判例データベース
I福祉会保母配転・解雇上告事件
- 事件の分類
- 解雇
- 事件名
- I福祉会保母配転・解雇上告事件
- 事件番号
- 最高裁 − 平成15年(受)第1099号
- 当事者
- 上告人 社会福祉法人
被上告人 個人1名 - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2006年03月28日
- 判決決定区分
- 原判決変更
- 事件の概要
- 被上告人(被控訴人・附帯控訴人、原告)は、昭和48年7月に上告人(控訴人・附帯被控訴人、被告)に雇用され、保母として勤務してきた女性である。
上告人は、被上告人の勤務態度が不良であり、保母の業務をさせられないとして、平成10年10月の理事会で事実上解雇の決定をしたが、被上告人は翌年55歳の定年を迎えることから退職を穏便に進めるため、同年11月1日に清掃美化整備業務に配転し、その後上告人の休息場所を物置として使用していた2階に指定し、平成11年4月には用務員への配転命令を出すとともに、同月30日の55歳到達をもって定年退職するよう通告した。しかし被上告人がこれを拒否したため、同年5月18日付けをもって被上告人を解雇した。これに対し被上告人は、本件解雇は解雇権の濫用として無効であるとして、解雇無効の確認及び賃金の支払い並びに精神的苦痛に対する慰謝料500万円を請求した。
第1審、第2審とも、本件配転は業務上の必要性に比較して被上告人の被る不利益が著しいとして無効とし、解雇理由とされた被上告人の勤務不良についても、その証拠が認められないか、認められるものでも口頭で注意すれば足りる程度のものが大半であるとして、本件解雇は解雇権の濫用として無効であると判断した。また、上告人の一連の行為により被上告人は著しい精神的苦痛を受けたとして、慰謝料100万円、弁護士費用120万円(第1審は100万円)の支払いを命じたことから、上告人はその取消しを求めて上告したものである。
なお、被上告人は解雇された後、他で就労し収入を得ていたが、民法536条2項但書により、その利益は使用者に償還すべきところ、労働基準法26条で使用者の責によって休業を余儀なくされた場合、平均賃金の6割の休業手当の支払い義務があることから、解雇期間中に得た利益の4割を控除することとした。 - 主文
- 1 原判決を次のとおり変更する。
第1審判決を次のとおり変更する。
(1)被上告人が上告人との間の雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
(2)上告人は、被上告人に対し、245万7762円及びこれに対する平成11年6月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3)上告人は、被上告人に対し、890万5688円及びうち91万6322円に対する平成13年8月7日から、うち93万0348円に対する同14年12月12日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(4)上告人は、被上告人に対し、平成15年1月1日から号16年4月30日まで毎月末日限り24万0102円を支払え。
(5)被上告人のその余の請求を棄却する。
2 訴訟の総費用は、これを3分し、その2を上告人の負担とし、その余を被上告人の負担とする。 - 判決要旨
- 使用者の責めに帰すべき事由によって解雇された労働者が解雇期間中に他の職に就いて利益(中間利益)を得たときは、使用者は、当該労働者に解雇期間中の賃金を支払うに当たり中間利益の額を賃金額から控除することができるが、上記賃金額のうち労働基準法12条1項所定の平均賃金の6割に達するまでの部分については利益控除の対象とすることが禁止されているものと解するのが相当である。したがって、使用者が労働者に対して負う解雇期間中の賃金支払債務の額のうち平均賃金の6割を超える部分から当該賃金の支給対象期間と時期的に対応する期間内に得た中間利益の額を控除することは許されるものと解すべきであり、上記中間利益の額が平均賃金の4割を超える場合には、更に平均賃金算定の基礎に算入されない賃金(同条4項所定の賃金)の全額を対象として利益額を控除することが許されるものと解される。
(具体的な賃金の算定部分 略) - 適用法規・条文
- 民法536条2項、労働基準法26条
- 収録文献(出典)
- 労働判例933号12頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
熊本地裁八代支部 − 平成12年(ワ)第80号 | 一部認容・一部棄却(控訴) | 2002年03月05日 |
福岡高裁 - 平成14年(ネ)第372号 | 一部認容・一部棄却(上告) | 2003年03月26日 |
最高裁 − 平成15年(受)第1099号 | 原判決変更 | 2006年03月28日 |