判例データベース
S社雇止事件
- 事件の分類
- 雇止め
- 事件名
- S社雇止事件
- 事件番号
- 大阪地裁 − 平成16年(ワ)第5672号
- 当事者
- 原告 個人1名
被告 株式会社 - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2005年05月13日
- 判決決定区分
- 棄却
- 事件の概要
- 被告は、リネンサプライ業を営む株式会社であり、原告は平成12年8月、雇用期間を6ヶ月と定めて被告に雇用された日系ペルー人女性である。原告は平成13年3月30、妊娠を理由に一旦被告を退職し、平成14年2月1日、雇用期間を6ヶ月と定めて被告に雇用され、以後3回原告・被告間で雇用契約が締結された。
被告は、時々の業務量等に応じて有期雇用の従業員と再契約を締結していたが、外国人従業員については突然本国に帰国する例があったことなどから、その就労意思を確認するため、雇用契約の終了後直ちに契約を締結しないこともあった。
被告は、原告との契約期間が満了する平成15年8月、原告に対し、雇用期間を同月13日から平成16年2月12日までとする雇用契約書を交付し、働く意思がある場合には雇用契約書を提出するよう求めたが、原告はこれを提出しなかった。原告は、平成16年1月16日、通勤途上に交通事故に遭い、翌日欠勤したが診断書を提出しなかった。原告の診断書には「全治まで10日間を要する見込み」と記載されていたが、原告は10日が過ぎた同月26日以降も被告に連絡することなく欠勤を続けた。被告は、同年2月13日に原告の給与支給が完了した後、原告に対し、雇用契約が同月12日に期間満了により終了したことを説明した上、退職慰労金3万円を原告に交付し、原告はこれを受領した。
これに対し原告は、本件契約は実質的には期間の定めのない労働契約と異ならない状態
になっていたところ、傷病を理由とする1ヶ月程度の欠勤で雇止めをすることは、社会通念上できないこと、診断書を提出しなかったとしても、被告は原告が傷病のため出勤できる状態にないことは十分に推察でき、被告の業務に大きな支障を来したわけでもないから、本件雇止めに合理的な理由はないこと、本件雇止めは、原告が組合員であるが故に傷病による休業を奇貨として行われた不当労働行為であることを主張し、解雇の無効による従業員としての地位の確認と、賃金及び休業損害金を請求した。 - 主文
- 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。 - 判決要旨
- 1 実質的には期間の定めのない労働契約と異ならない状態になっていたか
被告は、原告を含む有期雇用の従業員については需給状況に応じて雇止めを行っており、雇用期間満了の都度、当該従業員に対し雇用契約書を渡し、そこにサインをするよう求めていたのであって、このことや、本件において、被告が更新を期待させるような言動をとったとの事実が認められないことも併せ考慮すると、本件契約が期間の定めのない雇用契約と実質的に異ならない状態にあったとまではいえない。しかし、他面、原告の担当業務は、短期間で完結するような臨時的作業といった性質のものではなく、原告との間においても平成14年2月以来3回にわたり契約が更新されていること、契約の更新手続きは必ずしも厳格には行われておらず、期間満了後に雇用契約書が作成されたり、原告が雇用契約書にサインして提出するのを怠っていても、被告がそれを放置したこともあったことなどを考慮すると、本件契約は有期雇用契約ではあるが、ある程度継続することが期待されていたものというべきである。したがって、原告を雇止めにするに当たっては、解雇に関する法理が類推され、解雇であれば解雇権の濫用、信義則違反又は不当労働行為などに該当して解雇無効とされるような事実関係の下に被告が新たな契約を締結しなかったとすれば、期間満了後の被告と原告との間の法律関係は、従前の雇用契約が更新されたのと同様の法律関係になると解すべきである。
2 本件雇止めの合理性
本件契約には解雇に関する法理が類推されるというべきであるが、本件契約は短期雇用契約であるから、期間の定めのない雇用契約とは自ずから合理的な差異があるといわなければならない。原告は交通事故に遭い、以後就労が不可能な状態となり、期間満了まで被告を欠勤したに留まらず、診断書を提出するようにとの被告の指示に反して欠勤を続け、これにより業務にも支障を来したのであって、このような事情に鑑みると、被告が原告を雇止めにしたことには、客観的に合理的な理由があるといわざるを得ない。
被告が本件契約の雇用期間満了までに原告に対して雇止めの意思表示を行っていないことは被告の自認するところであるが、少なくとも本件のように実質的に期間の定めのない雇用契約と異ならない状態にまでは至っていない事案においては、解雇に関する法理が類推されるといっても、雇用関係の終了の効果が生じるために雇用期間満了前に雇止めの意思表示をすることを要するとまでいうことはできない。
3 不当労働行為に該当の有無
被告が原告の組合加入を知ったのは、本件の雇止めの後であるから、被告に不当労働行為の意思があったとは認め難く、本件の雇止めについて不当労働行為に該当する事実があったということはできない。 - 適用法規・条文
- なし
- 収録文献(出典)
- 労働経済判例速報1906号24頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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