判例データベース
婚姻外交際暴行等事件
- 事件の分類
- セクシュアル・ハラスメント
- 事件名
- 婚姻外交際暴行等事件
- 事件番号
- 仙台地裁 − 平成18年(ワ)第1123号
- 当事者
- 原告(反訴被告) 個人1名
被告(反訴原告) 個人1名 - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2007年12月19日
- 判決決定区分
- 一部認容・一部棄却
- 事件の概要
- 原告(反訴被告)はフリーの女性アナウンサーであり、被告(反訴原告)は独立行政法人A大学の教授である。原告と被告は、平成16年5月、インターネットの出会い系サイトで知り合い、メールの交換をするようになった。
同年10月に両者は東京で出会い、原告は被告に妻子があることを知ったが、肉体関係を伴う親密な交際を始め、被告の出席する海外での学会等にも同伴するようになった。原告と被告がドレスデンに滞在していた平成18年6月20日、被告が受信していたメールのメモを取ろうとした原告と、これを止めさせようとする被告との間で口論になった。その際被告は大声で罵声を浴びせて原告を突き飛ばし、原告は椅子から転げ落ち、臀部を打った。その後被告は原告に謝罪したが、原告は右前腕挫傷と診断され、帰国後改めて受診したところ、両肘部・両大腿部・腰部・仙骨部・臀部打撲及び血腫と診断された。
被告は原告に対する暴行を否認し、もみ合いの際に原告がバランスを崩して椅子から転げ落ちたと主張したが、他方メールでは、原告を心身共に傷つけたことなどについて謝罪し、関係を修復したい旨の内容の文面を記載した。
原告は、被告による暴行によって負傷を負った外、精神的に著しい苦痛を受けたとして、被告に対し、治療費8万5360円及び慰謝料300万円を請求した。これに対し被告は、原告がA大学関係者不特定多数に宛てて、事実無根の内容を記載した書簡を送り、これによって著しく名誉を毀損されたとして、慰謝料900万円及び弁護士費用100万円を請求する反訴を提起した。 - 主文
- 1 本訴被告(反訴原告)は、本訴原告(反訴被告)に対し、11万3325円及びこれに対する平成18年8月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 本訴原告(反訴被告)のその余の本訴請求、本訴被告(反訴原告)の反訴請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、本訴反訴を通じてこれを5分し、その1を本訴原告(反訴被告)の負担とし、その余を本訴被告(反訴原告)の負担とする。
4 この判決の第1項は仮に執行することができる。 - 判決要旨
- 被告が主張するように、被告が椅子から立ち上がり、左に向きを変えたところ、原告が床に倒れていたという状況は不自然であって採用することができず、被告が原告との口論の際、腹立ち紛れに原告を突き飛ばしたために、原告が椅子から床に転倒したと認めるのが相当である。原告が被告の暴行により受けた傷害は、打撲による受傷であり、打撲による受傷後、疼痛は経時的に軽減することが多いこと、疼痛は主観的なものであり、PTSDなどで精神状態が悪化すれば疼痛が増大することもあることが認められる。
原告と被告は、原告が傷害を負った翌日のドレスデン滞在中に、被告が妻子を捨てて原告と一緒になることを拒否したことが原因で原告から別れ話を長時間にわたってしており、従前通りの関係を継続していたいと望んでいた被告との間で意見が一致せず、翌日原告が帰国した事実が認められる。
原告と被告は、被告に妻子があることを原告が知った後においても親密な関係を継続し、原告から被告の所属する運動部や被告の子供らに対し、被告を誹謗中傷するような手紙を送付したことがあって、被告から別れ話が出たりしながらも交際を続けており、その結果、原被告の関係が本訴に至るまでの経過をたどったことには、原告被告の双方に原因があったということができる。被告による上記暴行によって原告に精神的苦痛が生じたとしても、原告の受傷の程度に照らして、そのほとんどは原被告間の男女関係のもつれによって生じたものというべきである。平成18年6月25日から30日にかけて原告が受けた治療については、被告の不法行為との間に因果関係を認めることができるが、その後の治療については相当因果関係を認めることができず、当該期間の治療費等は1万3325円と認め、被告の暴行による精神的苦痛を慰謝するには、10万円をもって相当と認める。
被告は、原告がA大学宛送付した被告の性的素行の悪さ等を記載した書簡によって名誉が毀損されたと主張するが、書簡の受け手はA大学の関係者であるから、文章の理解力がある者らであり、かかる書簡を読めば、原被告間に男女間の交際を巡る紛争があり、それが原因で被告を誹謗中傷するような書簡が勤務先に送付されたことは容易に理解できたと認めることができるから、これら書簡の送付が被告の周囲を混乱させたことは認められるものの、被告の社会的評価を低下させたと直ちにいうことはできず、被告の名誉が毀損されたものとは認められない。
被告には妻子がありながら、原被告間には2年間に及ぶ婚姻外の男女の交際期間があったことが認められる。この期間、婚姻外の男女関係を原告と継続してきた被告が、原告とこれまで同様の関係の継続を望み、被告との婚姻を望んでかかる関係の継続を断った原告との男女関係を巡る紛争から上記書簡の送付に至ったのであるが、かかる紛争を生ぜしめたことには被告にも責任がある。上記書簡の内容には、被告と学生との関係が指摘されているのであるから、A大学が記載内容を大学関係者で構成された委員会によって事情聴取を実施したことは、大学にとって正当な手続きであったと評価できるものであり、被告が調査対象になったことで業務が妨害されたということはできない。 - 適用法規・条文
- 民法709条
- 収録文献(出典)
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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