判例データベース
S食品会社控訴事件
- 事件の分類
- セクシュアル・ハラスメント
- 事件名
- S食品会社控訴事件
- 事件番号
- 広島高裁 − 平成16年(ネ)第163号
- 当事者
- 控訴人 食品会社
被控訴人 個人1名 - 業種
- 製造業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2004年09月02日
- 判決決定区分
- 棄却(確定)
- 事件の概要
- 被控訴人(原告)は、控訴人(被告)の準社員として勤務していたが、平成12年秋以降、上司らから性的中傷や執拗なセクシャル・ハラスメントを受け、控訴人も適切なセクハラ対策を取っておらず、またセクハラ被害が起こってからの事後の対応も適切でなかったとして、夫とともに、セクハラ加害者であるCとその使用者である控訴人に対して、不法行為に基づく慰謝料を請求した。
第1審では、被害者である被控訴人の主張をほぼ認め、加害者Cに対して145万円、控訴人に対して55万円の慰藉料及び弁護士費用を認めたが、夫の請求は棄却した。これに対し、控訴人は、労働関係機関から指摘を受けたことを契機として、会議の席上でセクシャル・ハラスメント防止について注意を喚起するとともに、支店営業所に対してはポスターの貼付を指示したこと、本件加害者であるC及びDも会議に出席しており、会社の方針を十分認識していたこと、平成12年当時、セクシャル・ハラスメントが禁止行為であることは既に公知の事実であり、会社からあえて指摘するまでもなく当然認識しておくべきであったことを指摘し、本件は個人の問題であって会社に責任を負わせるのは結果責任を負わせるものであって不当であると主張し、第1審の取消しを求めて控訴した。 - 主文
- 1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。 - 判決要旨
- 使用者は、従業員に対し、良好な職場環境を整備すべき法的義務を負うと解すべきであって、セクシャル・ハラスメントの防止に関しても、職場における禁止事項を明確にし、これを周知徹底するための啓発活動を行うなど、適切な措置を講じることが要請される。したがって、使用者がこれを怠った結果、従業員に対するセクシャル・ハラスメントという事態を招いた場合、使用者は従業員に対する不法行為責任を免れないと解すべきである。
しかも、平成11年4月1日、セクシャル・ハラスメントの防止に係る事業主の責務を明示した男女雇用機会均等法の改正法が施行され、指針が適用されるに至ったのであるから、同日以降、使用者としては、その防止のための適切な措置を講じることが一層強く要請されるというべきである。
ところが、控訴人は、従前、セクシャル・ハラスメントの防止に向けた具体的措置を社内において何ら講じたことがなかったこと、平成12年9月に至って公的機関から注意の電話があったため、同年10月、初めて支店長・所長会議の席上で、総務部長からセクシャル・ハラスメントについて注意し、その防止のポスターを貼る等の指示をしたこと、Cは会議に出席しながら露骨かつ執拗なセクシャル・ハラスメントに及んだこと、同会議に出席していたDも被控訴人に対し性的中傷に及んだことが認められ、C及びDがいずれも管理職の地位にあることを併せ考えれば、控訴人のとった措置は十分な予防効果のないものであったという評価を免れない。
控訴人としては、公的機関からセクシャル・ハラスメントについて具体的な指摘を受けた以上、直ちに被害者が安心して申告できるような窓口を社内に設置し、セクシャル・ハラスメントを行った者に対しては懲戒処分もあることを告示するなど、これを防止するより強力な措置を講じる必要があったというべきである。ところが、控訴人がこれらの措置を講じたのは本件被害が発生して以後であり、公的機関から指摘された時点で直ちに適切な措置を講じていれば、セクシャル・ハラスメントは許されないという社内意識が涵養され、本件のような事態にはならなかったであろうことが推認される。
そうすると、本件セクシャル・ハラスメントを控訴人が主張するような個人的問題に帰することは適当ではなく、控訴人の、良好な職場環境を整備すべき義務違反の不作為が本件セクシャル・ハラスメントの一因になったと認められるから、控訴人は被控訴人に対する不法行為責任を負うというべきである。
控訴人の不作為の程度、内容、C及びDの行ったセクシャル・ハラスメントの内容、両名の控訴人における地位、控訴人のとった事後的対応等を総合考慮すると、被控訴人に対する慰謝料としては50万円をもって相当と認める。また、本件控訴の難易や認容額等を考慮すると、控訴人の支払うべき弁護士費用のうち5万円の限度で控訴人の不法行為と相当因果関係を認める。 - 適用法規・条文
- 民法715条
- 収録文献(出典)
- 労働判例881号29頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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山口地裁下関支部 − 平成13年(ワ)第281号 | 一部認容・一部棄却(控訴) | 2004年02月24日 |
広島高裁 − 平成16年(ネ)第163号 | 棄却(確定) | 2004年09月02日 |