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Hカンツリー倶楽部キャディー雇止事件
- 事件の分類
- 雇止め
- 事件名
- Hカンツリー倶楽部キャディー雇止事件
- 事件番号
- 横浜地裁 − 平成9年(ヨ)第184号
- 当事者
- その他債権者 個人1名
その他債務者 株式会社 - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 決定
- 判決決定年月日
- 1997年06月27日
- 判決決定区分
- 一部認容・一部却下
- 事件の概要
- 債務者は、ゴルフ場の経営等を目的とする株式会社で、Hカンツリー倶楽部を営業しており、債権者は平成元年3月16日、期間を定めることなく債務者のパートキャディーとして雇用された女性であり、平成6年1月2日以降は1年ごとの雇用契約で債務者に雇用され、平成8年4月1日から班長として勤務していた。
債務者は、債権者が上司を批判したことが就業規則に定める越権行為に該当すること、協調性に欠け、他の班長の意見を聞かずに単独行動をとっていたことが就業規則に定める専断行為に該当すること、債務者の許可なく事故についての債務者の対応を批判する文書を班員に配布するとともに上司批判のビラを配布したことが、就業規則で禁止する行為に当たることなどを挙げて、平成8年11月16日、債権者に対し、同年12月15日の雇用契約満了後は雇用契約を更新しない旨告知した。
これに対し債権者は、債務者の主張する懲戒事由について否定するとともに、債務者との間では7年9ヶ月もの間雇用契約を継続しており、あたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態が成立していたから、解雇事由と同等の事情がなければ雇止めは許されないところ、債権者にはそのような事情はないから債務者による本件雇止めは解雇権の濫用であると主張して、債務者に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることを仮に定めることと賃金を仮に支払うことを求めて仮処分命令の申立てを行った。 - 主文
- 1 債務者は、債権者に対し、平成9年1月から本案の第1審判決の言渡しに至るまで、毎月25日限り、1ヶ月当たり28万8103円を仮に支払え。
2 債権者のその余の申立てを却下する。
3 申立費用は債務者の負担とする。 - 判決要旨
- 債権者は1年間と期間を限定した雇用形態とされているが、債権者はもともと期間の定めなくパートキャディーとして雇用されたものであり、期間の定めのある契約に変更する際も、雇用契約上の地位が特に不利益、不安定なものになることは予定されておらず、債務者も雇用期間の更新を拒否する理由がなければ、更に1年間更新されるものであることを認めている。また当時パートキャディーは約100名在籍し、平成8年12月15日の期間満了時に更新されなかった者は債権者以外には2名しかおらず、そのうち1名は欠勤が多く、もう1名は無断欠勤が1ヶ月続いたというものである。右の事情に鑑みると、債権者は形式上は1年ごとの雇用契約になっていたものの、右契約は反復して更新されて従前の期間の定めのない雇用契約が継続するのと実質的に異ならない状態となっていたのであり、しかも債権者は平成8年4月に任期を1年間とする班長に任命されていることを考慮すると、右雇用契約は更新を当然の前提とするものであって、債権者が期間満了後も雇用を継続すべきものと期待することに合理的理由があると認められ、債務者の雇用契約の更新拒絶は、実質上解雇と同視されるから、本件雇止めについては、解雇が許される場合と同等の事由の存在が必要というべきであり、右の事由の存在が認められないときは、解雇権の濫用として、右雇止めは無効というべきである。
債権者は平成8年4月1日、班長に任命され、安全衛生委員会委員を兼ねることになり、同委員会の席で、報告がなかった事故について指摘をしたほか、その内容を班員に文書で周知させた。債務者は債権者によるこの行為が越権であること、債権者は極端な意見主張が多く、専断行為が見られること、事故の際に会社や客に迷惑をかけないように対処すべきこと等を記載し債務者の対応を批判する文書をミーティングの際に配布したこと、会社や上司を批判するビラを配布したことを挙げ、これらの行為が就業規則の懲戒事由である「越権又は専断の行為があったとき」「会社の許可なく、会社施設への貼り紙及び掲示、又はビラ類を配布したとき」に該当すると主張するが、債権者に懲戒事由に当たる行為があったとの債務者の主張は理由がない。なお、債務者は本件において、雇止めの正当な理由として、債権者にいわゆる通常解雇の事由があったとの主張をしていないが、本件に顕れた事情によると、債権者は正邪の区別をはっきりさせる性格であることが窺える。したがって、それだけに他の者には協調性に問題があると映ったり、他との融和に欠けると受け取られたり、感情的な言動があると評される場合もあるやもしれないところであるが、仮にそのような事情が認められたりしても、そのことのみでは債務者の業務が阻害されたり、債権者がキャディーとして不適格であると認むべき事情がない限り、普通解雇の事由ともなり得ないものである。よって、債務者がした債権者に対する雇止めは、その正当な理由を欠くものであって、解雇権の濫用というべく無効である。
債権者は夫及び長男と同居し、長男及び二男とも無職で、夫の月収も手取りで25万円程度であることが認められるから、賃金の仮払いの必要性が認められる。債務者による本件雇止めは無効であり、債権者と債務者との間の雇用契約は有効に存続していると認められるが、本件雇止めが債権者の直接の上司との間の事故処理を巡るトラブルを決定的動機としてなされたものと推認されるところ、債権者が仮処分命令を得て現実に就労するとなると、労働の現場に困難が生ずる虞を否定し難いこと、右仮処分命令はもともと債務者の任意の履行を期待するものに過ぎないこと、労働者の最も重要な権利は賃金請求権であるところ、賃金相当額の仮払いが命ぜられてこれが保全されていること等の事情を考慮すると、労働契約上の権利を有することを仮に定める旨の仮処分については、その保全の必要性を否定するのが相当である。 - 適用法規・条文
- なし
- 収録文献(出典)
- 労働判例721号30頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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