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M社配転拒否仮処分申請事件
- 事件の分類
- 配置転換
- 事件名
- M社配転拒否仮処分申請事件
- 事件番号
- 名古屋地裁 − 昭和54年(ヨ)第333号
- 当事者
- その他申請人 個人1名
その他被申請人 株式会社 - 業種
- 卸売・小売業・飲食店
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1979年07月19日
- 判決決定区分
- 却下
- 事件の概要
- 被申請人は、全国各地及び海外に多数の支店、営業所を有する総合商社であり、申請人は昭和37年4月、大卒の幹部候補生として被申請人に雇用された者である。被申請人の就業規則によれば、幹部社員の勤務場所は全店(全世界)にわたるとされている。
申請人は、入社当初から名古屋支社に配属され、昭和45年10月以降同53年3月末までの間は名古屋開発建設部に所属していた。ところが、同年4月1日、申請人は勤務成績不良を理由に同支社人事厚生部付への配転を命じられ(別件配転命令)、異議を留めてこれに応じたが、別件配転命令は申請人の組合活動及び思想信条を理由とする不当なものであり、同学歴の者に比し少なくとも年間約200万円の賃金差別を受けているとして、その無効確認及び差別賃金相当額の損害賠償を求めて訴えを提起した(別件訴訟)。
人事厚生部付は臨時的ポストであるため、被申請人は申請人を配転させようとしたが、名古屋支社には受入先がないため、昭和54年3月30日、申請人の知識・経験を生かせるポストとして、東京本社開発建設総括部総務企画課へ配転を命じた(本件配転命令)。これに対し申請人は、本件配転命令は別件訴訟の妨害を目的とするものである等を理由に人事権の濫用であって無効であるとして、これを差し止める仮処分申請を行ったところ、裁判所は同日これを受け容れたため、その日被申請人は本件配転命令の辞令を交付することができなかった。同年4月2日、被申請人は申請人に対し4月定期異動の一環として上記配転を命じたところ、申請人は上記理由のほか、妻も被申請人の社員として勤務しており、二女を抱えていることから、転勤すれば別居を余儀なくされて生活上甚大な不利益を受けること、昇給・昇格なき本件配転命令は報復人事に当たり、権利の濫用として無効であることを主張し、本件配転命令の効力を停止する仮処分申請を行った。他方、被申請人は、本件配転命令は法律行為としての意思表示ではなから、民事訴訟上有効無効の判断の対象ではなく、請求自体が失当であると主張したほか、本件配転命令の正当性を主張して争った。 - 主文
- 1 本件申請を却下する。
2 申請費用は申請人の負担とする。 - 判決要旨
- 申請人は大学卒の幹部候補社員としてその職種を限定されず、勤務場所は全店(全世界)に及ぶという条件のもとに被申請人に入社したものであるが、職種や勤務場所に限定がないからといって、これら労働条件が雇用契約の内容になっていなかったと判断するのは相当ではなく、かえってその職務内容の非限定性、勤務場所の広汎性からみると、幹部候補社員にとっては、右各条件は重要な要素というべく、申請人は契約締結の際右条件を充分理解しこれを承諾して入社したものと認めるのが相当である。すると被申請人は契約の本旨に従い、業務上の必要性に応じて申請人の職種、勤務場所を個別的同意なしに決定・変更し得る権限を有するものと認められる。そしてその権限行使は正当な範囲に止めるべきで濫用してはならないことは当然である。本件配転命令も、かかる被申請人の変更権の行使に他ならないところ、右権利行使は労働条件の重要な部分の変更をもたらすものであり、雇用契約によって被申請人に与えられた形成権の行使と解され、それによって申請人の法的地位に変動を生ずると解されるから、その権限の行使の当否は当然民事訴訟の対象となり得ると解する。
被申請人には申請人の職種、勤務場所について大幅な裁量の余地が認められるべきであり、本件配転命令が業務上の必要性や人選の妥当性について相当な理由を備えるものである以上、右配転命令に従うことによって申請人に著しい不利益、例えばその生活関係を根底から覆す等の特別な事情の存しない限り、権利の濫用ということはできない。
元来、人事厚生部付は臨時的・変則的な職場であり、申請人も右部付から離脱して本来的職場への復帰を望んでいた等から、部付の期間が1年という短期間であることは、本件配転命令の不当性につながるものではない。そして被申請人が申請人の配転先を探すに際し、名古屋支社には受入先がないため東京支社に勤務場所を求めたことは無理からぬことというべきであり、これに伴う従来の営業部門から管理部門への職種変更も、恣意的なものではなく、一般的事務たることに変わりはなく、しかも申請人は入社以来17年間もの長きにわたり名古屋支社に在籍していることにも鑑みれば、人選の妥当性にも問題はない。以上によれば、本件配転命令は相当な理由に基づくものと認められる。
申請人は、本件配転命令は昇格・昇給を伴わず、別件訴訟を妨害する目的でなした報復人事であると主張するが、本件配転命令は相当の理由を有し、定期人事異動の一環として行われたものであり、また一般に配転と昇格・昇給は随伴するものではない。むしろ申請人が入社以来十数年にわたり名古屋支社から動かず、勤務成績も良好でないという配転の決定事由が別件訴訟提起前から存在していた点に鑑みると、訴訟妨害の配転と推測することは当を得ず、被申請人が人事異動に籍口し、もっぱら訴訟妨害の目的で本件配転命令をなしたという申請人の主張は認められない。
申請人は東京へ転勤することによって妻子と別居せざるを得なくなり、子供の養育についても妻1人にその負担がかかることになるなど、二重生活による相当の経済上・精神上の不利益を蒙ることが推測される。しかし別居するとしても妻の収入には変化がなく、申請人には東京において単身用の宿泊施設が用意され、別居手当も支給されるというのであるから、別居によって生活上甚大な不利益が生ずるとは到底認め難く、元来一般職従業員である申請人には転勤があり得ることであり、それによって共稼ぎ夫婦である申請人ら夫婦が妻が退職しない限り別居せざるを得なくなることは、申請人らにとって入社の時期に当然予想すべき事態であったといえるから、これを理由とする申請人の権利濫用の主張は失当である。してみると、本件転任命令は有効である。 - 適用法規・条文
- 収録文献(出典)
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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