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M社会福祉法人雇止事件

事件の分類
雇止め
事件名
M社会福祉法人雇止事件
事件番号
大阪地裁 - 平成18年(ワ)第4584号
当事者
原告 個人1名
被告 社会福祉法人
業種
公務
判決・決定
判決
判決決定年月日
2007年11月16日
判決決定区分
棄却
事件の概要
 被告は、社会福祉事業を主たる目的とする社会福祉法人であり、原告は被告の設置する精神病者等の通所施設である大淀寮において、通所事業の担当として採用された女性職員である。

 改正前実施要領では、通所施設には専任の職員配置として直接処遇職員を3名以上、うち常勤職員は少なくとも2名以上配置することとされていたが、改正実施要領により、平成16年4月からは、定員10名以上の場合は従来通りであるが、定員5名以上10名未満の場合は、専任の直接処遇職員2名以上、うち常勤職員は1名以上とすることとされた。

 原告は、平成16年11月15日、被告の臨時職員として同月30日までの雇用契約を締結し、1回目の更新として同年12月1日から平成17年3月31日まで、更に2回目の更新として同年4月1日から平成18年3月31日までとする雇用契約を締結したが、被告は同日をもって原告の雇用を打ち切った。
 これに対し原告は、(1)実施要領上大淀寮ではもう1名の専任職員が必須であったこと、(2)更新回数は2回で、通算雇用期間は1年5ヶ月と相当な期間になっていること、(3)被告は原告に対し、平成18年4月以降も契約更新がなされるものとの強い期待を抱かせる言動をとっていたこと、(4)原告が勤務していた間、雇止めがされた前例を聞いたことはなかったことなどから、平成18年4月以降も契約が更新されるものと期待するのが当然の状況にあり、解雇権濫用法理が類推適用されるところ、本件雇止めには合理的な理由はないから無効であるとして、被告の従業員としての地位の確認と賃金の支払いを請求した。
主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
判決要旨
 大淀寮では通所事業の定員数が10名を下回ることはなく、実施要領上専任職員を3名配置すべきところ、実際には原告を含めて2名しかおらず、もう1人専任職員を雇用しなければならない状況にあったことが認められるが、専任職員が不足したからといって、直ちに原告との雇用契約の継続性が保障されるというものではない。かえって、通所事業は年度ごとに知事に対して実施申請を行って継続の適否が決定される性質のものであり、事業の継続性が保障されたものではないこと、主な収入である大阪市からの支弁費の額は利用者数によって増減するため、専任職員は全員臨時職員として雇用されていたことが認められる。

 原被告間の雇用契約の更新回数は2回であり、雇用期間は通算して1年5ヶ月であったことが認められる。大淀寮では臨時職員の雇用期間は一律1年とされているところ、原告は月半ばの採用であったため、会計年度の終期に合わせて雇用期間を区切った後、本来の1年の雇用期間を定めた雇用契約を締結したことが認められるから、更新回数2回とはいえ、本来予定されていた1年を雇用期間とする契約についての更新が重ねられたものではなく、専ら会計上の便宜から更新を重ねた体裁になっているに過ぎない。

 更新の都度、被告は原告と面談し、雇用期間について告げるとともに、契約書を作成していること、平成17年3月31日付け契約書には、それまでの契約書にはなかった更新についての注意書きがあり、「更新する」ではなく、「更新する場合がある」に丸印が付けられ、契約期間満了時に、それまでの勤務態度、能力及び業務量をもとに更新するかどうかを判断すると記されており、当然に更新されるものではないことが明示されていること、臨時職員の中には雇止めされた者もいたことが認められる。これらの事実を併せてみれば、仮に原告が平成16年12月1日の更新時に、平成17年4月以降も更新すると言われた事実があったにせよ、これをもって平成18年4月以降の更新まで保障されたとの期待を抱かせる言動ということはできない。
 これまで認定したところを総合すれば、平成18年3月31日以降も契約が更新されると原告が期待したことには合理性はなく、本件雇止めに解雇権濫用法理を類推適用する余地はない。
適用法規・条文
収録文献(出典)
労働経済判例速報1993号22頁
その他特記事項