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社会福祉法人F会介助員雇止事件

事件の分類
雇止め
事件名
社会福祉法人F会介助員雇止事件
事件番号
東京地裁 − 平成16年(ワ)第25060号
当事者
原告 個人1名
被告 社会福祉法人
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2006年01月20日
判決決定区分
棄却(控訴)
事件の概要
 被告は、児童養護施設、知的障害児施設の設置運営等を行う社会福祉法人であり、原告は、平成14年7月1日被告に雇用され、以後知的障害者施設において勤務していた介助員である。

 本件雇用契約の契約期間は、当初の契約書では、平成14年7月1日から同17年3月31日までの2年9ヶ月間であったが、これが労働基準法違反となることから、その後平成15年3月31日までの9ヶ月間に変更された。本件雇用契約は、同年4月1日から平成16年3月31日までの1年間更新されたが、社会福祉法人に対して8割以上常勤職員でなければならないという規制が撤廃されることが判明したため、被告は運転業務をアルバイトないし外部委託をもって賄うこととし、それまで児童を送迎するためのバス運転業務を行っていた原告に対し同年4月以降本件雇用契約を更新しないことを通知した。
 これに対し原告は、本件雇止めは解雇権の濫用に当たり無効であるとして、被告職員としての地位の確認と賃金の支払いを請求した。
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
判決要旨
 本件雇用契約関係が期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態に至っているとはいえないと思料するから、本件はいわゆる実質無期契約タイプとはいえない。

 本件においては、当初契約は2年9ヶ月の有期契約であり、その適法性はともかく、原告をして当初契約において合意した平成17年3月31日までの雇用継続を期待させた事実は否定できない。もっとも、そこから直ちに期間満了後の契約更新への合理的な期待が、当該契約締結時に生じたとまでいえるかは別問題である。原告の業務内容は知的障害児施設を設置運営する被告にとって、臨時的なものでないことはいうまでもない。そして原告の地位は、就業規則に「職員」として列記される介助員であって、「嘱託」「臨時または日々雇用された者」「パートタイマー」「非常勤職員」とは異なり、原告の契約上の地位は正職員というべきものである。他方、就業規則は正職員であっても雇用期間の定めのある者を予定しているものと解され、本件雇用期間は9ヶ月となったものである。

 これらに加え、被告は社会福祉法人としての性格上、公的補助金ないし措置費にその収入の多くを依存してきたところ、それらは年度ごとの予算の動向により変わり得るものであり、その事業ないし雇用も年度末ごとに見直しを強いられるものであること、他にも有期契約者で期間満了をもって雇止めされているものが複数存することが認められる。上記事情に鑑みると、本件は格別の意思表示や特段の支障がない限り当然更新されることを前提として契約が締結されたとは認められないところであり、原告に雇用継続の合理的期待があるとはいえず、いわゆる期待保護(継続特約)タイプとはいえないものと思料する。したがって、期間満了によって契約を終了させるためには、従来の取扱いを変更して契約を終了させてもやむを得ないと認められる特段の事情の存することを要するとまではいえない。
 結局のところ、本件はいわゆる純粋有期契約タイプに属するものというべきであり、契約期間の満了をもって退職となるものと解せられるから、上記特段の事情の存否に関係なく、本件雇止めが信義則に反することはないものというべきである。以上によれば、本件雇用契約には解雇権濫用の法理を類推適用すべき事情が存在するとはいえないから、本件雇止めにより、本件雇用契約は平成16年3月31日をもって期間満了により終了し、原告は同日をもって被告を退職したものというべきである。
適用法規・条文
07:労働基準法14条,
収録文献(出典)
労働判例911号91頁
その他特記事項
本件は控訴された。