判例データベース
K学園非常勤講師雇止事件
- 事件の分類
- 雇止め
- 事件名
- K学園非常勤講師雇止事件
- 事件番号
- 浦和地裁 − 平成10年(ワ)第709号
- 当事者
- 原告 個人1名
被告 学校法人 - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2000年03月17日
- 判決決定区分
- 棄却
- 事件の概要
- 被告は、K高校・中学を設置、経営する学校法人であり、原告は、平成元年4月、大学卒業後に被告高校に非常勤講師として採用され、平成3年4月から平成8年度までの間、常勤講師として1年ごとに契約更新をされてきた者である。原告は、採用及び契約更新の際、当該契約が期限付きのものであり、その期間を契約の日から翌年3月31日までとする旨の約定が記載された契約書に署名押印し被告に提出していた。
被告高校では平成9年度に生徒数が大幅に減少することから、原告を含む常勤講師、非常勤講師の一部を平成8年度限りで雇止めすることとし、平成9年1月27日、原告に対し、同年3月31日の雇用期間の満了をもって、以後雇用契約を更新しない旨通知した。これに対し原告は、人員削減の必要はないこと、仮にその必要があったとしても、常勤講師である原告を雇止めすることは不合理であること、原告の採用に当たって、被告のY理事が、誠実に勤務すればいずれ教諭にする旨約束し、その後契約更新をする度にその約束を確認していたことなどを挙げ、本件雇止めについては解雇に関する法理が適用ないし類推適用されるところ、本件雇止めは何ら合理的な理由が存在せず、解雇権の濫用に当たり無効であるとして、被告の教職員としての雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認と給与・賞与の支払いを請求した。 - 主文
- 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。 - 判決要旨
- 原告の職務の種類、内容、勤務形態、採用に際しての雇用契約の期間等についての被告側の説明、契約更新時の新契約締結の形式手続きの有無、契約更新の回数、同様の地位にある他の被雇用者の継続雇用の有無を検討し、その結果、期間の定めのある雇用契約があたかも期間の定めのない雇用契約と実質的に異ならない状態で存在し、あるいは少なくとも被雇用者が期間満了後の雇用の継続を期待することに合理性が認められる場合には、本件雇止めに解雇の法理が適用ないし類推適用されるというべきである。
原告が被告高校への就職を決めたのは、Y理事から教諭になる道があることを示唆されたためであり、その後もY理事は原告に対し教諭になれるという期待を持たせるような態度を示していたこと、平成6年度までは更新について被告から話合いを求めることもなく、身分の変更を伴う場合以外には辞令も交付していないこと、校長が団交において、契約が2年以上継続している者について継続雇用を認めるかのような発言をしているこが認められ、被告が原告に対して雇用の継続を期待させるような言動を示していたことそれ自体は否定することができない。
被告高校においては、常勤講師と専任教諭とでは、契約の方式が異なっているのみならず、学級担任の有無という重要な点が異なっていることが認められるが、常勤講師の実質においては、副担任や部活動の顧問及び校務分掌をも担当するものであって、原告自身も、専任教諭とほぼ同様の職務を遂行していたことが認められるから、常勤講師と専任教諭との職務内容は、それほど大きくないということができる。
非常勤講師から常勤講師を経て専任教諭になった者はほとんどいないから、原告の供述するような非常勤講師から常勤講師、専任教諭というルートが確立していたとまで認めることはできない。しかしながら、平成6年度に新たに採用された教員に対してのみ再試験が課され、平成5年度までに採用された原告らに対してはその試験が課されなかったのは、それまでの契約更新による雇用の継続を重視していたからであることが認められ、被告高校においては、少なくとも平成5年度までに採用された教員に対しては、常勤講師、非常勤講師であっても、契約更新による雇用の継続の事実がある程度尊重されていたものということができる。これに加えて、原告と被告との間では、7回にわたって雇用契約が更新されていること等を総合考慮すると、原告と被告との間の雇用契約は、その期間の定めを無視することはできないが、少なくとも原告において期間満了後の雇用の継続を期待することには合理性があったと認めることができる。したがって、本件雇止めには、解雇の法理が適用ないし類推適用されるべきものといわなければならない。
被告高校における常勤講師は、非常勤講師とともに、生徒数及び学級数の増減に対応するために、1年という期間を定めて雇用されたものであり、本件において原告が期間満了後の雇用の継続を期待することには合理性が認められるが、期間の定めがなく雇用されている専任教諭とは、被告との間の契約関係の存続の要否・程度に自ずから差異があるといわざるを得ないから、原告に対する本件雇止めが解雇権の濫用に当たるか否かを判断するに際しても、被告に相当程度の裁量が認められると解すべきものであって、それまで雇用していた常勤講師、非常勤講師を雇止めにする必要がないのに、原告に対してのみ恣意的に雇用契約を終了させようとしたなど、その裁量の範囲を逸脱したと認められるような事情のない限り、本件雇止めを解雇権の濫用ということはできない。そして、右の見地から本件をみると、平成6年度に大量入学した生徒が卒業した平成9年度における生徒数の急激な減少という事態を迎え、それまで雇用していた常勤講師、非常勤講師の一部の者と雇用契約を終了させる必要があったところ、その雇止めの対象となった原告についても、その他の者についても、それまでの教務に特段の問題があったようには窺われない。他方雇用契約が更新された常勤講師、非常勤講師についても、そのような事情は窺われないので、そのいずれかを雇止めの対象とするほかなかったところ、被告において、原告に対してのみそれまで1年毎に継続されてきた雇用契約を恣意的に終了させるために本件雇止めに至ったなど、本件雇止めが原告に対する解雇権の濫用に当たるという事情は認めることができないから、原告の主張は、これを採用することができない。 - 適用法規・条文
- なし
- 収録文献(出典)
- 労働経済判例速報1756号14頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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