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印刷・製本会社雇止事件

事件の分類
雇止め
事件名
印刷・製本会社雇止事件
事件番号
札幌地裁 − 平成18年(ヨ)第118号
当事者
その他債権者 個人1名
その他債務者 株式会社
業種
製造業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2006年11月07日
判決決定区分
却下
事件の概要
 債務者は、F社とS社の合併により平成16年4月1日に設立された印刷業・製本業等を営む株式会社であり、債権者A及び同Bは、それぞれ昭和38年6月、昭和57年4月にF社に正社員として入社し、合併後は雇用期間1年間の契約社員として債務者に勤務していた男性であり、債権者Cは平成4年4月にF社に正社員として入社し、合併後は雇用期間1年間の契約社員として債務者に勤務していた女性、債権者Dは平成17年3月に債務者にパートとして雇用された女性である。債権者らは、いずれも労働組合員であるが、債権者A以外の組合加入は、本件雇止めの通知を受けて以後である。

 F社は平成14年頃から財務体力が低下したことなどから、S社と合併することとし、合併に当たって80名程度の希望退職者を募集した。債権者A及び同Bは、いずれも希望退職募集に応じて退職し、平成16年4月1日から1年間契約社員として雇用された。同じく希望退職募集に応じた債権者Cは、当初契約社員としての雇用は予定されていなかったが、納品課に配属する予定だった者の退職の補充のため、平成16年4月1日から1年間契約社員として雇用された。また、債権者Dは、債務者の試験的な営業補助者の募集に応じ、平成17年3月から1年間の契約社員として債務者に雇用された。

 債権者A、同B及び同C(以下「債権者Aら」)は、平成17年4月1日から1年間、契約社員としての雇用契約を更新され、更にその後も契約の更新を希望していたが、債務者は、平成18年1月の部長以上の役職者の会議において、債権者Aらについては、労働能力、勤務態度、協調性等に問題があり、他への配転も不可能であるとして契約を更新せず、債権者Dについては、営業補助者の採用が試験的であったことなどから契約更新しないことを決定し、同月末に債権者らを含む6名に対し、雇止めの通告をした。
 これに対し債権者らは、契約書に更新に関する記載をせず、期間が満了すれば契約が終了することを説明しなかったから、雇用期間の定めは例文に過ぎないなどとして本件雇止めの無効を主張し、債務者の従業員としての地位の保全等を求めて仮処分の申立てを行った。
主文
1 債権者らの請求を却下する。
2 訴訟費用は債権者らの負担とする。
判決要旨
1 本件契約の期間の定めの効力の有無

 雇用期間はその雇用契約の最も重要な要素の1つであり、一般的に同種の契約において雇用期間のみを除外して契約を締結することは、その契約の趣旨及び意義に反することは明らかであり、特段の事情のない限り、契約当時者の意思としても不自然かつ不合理である。そうすると、特段の事情がない限り、契約社員雇用契約における雇用期間の定めを例文と解することはできないところ、本件契約につき雇用期間の定めを例文とするような特段の事情は認められず、債権者らは、いずれも雇用期間が4月1日から翌年の3月31日であることが明示された本件契約書を作成しているのであるから、本件契約の内容全てについて合意をしていたというべきである。したがって、本件契約における雇用期間の定めは例文にすぎないものではなく、効力を有する。

2 雇用継続の期待の合理性と解雇権濫用法理の適用の有無

 有期雇用契約社員に対する雇止めをする場合と、正社員を解雇する場合とでは、自ずから合理的な差異があるべきであるが、有期雇用契約社員において雇用が継続されることについて合理的と認められる期待がある場合には、正社員を解雇する場合の解雇権濫用の法理を類推適用し、雇止めの効力を否定し得ると解すべきである。そして、その期待の合理性の有無は、当該有期契約社員についての雇用の臨時性又は常用性の有無、それまでの更新の回数及び雇用の通算期間、契約期間管理の状況、雇用継続の期待を持たせる言動や制度の有無などの事情を考慮して判断するのが相当である。

(1)当該雇用の臨時性・常用性について

 債権者Bは、本件合併後に社内報等の一時的な増加が見込まれたため契約社員として雇用されることになったのであり、その雇用は臨時的なものであった。債権者Cは、本件合併後の債務者において納品課に配置を予定していた者が退職したため、作業場所の改造が済むまでの間契約社員として雇用されることになったのであり、その雇用は臨時的なものであった。債権者Dは、本来一時的な営業補助者としての採用であり、その雇用は臨時的なものであった。したがって、債権者B、同C及び同Dの雇用はいずれも臨時的なものであって、常用性を肯定することはできない。

(2)更新の回数及び雇用の通算期間について

 債権者Aらは、いずれも1回契約更新がされただけで、契約社員としての雇用の通算期間は2年にすぎず、債権者Dは契約の更新がなく、同通算期間は1年にすぎない。したがって、債権者らについて、それまでの契約更新の反復などにより、その雇用が継続される期待を持つことができるような状況があったとはいえない。

(3)契約期間管理の状況について

 債務者においては、雇用期間の満了前に、契約社員の希望を聴取した上で、部長以上による会議を開いて契約更新をするか否かを決め、その結果を契約社員に伝えていたこと、本件契約の締結や更新に当たっては、雇用期間が明記された本件契約書を作成していたことからすれば、その契約期間管理は厳格に行われていたといえる。

(4)雇用継続の期待を持たせる言動、制度について

 債権者らは、F社(債務者)が面接時や雇用契約時において、債権者らに対し雇用継続の期待を持たせる発言をしたなどと主張するが、債権者A及び同Bの個人面接時にその主張に係る言動があったとは認められず、債権者C及び同Dも、いずれも臨時的に雇用するために本件契約を締結したものであり、期間が1年間の契約社員であることが明示されていたことからすれば、F社又は債務者において、債権者らとの面接時や本件契約締結時に面接者等が債権者らに対し、雇用継続についての合理的な期待を持たせるような発言をすることは考え難い。
 以上のとおり、債権者B、同C及び同Dについては、雇用が臨時的であったこと、債権者Aらの契約更新回数は1回だけで、同Dについては契約更新はなく、雇用の通算期間も短いこと、契約期間管理の状況は厳格であること、雇用継続の期待を持たせるような言動等があったとはいえないことに加え、特に債権者Aは組合員であり、本件合併がF社の経営状況の改善のために行われ、合併に伴う人員整理のために希望退職募集や契約社員としての雇用が行われたという債務者における状況を認識し、そのような認識の下に本件契約を締結したことを総合的に考慮すれば、債権者らにおいて、雇用継続の合理的な期待を有していたと評価することはできない。したがって、本件雇止めに解雇権濫用の法理を類推適用する前提があるとはいえない。
適用法規・条文
収録文献(出典)
労働判例935号79頁
その他特記事項