、原告は被告東京本社に電話し、HとTが愛人関係にあること、Hについて使途不明金があること、Hが原告の勤務表を改竄すること等を訴えた。本社から調査の指示を受けた大阪事業本部の部長Dが調査した結果、上記愛人関係は事実無根であり、使途不明金なるものは説明のつくものであるとの調査結果を得、原告がHとの関係が険悪で、愛人関係に関する噂を各所に吹聴するなどして業務に支障を来していることが判明したため、原告を契約期間の中途で解雇することに決定した。

 同年8月9日、Dは解雇の件を話すため原告と会見し、ホテルの部屋で原告から不満を聞き、居酒屋において、原告の仕事振りに問題があること、愛人関係を吹聴するばかりか、本社にまで訴えるなどしたことの問題性を説明し、原告に退職を慫慂したところ、原告は一応納得した様子を示した。その後原告は、本社課長に対し、Dにホテルに連れて行かれ性的嫌がらせを受けた旨訴えたことから、Dは同月11日、原告に対し、同年9月15日付けで解雇することを言渡し、併せて自己都合退職の形をとることを勧め、原告も一応これを了承した。その後被告は原告に対し、同年9月11日、雇用契約解除に関する確認書を送って同月15日をもって原告を解雇し、更に平成8年1月27日、仮に本件解雇が無効であるとしても、原・被告間の嘱託社員契約は同年3月10日をもって解消する旨通知した。
 これに対し原告は、本件解雇はDによる性的嫌がらせ行為を隠蔽するため原告を社外に放逐しようとしてなされた悪質なものであって、違法かつ無効なものであると主張し、労働契約上の地位にあることの確認及び賃金の支払い並びにDの性的嫌がらせ行為による精神的苦痛に対する慰謝料100万円を請求した。
主文
1 被告は、原告に対し、18万0431円を支払え。

2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。

3 訴訟費用は原告の負担とする。
4 この判決は第1項に限り仮に執行することができる。
判決要旨
1 性的嫌がらせ行為の有無について

 原告は、Dが原告をホテルに連れ込もうとし、居酒屋で性的嫌がらせを伴う言動をした旨主張する。しかしながら、Dがチェックインのためにオテルに向かったことはその時刻(午後5時半頃)に照らし自然な行動であること、ホテルのロビーはさして広くなく、原告の供述のように周りの人が周囲を取り巻くような状況が発生するのは不自然であること、Dはホテルの部屋で1時間ほど原告の話を聞いた旨供述しており、そのような行動が疑念を抱かれる余地があるにもかかわらず、D自身部下の女性にその旨自発的に話していること等に照らすと、Dがホテルの部屋で1時間ほど原告の話を聞いたことは信用でき、原告を無理にホテルに連れ込もうとしたとの事実は認め難い。

 原告は、翌日に東京本社にホテルでの件を報告した際に、居酒屋の件を報告しないばかりか、ホテルの件も含めて、相談者に対しても直ちに相談等していないことが認められる等居酒屋においてDが原告主張のような言動に及んだことについてこれを裏付ける客観的な証拠がないことに照らすと、原告の主張はいずれも信用できない。

 原告は、本件性的嫌がらせ行為を被告本社に報告したことを理由に解雇する旨通告されたと主張するが、そもそも本件性的嫌がらせ行為自体、これを認めるに足りる証拠はないから、本件解雇を本件性的嫌がらせ行為を隠蔽するためになしたとする原告の主張はその理由がなく、原告の被告に対する不法行為に基づく損害賠償請求は、理由がない。

2 原告の解雇理由について

 原告が被告に採用された当時、奈良営業所でセクレタリー業務に当たっていたのはH1人であり、そのHとの関係が悪化する抜き難い要因として、原告がセクレタリー業務になかなか習熟しなかったことが挙げられること、原告と被告との嘱託契約が平成7年3月11日に更新されたとしてもそのことが原告の勤務成績優良であることの証左となるものではないこと、原告はその後もHの指導を受けることなく、大阪事業本部のセクレタリーに再三初歩的な職務上の問題点について電話で問合せを繰り返していることに照らすと、原告は、その勤務成績上相当の問題を有していたものと認めざるを得ない。

 HがTと緊密な連絡をとっていた事実は認められるが、Tは豊橋、岐阜及び奈良の3営業所を統括する立場にある以上、奈良営業所での実態について報告を求めるのは自然であること、平成6年から同7年頃の間、奈良営業所の営業員らとHとの関係が良好でなかったことに鑑みると、結局、愛人関係云々の風評は、総括所長であるTとこれに忠実なHに反発する営業員らによる誹謗に類する陰口と考えるのが自然であるというべきである。これに、原告とHの関係が険悪であったことと、原告の前任者がHとの不和の後に被告を退職したことを併せ考えると、原告がHに対する反発として、同人とTの関係や両名により奈良営業所の女性従業員が辞めさせられたなどの風評を吹聴したことは自然なものとしてこれを認めることができるのである。

 原告は、Hが勤務表を改竄したと主張するが、改竄の事実の確認は困難であること、Hの指示等により勤務予定表と実際の勤務実績に食い違いが生じたとしても、結局それは原告とHの勤務時間帯を交換したに過ぎないこと、その際原告がHに対し何らかの異議申立てをした形跡がないこと、勤務時間帯の交換により原告に生じる不利益はさほど大きなものとまではいい難いこと、原告は採用以来Hの厳格な指導に充分適応することができず、平成7年6月当時にはHとの人間関係を極めて悪化させていたことに鑑みると、Hによる勤務表の改竄なる不正行為の存在はなお疑わしいものといわざるを得ない。仮に原告にとって不本意な勤務時間帯の交換を迫られたことがあったとしても、それをもって、大阪事業本部を飛び越して東京本社にまで報告する価値を有する重大な不正とまでは到底考え難いこと、原告はHとTの愛人関係等について吹聴したり、Hに関する不満を大阪本部セクレタリー等に訴えていたこと等に照らすと、原告は被告東京本社に対し、Hによる勤務表改竄の件のみならず、Hに関する不満や風評も充分な裏づけなしに申し述べたものと認めるのが自然である。したがって、原告の主張はこれを採用することができない。

 以上の次第であるから、原告の前記所為に対し、被告が嘱託社員就業規則(与えられた仕事に適さない等社員として不適当と認められたとき)を適用してなした本件解雇は、社会通念上相当なものとしてこれを是認することができ、これをもって解雇権の濫用であるというべき余地はない。したがって、原告は、平成7年9月15日をもって被告との間の労働契約上の地位を喪失したものというべきである。
 以上から、原告の請求は、平成7年8月11日から同年9月15日までの賃金18万0431円の支払いを求める限度で理由があるからこれを認容し、その余はいずれも理由がないからこれを棄却する。
適用法規・条文
なし
収録文献(出典)
労働判例716号72頁
その他特記事項