判例データベース
持株会社解散事件
- 事件の分類
- セクシュアル・ハラスメント
- 事件名
- 持株会社解散事件
- 事件番号
- 東京地裁 − 平成15年(ワ)第24649号
- 当事者
- 原告個人1名
被告個人1名M
被告Aホーム従業員持株会、Aホーム株式会社 - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2006年06月26日
- 判決決定区分
- 一部認容・一部却下・一部棄却(控訴)
- 事件の概要
- 被告Aホーム株式会社(以下「被告会社」)は、不動産向けの物件情報提供サービス、雑誌発行等を行う会社であり、被告Aホーム従業員持株会(以下「被告持株会」)は、会社との一体感の高揚及び従業員の財産形成等の福利厚生を目的として設立された団体であって、被告会社の従業員がその会員資格を有し、会員が毎月一定額を持株会に拠出し、その拠出金をもって被告持株会が被告会社の株式を購入し、会員は拠出金に応じた持分を取得することになっていた。一方原告は、被告会社に23年間勤務してきた女性社員である。
被告持株会の理事長である被告Mは、平成15年3月6日付けの文書で、被告持株会の会員に対して、その保有する全持株を1株当たり3000円で被告会社に売却し、被告持株会を解散することを説明し、会員総会に代えて会員の過半数の同意書をもって承認可決する旨通知した。これに対し原告は、会員総会を開催しないこと、3000円という単価が適正か不明であること等を理由に被告Mに対し被告持株会の解散に異議を述べたが、同月31日付けで過半数の同意を得たとして、被告持株会は全株式を被告会社に売却した上で、同年4月末日に解散した。
原告はそれまで提携取引先との連絡窓口を担当する職にあったが、同年5月21日付けでITP事業部に配置転換された。配転先ではセクハラ言動が日常化しており、原告がその点について苦情を申し立てると、セクハラ発言を繰り返す男性社員が、かつて原告にストーカー行為をしていた外注業者の連絡先を探すような発言をして原告を脅した。
原告は、被告持株会解散の決議の不存在、原告と被告らとの間で、被告会社の株式の持分に相当する90万3647円を被告持株会に対して有することの確認、配置転換及び配転先におけるセクハラ言動による慰謝料100万円(各50万円)を被告会社に対して請求した。 - 主文
- 1 原告の被告Mに対する各訴え、被告A株式会社に対する解散決議不存在確認及び株式持分等の各訴え並びに被告Aホーム従業員持株会に対する解散決議不存在確認の訴えをいずれも却下する。
2 被告Aホーム株式会社は、原告に対し、金70万円及びこれに対する平成15年11月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 原告の被告A株式会社に対するその余の請求及び被告Aホーム従業員持株会に対するその余の請求を、いずれも棄却する。
4 訴訟費用は、原告と被告Aホーム株式会社との間においては、原告に生じた費用の8分の1を同被告の負担とし、その余は各自の負担とし、原告と被告M及び被告Aホーム従業員持株会との間においては全部原告の負担とする。
5 この判決は、第2項に限り、仮に執行することができる。 - 判決要旨
- 1 本件解散決議の不存在確認の訴えの利益、被告会社及び被告Mに対する確認の訴えの被告適格等
いずれも確認の利益を認めることはできない。
2 被告持株会の解散について
被告会社は平成9年12月頃、株式を公開しないこと及び被告持株会に対して株式の第三者割当をしないことを決めたため、遅くともその頃には被告持株会は被告会社の株式を継続的に購入することが困難になったと認めることができる。しかしながら、民法682条ないし68条の「目的である事業の不能」というためには、法律上・事実上目的の達成が不可能なことが客観的に確定的となることを要すると解すべきである。本件においては、被告会社が株式を公開しないこと及び被告持株会に対して株式の第三者割当をしない方針を決めたとはいえ、方針転換の可能性もあり、他からの株式取得の可能性も残されていたのであるから、従業員の財産形成などの福利厚生を図るという被告持株会の目的の達成が法律上・事実上不可能となったということはできない。したがって、被告持株会が平成9年末までにその事業の成功の不能により当然に解散したとの被告らの主張は採用できない。
被告持株会の解散決議の要件は、当該団体の規模、目的、意思決定の方法、構成員の結合形態等の事情を考慮して解釈すべき問題であるということができる。その会員は最大で248名、平成15年3月当時も136名を数え、相当大規模であるとともに会員は全国及び海外に点在していること、被告持株会の目的は従業員の福利厚生であって会員各自において何らかの事業活動を行うことは予定されていないこと、規約によれば、理事の選任及び規約の変更について、理事会が書面を作成した上で各会員に通知し、これに対する異議が一定数以上に達しない場合には、理事会の書面どおり決定するという方法が定められていたことが認められ、そうすると被告持株会の解散に当たっても、会員総会の開催は必ずしも必要ではなく、書面決議をもって足りると解するのが相当である。また本件規約上、規約の変更には3分の2以上の賛成が必要であることからすれば、過半数の同意をもって可決したことについては問題がないわけではない。しかしながら、被告持株会は解散の理由について会員に説明を行っていること、同意書には同意欄しか設けられていないが、同意しない場合には同意書を提出しないとか反対する旨の書面を提出する手段が存在すること、会員は1株当たり1500円から2000円で持分を取得して毎年かなり高率の配当額を得てきたことからすれば、1株3000円とする売却価格が不当に低廉とはいえないこと、当時の会員136名中125名から同意書を得ていることからすれば、結果的には優に3分の2以上の賛成を得て決議されたものであって、過半数の同意を要件とした手続きの問題は実質的には治癒したといえることに照らせば、同意書の提出をもってした本件解散決議は有効というべきである。
3 本件配置転換の違法性
使用者が行った配転命令が不法行為を構成するか否かについては、当該配転命令が発せられた経緯、その業務上の必要性、配転候補者選定上の人選基準及び具体的な人選の合理性、当該従業員の経歴、その他諸般の事情を総合勘案して判断するのが相当である。
これを本件についてみると、被告会社は平成15年1月に、原告が従前所属していた「財務部受注管理グループ」の職務を営業所に移管することを決定し、原告に同営業所への転勤を打診して拒否されたこと、原告の異動希望先はIT知識を要する部署であるとして受け容れなかったこと、被告会社は同年5月20日付けで新たな役職制度を創設したことが認められる。しかしながら、本件配置転換の内示がなされた同年4月22日は、原告が被告持株会の解散に反対する旨の意思表示をした後、社長自ら振込依頼書を提出するよう要求したことに対し原告が断った翌日であること、本件配転後の原告の職務は、図面等に誤りがないか点検する作業であり、それまで行っていた業務に比べると機械的な作業であったこと、被告会社の総務統括部統括部長が、原告が本件訴訟を取り下げれば通常の従業員として遇すると証言したことに照らすと、本件配置転換は原告が被告持株会の解散に強く反対したことをその理由とするものであったと推認することができる。そして、本件配置転換は、被告会社に長年勤務してきた原告にとって著しい不利益を伴うものであるというべきであり、これらの事情に照らすと、本件配転命令は不法行為を構成する違法なものというべきである。
4 セクハラ発言等の有無及び違法性
原告が配置転換を受けた部署において、男性社員が性的な発言を繰り返し、それに対し原告が苦情を申し立てたところ、その男性が、かつて原告につきまとい行為を行っていた者の名前を挙げ、あたかもその者に連絡を取るかのような発言をしたことが認められ、これらの発言は、原告の平穏な職場環境において働く利益を違法に侵害するものというべきである。そして、上記発言はいずれも被告会社で働く男性によって勤務時間中になされたものであるから、被告会社は民法715条に基づき、原告に生じた損害を賠償する責任を負うというべきである。なお、被告会社はセクハラ防止の対策を講じていた旨主張しており、確かにセクハラの防止に努めるよう、管理者に対して書面を交付し、従業員に対して社内報を交付するなどしていたものの、それをもって選任及び監督について相当の注意をしたものということはできないから、被告会社は免責されないというべきである。
5 損害の有無ないしその額
上記のとおり、被告会社が原告に対し本件配置転換をした行為は違法であるというべきである。そして、原告は被告持株会の解散に対し反対の意思表示をすること自体は何ら不利益を課されるべき事柄でないにもかかわらず、これを理由に本件配置転換をされたものであり、多大な精神的苦痛を受けたと認められ、その慰謝料額は50万円と評価するのが相当である。また上記のとおり、被告会社の従業員の発言は違法であるというべきところ、原告はこれによって多大な精神的苦痛を受けたと認められ、その慰謝料額は20万円と評価するのが相当である。 - 適用法規・条文
- 民法682条、68条、709条、715条
- 収録文献(出典)
- 労働判例934号82頁
- その他特記事項
- 本件は控訴された。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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