判例データベース
社団法人配転損害賠償等請求事件
- 事件の分類
- 配置転換
- 事件名
- 社団法人配転損害賠償等請求事件
- 事件番号
- 大阪地裁 - 平成15年(ワ)第13365号
- 当事者
- 原告 個人1名
被告 個人1名A
被告 社団法人 - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2006年03月17日
- 判決決定区分
- 一部認容・一部棄却
- 事件の概要
- 被告社団は、国の委託を受けて国が設置した病院等の経営を行う社団法人、被告Aは平成7年から被告病院の看護局長の地位にあった者であり、原告は被告病院に看護師として就職し、平成9年4月から婦長(その後「科長」)に昇進し、手術室の科長として勤務していた女性である。
原告は平成14年7月24日、被告Aと意見が合わず、辞意を伝えて帰宅して年休及び病休を取得したが、慰留されて同年8月15日から再び出勤するようになった。原告は、同日付で科長室へ、同年11月1日付けで透析室へ、平成15年7月16日付けで科長室へ、同年10月16日付けで外科外来へそれぞれ配転された。この間原告はこれまでの業務についての反省レポートの作成を命じられるなどしたが、これに応じなかった。
原告は、本件各配転は同人を退職に追い込むものであり、配転命令権の濫用で無効であるとして、(1)被告社団との間で、外科外来で勤務する雇用契約上の義務がないことの確認、(2)不当な各配転を行ったことと、その過程において仕事を与えず放置するなど原告の人権を蹂躙したことを理由として、被告社団に対して慰謝料の支払いを請求するとともに、被告Aが原告を精神病扱いして退職を強要するなど、原告の名誉を毀損したなどとして、被告Aに対しては不法行為を理由に、被告社団に対しては使用者責任を理由に、連帯して慰謝料を支払うよう請求した。 - 主文
- 判決要旨
- 平成14年8月15日付けで原告を科長室へ配転した理由は、原告が一旦辞意を伝えて帰宅してしまったことに加え、その後3週間にわたり病気休暇を含めて休暇を取得したこと、診断書に「心因反応」と記載されていたことによることが認められ、被告社団が手術室の科長の職務を継続させることに不安を感じることはやむを得なかったというべきである。以上によると、1回目の科長室への配転には理由があり、配転命令権を濫用した事情を窺うことはできない。原告自身、1回目の科長室への配転が違法と争っているのであるから、科長室からの配転の必要性については問題なく、透析室への配転の必要性については、原告が透析室で担当していた業務の内容に照らすと、その必要性を否定することはできない。したがって透析室への配転に配転命令権を濫用したという事情は窺えない。
被告Aは、平成15年7月9日の科長会において、1部交代制へ変更したことを理由に原告を叱責し、その直後科長室への配転を予告しており、本件配転の理由は1部交代制への変更に関連していることが認められる。しかし、原告が科長室での業務として指示を受けた月間業務予定表とタイムスクリップとの不整合の訂正・修正作業は1週間程度で終わるものであり、この作業をさせるためだけに原告を科長室に配転させる必要性を見出し難い。また、原告はレポート作成を拒否したが、これについて何らかの処分がなされた形跡もないから、仮に原告に反省させる必要があったとしても、透析室における職を解き、科長室へ配転しなければならない程度の必要性があったとは認められない。しかも配転先における業務内容が上記のような内容であったことに照らすと、本件配転命令自体合理的な必要性があったとは窺えず、配転命令権の裁量の範囲を逸脱したものであり、違法というべきである。原告に看護師業務を与えずに、科長室に配置し続けることは違法であると思われる以上、科長室からの配転を命じること自体について、その理由の有無を問題にする必要はないと考える。原告の配置された外科外来の部署は、本来係長クラスの看護師が配置されていることが窺われるが、整形外科外来及びリハビリテーション外来にはB科長が配置されていることに加え、被告病院が原告を看護師としてどの部署に配置するかは、基本的に被告病院の人事権に属するところ、上記の事情だけで、科長である原告を外科外来に配置することが配転命令権の濫用であると認めるに十分な証拠はない。
以上によると、2回目の科長室への配転については配転命令権の濫用というべきであり、違法といわざるを得ないが、他の配転については、違法性を認めることはできない。2回目の科長室への配転の結果、原告は精神的損害を受けたというべきであり、被告社団の不法行為を構成するものである。その態様は、3ヶ月の間看護師としての仕事を与えられず、看護師としての存在価値を否定するのに等しく、その精神的損害の程度は重く、その慰謝料としては50万円をもって相当と認める。
被告Aは、原告が科長室に配属されている間、原告が病気であることを前提とした会話をしているが、少なくとも最初に原告が科長室に配転された時点では心因反応という診断がなされており、被告Aの口調も、当初は原告の症状を気遣う側面を有しており、これを直ちに違法ということはできない。また、原告が2回目に科長室へ配転された後も、被告Aは原告について「被害妄想」「正常な判断ができない」などと表現することがあったことが窺えるが、一連の会話の中でこれらの言葉が発せられたからといって、直ちに不法行為が成立するとはいえない。原告は2回目に科長室へ配転された後、仕事らしい仕事を与えられてはいなかったことが認められるが、これだけで被告Aが原告に対する個人的な嫌がらせ、退職強要目的、故意に周囲の見せしめにしたとまで認めることは困難である。被告Aが、原告の行動について情報を収集したり、原告に対しかつての部下との接触を避けるよう指示したりしたことは窺えるが、原告の管理能力を知るための重要な情報を収集すること、原告からの接触を負担に感じる者がいるという認識の下に必要のない接触を避けるよう指示したことをもって、直ちに不法行為が成立すると認めることはできない。以上によると、被告A個人の行為による原告に対する不法行為を認めることはできないというべきである。 - 適用法規・条文
- 民法709条
- 収録文献(出典)
- 平成19年労働関係判例命令要旨集211頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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