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K社パート雇止事件

事件の分類
雇止め
事件名
K社パート雇止事件
事件番号
盛岡地裁 − 平成7年(ワ)第217号
当事者
原告 個人2名 A、B
被告 株式会社
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
1998年04月24日
判決決定区分
一部認容・一部棄却
事件の概要
 被告は、建物の総合維持管理、病院における食器洗浄等の事業を営む会社であり、I医科大学の患者給食部門のうち食器洗浄、配膳、下膳などの仕事を請け負っていた。

原告Aは、昭和63年9月、被告とパートタイマーとしての雇用契約を締結し、雇用期間を昭和63年9月6日から平成元年4月10日までとする雇用契約書に署名押印し、その後も毎年3月頃、雇用期間を翌年4月10日までとする契約書に署名押印してきた。原告Bは、平成5年12月、被告とパートタイマーとして雇用契約を締結し、平成6年3月頃、雇用期間を平成7年4月10日までとする雇用契約書に署名押印した。

 被告では、労働契約に定める期限が到来した場合にも、業務縮小がない限り継続して労働者を雇っていく方針であり、特に労働者に意思確認せずに、継続稼働を前提として、稼働日の調整などをしていたが、原告らが平成6年6月頃労働組合に加入したことなどから、被告は同年11月頃から原告らパートタイマーに対し、労働契約が1年契約であると説明するようになった。被告は、平成7年3月11日に、原告らに対し、同年4月10日をもって労働契約を終了させる者もある旨説明した上で、同年4月3日、原告らを含む5名に対し、労働契約終了の意思表示をした。なお、これら5名のうち組合員でない1名は同年5月に再雇用されたほか、被告では平成7年4月以降、労働契約が更新されなかったパートタイマーはいない。
 これに対し原告らは、本件労働契約は期間の定めのないものといえるから、本件意思表示は解雇の意思表示であるというべきであり、仮に期間のある労働契約であるとしても、被告が医大病院の現場の業務請負契約を打ち切られるなど真にやむを得ない事情がない限り、双方とも更新継続されるものと考えていたのであるから、実質的には期間の定めのない労働契約と異ならず、本件意思表示を雇止めと解したとしても解雇に関する法理が類推適用されるべきであると主張した。その上で、本件意思表示は稼働人員縮小の必要がないのに行ったものであるから解雇権の濫用に当たること、原告らの組合活動を嫌悪して行ったものであるから不当労働行為にあたることとして、労働契約上の権利の確認と賃金の支払いを請求した。
主文
1 被告は、原告Aに対し、金295万5232円及び平成10年3月8日限り金9万2973円をそれぞれ支払え。

2 被告は、原告Bに対し、金80万8217円を支払え。

3 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

4 訴訟費用は、これを3分し、その1を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。
5 この判決は、原告ら勝訴部分に限り、仮に執行することができる。
判決要旨
 原告らは、最初の労働契約の締結時に雇用期間についての明確な説明がなく、また、原告Aについては相当な回数更新を重ねてきたといった事情を考慮しても、毎年期間を1年と明確に定める雇用契約書に署名押印してその契約書の交付を受けていたのであるから、その契約内容を了知していたものといわざるを得ず、被告の業務形態、その就業規則の内容などからすれば、原告らと被告との労働契約が原告らが主張するような期間の定めのない労働契約であるとか、或いは実質的には期間の定めのない労働契約と同視できるものであるとまで認めることはできない。

 被告は、経営上人員を削減する必要性がなく、医大病院との業務請負契約も平成7年3月には既に更新のための契約をしていたことから、原告らを含む5名と労働契約を更新しなければ、医大病院の現場での業務に従事する人員が逼迫するにもかかわらず、あえて一度に右現場から5名の人員削減を行ったことが明らかであり、合理的理由がないのに原告らとの労働家約を更新しなかったことになる。被告は、少なくとも平成6年末までには、労働組合に原告らが加入したことを知っており、これらの者を企業外に排除するため雇用期間満了にかこつけて、人員縮小の必要もないのに、あえて原告らの労働契約を更新しなかったものと推認するのが相当であり、そうであるとすれば、被告は原告らが労働組合に加入していることをもって差別的な取扱いをしたものと解せざるを得ないから、被告が原告らとの労働契約を更新しなかったことには何ら正当な理由がないものというほかない。

 ところで、たとえ期間の定めのある労働契約であったとしても、労働者において、その更新について相当程度の期待が持たれる事情が認められ、一方、雇用者においても更新を拒絶するについて正当な理由がない場合には、右更新拒絶は権利の濫用として無効になると解するのが相当である。これを本件についてみれば、原告らと被告の間の労働契約については、原告らにおいて、医大病院の現場での業務に特段の事情の変更がないところから、これまでと同様に右契約が更新されることについて相当程度の期待を持ち得る事情があり、他方、被告においても、原告らのようなパートタイム従業員について、特段の事情の変更がなければ当然に労働契約を更新するのが通例の扱いであったのに、その勤務態度につき取り立てて問題もない原告らについて、労働組合に加入していたというただそのことをもって右契約の更新を拒絶したものというべきであり、右更新拒絶に正当な理由があると言えないことは明らかであるから、本件意思表示は権利の濫用として無効なものと解するのが相当である。右のように、期間の定めのある労働契約の更新拒絶が無効である場合には、従前の労働契約が当然に更新され、その結果、その更新の蓋然性が認められる限りにおいて、原告らと被告との間で従前と同様の条件による労働契約が継続していくものと解すべきである。
 被告の就業規則によれば、「従業員」と原告らパートタイマーなどの「特別勤務者」とは画然と区別され、文言上は定年制は従業員にのみ適用され、原告ら特別勤務者に直ちに定年制を適用して、当然に60歳に達した日の月の末日をもって退職となり、労働契約上の地位を失うとは解し得ない。ところで、期間の定めのある労働契約が、雇用者の雇止めの意思表示の無効によって更新されたとみなされる場合であっても、これが期間の定めのない労働契約に転化するものではなく、あくまでも労働契約上の地位が存続するか否かは、その後も更新を重ねられるか否かの蓋然性によるべきところである。そうすると、被告の従業員について定められた定年制が直ちに原告らに適用されるものではないとしても、右従業員の定年が60歳であって、たとえ従業員であったとしても当然に再雇用が認められるわけではないことに鑑みると、少なくとも、原告らにつき、60歳に達する月の末日までは右契約上の地位の存続の蓋然性を認めることができるが、それ以降については、右時期が更新の一応の見直し時期と解される以上、存続の蓋然性を認めることはできないというべきである。そうすると、原告Aについては平成10年2月末日、原告Bについては平成8年8月末日をもって、いずれも労働契約上の地位を失ったものというべきである。
適用法規・条文
なし
収録文献(出典)
労働経済判例速報1677号6頁、平成11年労働関係判例命令要旨集56頁
その他特記事項