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熊本教会・幼稚園控訴事件

事件の分類
セクシュアル・ハラスメント
事件名
熊本教会・幼稚園控訴事件
事件番号
大阪高裁 − 平成15年(ネ)第3442号、大阪高裁 − 平成16年(ネ)第606号
当事者
控訴人(附帯被控訴人) 個人1名

被控訴人(附帯控訴人) 個人1名
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2005年04月22日
判決決定区分
一部認容・一部棄却
事件の概要
 大学を卒業してキリスト教教会に雇用された被控訴人(原告)は、控訴人(被告)である教会の主任担当教師(牧師)から、数々のセクハラ行為を受け、退職を余儀なくされただけでなく、PTSDに罹患して再就職もできなくなったとして、慰藉料等1100万円を請求した。一審では、控訴人のセクハラ行為によりPTSDに準じる重篤な精神的被害を被ったと認定して、被告に対し慰謝料300万円、弁護士費用50万円の支払いを命じた。控訴人はこれを不服として控訴するとともに、被控訴人は附帯控訴した。
主文
判決要旨
 控訴人の被控訴人に対する卑猥な語りかけ、夜間の2人だけのドライブ、傘に入ってきて腕を組んだこと、車内での接触、更に控訴人が少なからぬ回数被控訴人に身体的接触した等の一連の行為は、性的意図をもっての被控訴人を困惑させるためのものであって、倫理的な非難の枠を超え、社会通念上相当とされる範囲を逸脱し、被控訴人に対する性的嫌がらせ行為であるといわざるを得ず、控訴人は民法709条の不法行為責任を負うことは明らかである。

被控訴人は22歳で神への献身と将来の希望に燃えて赴任したが、聖俗いずれの場面でも絶対的優位者としての地位・立場にあった控訴人から孤立無援の状態でセクハラ等の被害を受けたわけで、被控訴人の被った精神的苦痛は相当なものであったと推測される。他方、控訴人のセクハラ行為による被害は、平成12年7月までであって、それ以降は伝道師らの助力も合って直接の被害がなかったことは被控訴人自身も認めているところである。   

被控訴人は、平成13年2月9日に教会を退職し、自宅に戻って同年4月1日から教学補佐の職を得たが、体調を崩して休職し解雇された。被控訴人は、本件加害行為によるPTSDであると主張し、診断した医師も、被控訴人はPTSDの3大症状に該当する規定数の症状すべてが存在し、被控訴人のPTSDは、控訴人によって加えられた性的嫌がらせ及び情緒的虐待を原因として生じたものと考えて何ら矛盾を生じるものではない等との意見書を開陳している。しかし、同意見書が挙げる被控訴人の症状は、大きな精神的苦痛を受けた被害者であれば通常認められる症状であることや、PTSDは心的外傷体験から6ヶ月以内の発症が原則であることからすると、この意見書は採用できない。

被控訴人が同医師の長期にわたる面接診断を受けながら体調を悪化させたのは、被控訴人が事情を訴えた教会や大学の関係者が真摯に向き合ってくれなかったことの悔しさ、本件提訴が周囲の人に迷惑をかけているのではないかとの自罰的負担、信徒が牧師を相手取って提訴することの心理的負担等のストレスなどが相俟っていると考えざるを得ないところ、平成13年4月以降の被控訴人の体調不良は、一連の控訴人の行為とは無関係ではないものの、上記のような事情が原因となっていると推測されるので、控訴人の一連の加害行為と法的因果関係があるとは認め難い。
控訴人のセクハラ行為等による慰謝料としては、本件が聖俗いずれかの場面でも絶対的優位者としての地位、立場にあった控訴人が高圧的態度、優位的地位を誇示したものであって、被控訴人が長期間孤立無援の状態にあって多大の精神的苦痛を被ったことを斟酌するのは当然であるが、平成13年4月以降の被控訴人の体調不良は控訴人の加害行為と法的な因果関係があるとは認められないところである。これからすると、控訴人の加害行為による慰謝料は150万円をもって相当と判断する。そして弁護士費用のうち、控訴人の不法行為と相当因果関係を有する弁護士費用は20万円と認める。
適用法規・条文
民法709条
収録文献(出典)
労働判例892号90頁
その他特記事項